連載 第4回 2006年7月号

現住所は、世界のカケラ! 〜各都市の住宅事情〜

今回のテーマは、「住」です。
都市という「森」を見る時、そこにある住宅という「木」は、文化や社会を反映している本質的な構成要素です。これは、「働」や「憩」といった他の「木」と同様、人が集まって住み始めた歴史を思い起こしても明らかでしょう。
逆に、個人の生活レベルというミクロな視点から振り返っても、住宅は生活と一体であり、多くの活動の基本となっています。
では、「住宅」という窓越しでの各都市の眺め、楽しんでください!

一級建築士事務所 スタジオOJMM
代表 牧尾晴喜



Queenslander


寺西悦子
オーストラリア
ブリスベン
町中はビルの立ち並ぶブリスベンだが、郊外に行くと、高床式の木造住宅を見ることができる。Queenslander(クイーンズランダー)と呼ばれている。ここクイーンズランド州の夏は熱帯で、湿気も多いといった気候に合わせて造られている。ベランダが広く、木造で高床式になっており、約100年から150年前に立てられた様式。今では、建て直しされているものも多く、1階部分がガレージになっていたりする。リゾート地では、観光客向けや、別荘としてこの様式を好む人も多い。
私が、ここブリスベンで家を探す時に、アパートかマンションかクイーンズランダーか、という分類がされていた。このクイーンズランダーは、学生が一人で住むには広すぎる。家族で住むか、友人とシェアするのが一般的だ。クイーンズランダーに学生数人でシェアしている友人がいる。夏には風通しも良く、かなり快適のようだが、虫の心配や隣のちょっとした物音まで聞こえること、冬は短いとはいえ、かなり冷えることがマイナス面だとか。それでも、地元のクラスメイトが、「私の家はクイーンズランド様式よ」と教えてくれた時、そこにはちょっとした「クイーンズランド」の誇りのようなものを感じた。




住まいの記憶: Museum Het Schip

松野早恵
オランダ
ユトレヒト
Museum Het Schip
毎週、アムステルダム中央駅から自転車を走らせ、通勤しています。私の職場は、ミュージアム・ヘット・シップ。アムステルダム派建築の白眉、「エイヘンハールト集合住宅」の一部(1921年築の郵便局と労働者用アパート)が、ここで公開されています。
美術館では、オランダが世界に先駆けて制定した住宅法の意義、そして、時代の変化に敏感に反応した建築家やデザイナーたちの軌跡について、深く知ることができます。私がこちらでガイドを務めるようになって1年になりますが、展示されている家具、食器、織物、玩具をいとおしげに見つめ、昔の思い出を語るお客さんたちから、本当に多くのことを学びました。「石炭ストーブ」、「蓄音機」、「手回し洗濯絞り機」といった品々に囲まれると、約80年前の日常に、しばし紛れ込んだような気持ちがします。
オランダの大都市では住宅難が今も続いており、学生から年金生活者まで、全ての年齢層にとって、居心地のよい住まいを手に入れることが、最大の関心事です。玄関ホールに「Oost, west, thuis best (東西何処へ行くとも、我が家に勝るものはなし」という格言を掲げて、ヘット・シップでは、住宅改善に力を尽くしてきたアムステルダム市の伝統を伝えています。



星空のパラソル



野村雅夫
イタリア
ローマ
大阪ドーナッツクラブ
イタリアはクーラーの普及率が極めて低い。値段は高くないのにそれほど一般的でないのは、夏の降水量が少なく、からっとしているせいだろう。太陽光線はほとんど猟奇的だが、ひとたび日陰へ避難してしまえば、確かに思いのほか暑く感じない。風など吹けばなおよろし。とはいえ、扇風機で起こした風は魅力に乏しい。かくして、イタリア人はテラスへ向かう。
テラスというのは不思議な空間だ。屋内にあって屋外。この私的(プライベート)とも公的(パブリック)ともつかない空間で、人は何でもやってしまう。共同住宅が立ち並ぶローマの市街地。内側へ入り込めば、なかなか壮観である。ヒッチコックの『裏窓』の世界が広がっているのだ。僕は先日歯医者で親不知を抜いた。診察台に寝かせられたまま待ちぼうけを食らい、僕は仕方なく苦楽をともにした歯との最後のひと時を噛みしめながら、ぼんやりと窓の外の風景を見ていた。いろんな人がいるものだ。パンツ一枚で読書、水着で日光浴、植木の水やり、美味しそうなタバコの一服、愛の語らい(あるいはまぐわい)、顕微鏡で何やら観察。とにもかくにも、イタリアの夏はテラスにある。日中は日除けをおろして、夜中は星空のパラソルの下で。



「部屋」を借りる


引っ越して来たばかりの頃の台所

ユゴさや香
ドイツ
フランクフルト
「こちらが台所です。」そう言って見せられたのは、何もないだだっ広い部屋。コンロは?シンクは?かろうじて台所の片鱗を見せているのは、壁から突き出た水道パイプとタイルの床。ドイツでアパートを借りる場合、そこにあるのは人がすむ箱のみ。照明器具すらなく、天井から電気の配線コードが宙ぶらりん状態。
引っ越す時には壁を全部白く塗りなおして出なければならないのも、ドイツの特徴。言い換えれば、住んでいる間は壁を赤く塗ろうがドリルで穴を開けようが、自由なのだ。家を自分に合わせてカスタマイズする。部屋というパッケージのみを借りるドイツだからこそできる楽しみ。
都会の生活は近所付き合いが希薄といわれるが、助け合いの精神が深く根付くドイツでは近所に恵まれる事も多い。イースターなどに近所の人がプレゼントをくれたり、家庭菜園で作った野菜などをおすそ分けしてもらったり。
難点を挙げるとすると、なかなか引っ越しができない事。居心地が良い今の家から何もない新しい部屋に移って、また一から居住空間を作り上げるかと思うと、面倒くさくて二の足を踏んでしまうのだった。



古き良き最新住宅トレンド

豊山亜希
インド
ムンバイー
(旧名ボンベイ)
アジア随一の国際都市ムンバイーは、本来7つの島々からなる漁村をイギリス人が開発してできた都市。人口密度は1q2あたり約20000人(大阪府の4倍強)、干潟地で利用できる土地も少ないため、地価はNYより高くアパート暮らしが一般的。
内陸のベッドタウンで超高層住宅の建設ラッシュに沸く一方、植民地時代にイギリス人が建てたコロニアル風アパートも人気。建設当時ヨーロッパで流行したリバイバル・ゴシック様式の瀟洒な外観と、ムンバイー中心部の旧市街に立地する利便性がその理由とか。
ところでインド伝統の集合住宅はハヴェーリーと呼ばれるスタイル。砂漠のオアシス古都に多く築400年以上のものも少なくないといい、精緻な透かし彫りのヴェランダが醸し出すエキゾチックな雰囲気は、厳格な景観規制のもと大切に保存されています。
ハヴェーリーに比べムンバイーのコロニアル住宅は築100年前後と比較的新しく、当初から西洋風(つまり現代風)の生活様式に沿って設計されているため、歴史遺産というよりあくまで現在進行形の生活空間。景観規制がなく洗濯物が窓いっぱい吊るされた光景に、植民地時代の記憶をしたたかに利用するムンバイカル(ムンバイっ子)の逞しさが垣間見えます。



Banana House


Simon Nettle
日本
大阪
My Amazing Life
Curiously, and in stark contrast to the typical upwardly mobile young professional, I find myself at what should be the peak of my youth, having lived in what some might call abysmal squalor for longer than I have anywhere else in my life.
Which is to say, I live in a grungy, Bohemian, commune-like guest house in the south of 大阪, and have done so for the past two and a half years. バナナ・ハウス. Newcomers to this building often look at me with awestruck disbelief when I inform them of the duration of my stay, but what can I say, I'm addicted to the place.
There is a periodic rise and fall of good times and bad around here, but of a summer, a mixed bunch of interesting personalities rarely fail to congregate from around the globe and make this Tower of Babel one of the most interesting places to live.
Alas, this summer will be my last here, and in Japan, and I'm trying to make the most of it. As for when I return, I probably will never permanently, nor for any great length of time. The chances of my ever being wealthy enough to live in the way I want, doing the things I want to do seem nearly impossible in 日本, and it's partially for these reasons, I feel, that there is such a strong interest in foreign languages, culture and people.
These are the very facts that have made my life here easy, profitable, educational and fun. Kind of a double-edged sword, don't you think?



ブラザー&シスター


澤恵子
ガーナ
アクラ
アフリカ大学院留学記
「人類みな兄弟」とも言うべき巨大な家族網を持っている、ガーナ人達。「これは俺のブラザーだよ」といって紹介されても、それはほとんどの場合日本で言う「兄弟」ではなく「イトコ」や「ハトコ」や、ただの近所のお兄ちゃんだったりする。そんなガーナ人の家は、やはり大家族で成立っている。家の中には常に核家族以外のおじいさん、おばあさん、おじさん、おばさん、イトコにハトコ・・・とほとんど血が繋がっていないであろう人間まで混じって、「家族」を形成して、みんな仲良く暮らしている。たとえ、家が狭くともベッドがなくとも来る者は拒まず迎えて、寝床を用意してくれる。
農村地帯ではその様子もほほえましいのだが、都市になると住環境は激しく悪化する。都市に住む親戚を頼って田舎からたくさんの出稼ぎ労働者がやって来る為、ただでさえ狭い都市の家は益々狭くなり、夜になると多くの人が外で寝ている。それでも嫌がることなく、大鍋でごはんを作り、それを分け合って食べる。彼らのこういった「助け合いの精神」は現代の日本社会で育った自分の理解を超えるものであるのだが、心のどこかでそれを懐かしく思う自分もいるわけで、なんとも学ぶことが多いガーナ生活である。




★告知追加: とっておきの「ポストカード」、できてます。★

先月の連載で告知した無料ポストカード、配布場所に少し追加があります。
(画像をクリックすると、大きなサイズでご覧になれます。)

     

6月20日から、以下の場所で無料配布しています!
(申し訳ありませんが、初回配布分がなくなり次第、終了となります。)

★京都市、建築・まちづくり関係書籍の総本山 学芸出版社 受付にて

★梅田近くの中崎町へ、フランスからの世界のカケラ、ただ今到着 雑貨屋JAM POT
★同じく中崎町、写真展示から雑貨教室まで、多様な空間を提供 路地裏ギャラリーOne Plus 1
★大阪・天六にて文学・映画関連の古書を多数揃える、カフェバー ブックカフェワイルドバンチ

★大阪市立大学 工学部C棟 4階 エレベーターホール掲示板
★大阪市立大学 生活科学部S棟 3階 製図室前
★大阪大学 工学部S1棟 掲示板
★京都大学 工学部3号館 1階掲示板
★奈良女子大学 E棟5階
★近畿大学 本部キャンパス33号館(理工学部) 1階掲示板

★イタリア ローマ第三大学 建築学部 吹抜の横 (Via Madonna dei Monti 40 Roma 00184 Italia)
★ドイツ フランクフルト OCS Bookshop (Grosse Gallusstrasse 1-7, 60311 Frankfurt)
★オーストラリア メルボルン大学 建築学部棟 1階掲示板



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