橋本征子 建検ガクガク#6 タレルの部屋にて |
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野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳ひなびた町と心の再生 ~海のふた~ |
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寒竹泉美の月めくり本2015 |
(聞き手/牧尾晴喜)
3Dプリンティングの技術と手作業の組み合わせにより、工業製品のモックアップからフィギュア制作、CDジャケットデザインまで幅広く活躍しているデザイナー、織田隆治さん。彼に、最近の仕事の内容や、3Dプリンティングの可能性についてお話をうかがった。
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3D プリントというと工業製品のイメージも強かったんですが、娯楽性の高いものも多く手がけておられますね。 DREAMS COME TRUE の昨年 8 月のアルバム『 ATTACK25 』でも、アートワークに参加されていました。
織田: アルバムやコンサートで表現する世界観のうち、とくに『アタックホーン』などの小道具や乗り物のデザインを担当しました。『アタックホーン』は CG だけじゃなく、それを 3D プリンティングして実物も制作して、吉田美和さんたちにも持ってもらいました。先に見ていた CG と「そっくり!」と関係者で驚きましたが、当たり前ですよね(笑)。
武器に見えず、音楽を世界に広げていくようなグッズというのがコンセプトでした。そこで、先はラッパ状にひろがっていて、カセットテープのようなモチーフでデザインしたんです。スチームパンクのように、懐かしさのあるかっこよさを意識しました。
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昨年はプロ野球チーム、オリックス・バファローズの選手の人形も制作されましたね。
織田: 去年 1 年間の全 12 回、ファン広報誌『 Bs TIME 』の表紙用に制作しました。 3D プリンターで制作したみたいと言われることもありますが、ひとりずつ手づくりで、顔も粘土で制作しています。バット、ヘルメットなどの小道具もつくりました。
個人的には、アナログとデジタルの両方できるということが、模型製作やプロトタイピングの世界で利点になってくるはずだと感じています。 3D プリントの質は上がっていますが、出てきたものがそのまま使える精度ということは難しくて、すくなくともまだ数年はかかると思います。
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昨年秋の大阪・堀江のコンペ『 Horie Chair Design Competition 2014 』では、優秀作を 3D プリンターで出力して投票審査するなどの新しい試みもありました。
織田: 優秀作として選ばれた10作品くらいを実際に3Dプリントして、一般投票が開催されました。一般的な試作品よりはローコストで済みますし、面白いコンペの形でした。「CG」と一口に言っても、デザインパースやアニメーションなどのデータと3Dプリント用のデータは違うので、舞台裏では苦労もありました。
最近は工業的な製品の展示会でも、CGやタッチパネルでの展示だけでなく、3Dプリントなどによる模型や立体物の出番が増えてきています。やはり、立体物が目の前にある存在感は強いです。3Dプリンターという部分はデジタルであっても、現物に触れられる、アナログ的に実感できるというところにほっとしているんじゃないかと。個人的には、そういう原点回帰にリアリティがあるのではないかと考えています。
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工業製品の話題が出ましたが、その辺りについて、可能な範囲でお聞かせいただけますか?
織田: 3Dプリンティングでできあがってきたものを見ると、図面だけで想像していたのとは違っていることも多く、驚きがあります。メーカーさんにとっては、これまでのプロトタイプに比べると安くできるというメリットがあるんです。修正なんかも速いですし。
工業製品・プロダクトでは、寸法についてもより高い精度が求められます。じつはいろいろな種類のプリンターを使っていくことも大事で、単に高ければいいというわけじゃないんです。出力する構造自体は同じでも、方法と素材がまったく違うので、そういう性質を理解しておかないといけません。メーカーさんから機械導入の相談を受けることも増えてきましたが、機種だけじゃなく代理店のサポート対応なども含めて検討することが大事です。
-------どんな子どもでしたか?
織田: 絵を描くことや、粘土細工やプラモデルが大好きでした。教科書にパラパラ漫画を描いて、怒られたりしていました(笑)。中学でも絵や図面が大好きで、高校も美術学科でした。当然のように大阪芸術大学に入り、絵画専攻で油絵を描いていました。映像学科と交流があって、映像で使うための小道具や特殊メイクをやりたい、ということで3次元的なものにはいっていくようになったんです。卒業してテキスタイルや車の内装などの仕事を数年しましたが、模型をつくる仕事がしたくて、そちらに転向しました。工作機械ではじめての出会いだったレーザー彫刻機には、デジタルの強みを感じましたね。
基本的に広告関係の仕事が多いので、2008年のリーマンショック、さらに2011年の東日本大震災は、仕事にも大きく影響しました。大打撃だったんです。ちょうどそのころ、3Dプリンターが出始めたころで、当時のぼくの状況では大金だったのですが、無理をして購入しました。いろいろなひとに融資をいただいて、「これにかけよう」と。結果的にそれがTV取材をはじめ、さまざまないい流れにつながりました。そのプリンターは今も現役ですが、いつか使い物にならなくなっても、神棚にして大事に置いておきたいです(笑)。
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将来的にはどのようなお仕事をされたいですか?
織田: 基本的には、いままでやってきた造形や3Dプリントに関係する仕事をつづけていきます。
最近特にやりたいなと思っているのは、若手育成です。3Dプリンターやカッティングマシンなど多様な工作機械を備えたワークショップを「ファブラボ」と言いますが、最近はこういうファブラボ的なスペースがあちこちにできています。ですが、現時点では、設置してある工作機械を自由に使ってください、というくらいのスタンスの場所が多いんです。今後は、半学校的な、3Dプリントの基礎から仕上げまでを伝えていき、使いこなせる若手を育てたいですね。じつはそういう企画を関係先と進めていて、今年中には形になってくる予定です。
DREAMS COME TRUE 『 ATTACK25 』 |
オリックスファン広報紙(手作業) |
オリックスファン広報紙(手作業) |
Horie Chair Desgin Competition 2014 優秀作の 3D プリン ト |
映画『太平洋の奇跡』用 3DCG モデル制作( 3DCG ) |
文楽ロボット制作( 3D プリンター) |
織田隆治(おだ たかはる) デザイナー 大阪芸術大学芸術学部美術学科を卒業後、住江織物株式会社にて自動車内装デザインを担当。博物館や科学館等の展示模型製作会社などを経て、 2002 年に FULL DIMENSIONS STUDIO を設立。 3DCG や映像編集、映画で使用する 3DCG のモデリングのほか、手作りによる模型、造形製作、デザインや、映像制作を手がける。 現在は、筑波大学や、大阪コミュニケーションアート専門学校にて、若い世代の育成にも携わっている。 |
金 沢 にある 21 世紀美術館を訪ねました。 地方都市の公立美術館として、 2004 年に開館。毎年 150 万人の入場者数を記録している人気の美術館で、古都・金沢を新たに彩るシンボルになっています。 SANAA (妹島和世氏・西沢立衛氏)の 建築ということは有名ですね 。
私が今回の訪問で一番滞在していた場所が「タレルの部屋」でした。タレルの部屋は無料入場エリアにあり、金沢市民は待ち合わせ場所にもしているとか…。四角い 部屋の中に入り、四方の壁に石造りのベンチがあるのですが、そこに座って空を見上げると、天井開口部から空が見えます。
この開口部が工夫されているのですが、通常の開口部ですと、切り取られた部分の断面(天井の厚み・小口)が見えるところ、それが分からないように、斜めに削った仕上がりなので、より空がくっきりと見える視覚的効果を図っています。(素人なりの図説が下部にあります…)こうすることにより、空が切り取られたように見え、私たちの居る空間が額縁のように感じます。普段はなにげなく眺めている空を、フレームに収めることにより、その存在を改めて感じる素敵な時間を過ごせる空間です。晴れの日は晴れの空を、雨の日は雨の空が愉しめます。
この空間の作家、ジェームズ・タレル氏は、知覚心理学をはじめ、数学、天文学などの自然科学の諸分野と美術史を学び、アメリカ航空宇宙局研究所に勤務後、光を用いた実験的な作品を作り続けています。氏は一貫して、光を素材として用い、光を体験する様々な空間を提示することにより、私たちの内奥にある感覚に働きかけ、知覚の本質を問いかけることを探求し続けているそうです。
空の移り変わりを眺め、一日をここで過ごすのもいいかもしれません。太陽の動きに合わせて、伸びる光と影のかたち。自然の力を巧みに用いたこのアートは「自然」の力強さをより気付かせてくれました。一家にひとつ欲しいくらいですね。
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橋本征子(はしもと せいこ) スペースデザインカレッジ広報。 おしゃべりだいすき。CO2の排出量で光合成のお手伝いをしている。 と、思っている。 |
やぁ、私だ。ここ最近気になってしょうがない女優がいる。夜も眠れないほどではないが、彼女が出演しているならそれだけで観たくなるし、主演ともなればスクリーンで観ぬなど愚の骨頂。この私をそこまで前のめりにさせているのは、菊池亜希子である。そもそもはモデルとして「non-no」あたりで活躍し、最近ではファッションもカルチャーも旅もとよくばりな総合誌「菊池亜希子ムック マッシュ」(小学館)シリーズを責任編集しているのだが、これがまたよく売れているらしい。イラストも描けるし、文章もお手のもの。しかも、千葉大学工学部環境システム学科卒業という、バリバリの理系オシャレ美女だ。もはやひれ伏すレベルの才能と言わねばなるまい。
今月取り上げるのは、2010年代の結婚観を軽やかに活写したこの春の秀作『グッド・ストライプス』(岨手由紀子、2015年)に続いてそんな彼女が主演した『海のふた』だ。原作は、よしもとばなな。菊池演じるまりが、ふるさと西伊豆の小さな町に高速船で帰ってくる。彼女は東京での舞台美術の仕事を辞め、海の傍らで大好きなかき氷の店を始めるという。都会での生活に疲れたらしい。実家の近所に空き家を借りて自分で改装。メニューは糖蜜とみかん水のかき氷、そしてエスプレッソコーヒーだけ。菊池亜希子が出ていると聞いて試写室の暗闇に身を投じたはいいが、こりゃ薄っぺらのとんだオシャレ映画なのではあるまいか。そんな私の懸念は、幸いなことに当たらなかった。むしろ、これは寂れ果てて疲弊した地方の町とそこに暮らす人々の再生を示唆する映画であったのだ。
まりが交流するメインの人物はふたり。ひとりは、顔に大きなやけどの痕が残る若い女の子はじめ。彼女は一緒に暮らしていた祖母が亡くなり、ひと夏を過ごすためにまりの実家に預けられる。もしかすると映画の主題はこのふたりの女性の心の交流なのかもしれないが、私がより興味をそそられたのは、もうひとり。親から酒屋を継ぎ、ずっとこの冴えない町で踏ん張ってきたまりの幼なじみにして元カレのオサムだ。陸続きなのに船でのアクセスの方が便利というこの町は、都会に出ていたまりにしてみれば魅力を更新することもできず、つぶれた旅館が目につくような残念な場所だ。だからこそ、美しい海とかき氷で自分なりに再興の一助になればと思っている(そんなことは口にしないが)。ところが、オサムにしてみれば、そんなまりの視点はもはや「よそ者」の絵空事に映るわけで、ふたりの心はすれ違う。それでもなお、まりは陸の孤島のようなその場所でやっていこうとする。私が思うに、彼女は「よそ者」の視点を持てたからこそ、そんな決断ができたのだ。地方に新しい魅力を吹き込むのは、なるほど彼女のような存在なのかもしれないと、自然に納得のいく展開だった。そして私は、また菊池亜希子の伸びやかな魅力を再確認することになったのだった。
(c)2015 よしもとばなな/『海のふた』製作委員会 |
『海のふた』 7月 18 日(土)新宿武蔵野館、テアトル梅田、神戸国際松竹ほか全国公開
製作: 川越和美、小林栄太朗 脚本: 黒沢久子 出演: 菊池亜希子、三根梓、小林ユウキチ、天衣織女、鈴木慶一 主題歌:蘭華『はじまり色』 挿入歌:原マスミ『海のふた』 2015 年/日本/ 84 分/カラー/ビスタ 配給:ファントム・フィルム |
野村雅夫(のむら まさお) ラジオDJ/翻訳家 ラジオやテレビでの音楽番組を担当する他、イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳なども手がける。 FM802 (Ciao! MUSICA / Fri. 12:00-18:00) InterFM (Alternative Nation / Sat. 17:00-20:00) InterFM (CINEMA Dolce Vita / Sat. 11:00-11:30) ytv (音力-ONCHIKA- / Wed. Midnight) |
木造家屋を走り回り、食物をかじるネズミは、被害にあった人から見れば、気持ち悪くて迷惑な動物だろうけれど、つい最近まで野生のネズミを見たことがなかったわたしは、その感じがぴんと来ない(漫画「ドラえもん」で、のび太のママとドラえもんがどうしてあんなにネズミを恐がるのか謎だった)。わたしにとって、ネズミは無条件に愛すべき存在だし、野生のネズミが走り回る家に住んでいる今でもやはり、その思いは変わらない。
なにせ、わたしがネズミに最初に出会ったのは絵本の中なのだ。子どものやわらかい心にしっかりと<ネズミはお友達>と書きこまれてしまった。ネズミが主人公の絵本で有名なのは「ぐりとぐら」、「ねずみくんのチョッキ」シリーズだろう。日本昔話の中にもネズミは出てくるし、アニメ「トムとジェリー」では、ジェリーの活躍に声援を送っていた派だ。
ちなみに幼稚園のときは舌の回らず「いずみちゃん」と発音できないみんなから「ねずみちゃん」と呼ばれていた(らしい)。理学部から医学部の院に進んだのもネズミを飼っている研究室に興味を持ったのがきっかけである。ネズミと寒竹泉美は切っても切り離せない関係なのである。
そんなネズミ好きのわたしが鼻息を荒くしてお勧めするのが、この絵本。ここに描かれているネズミは、リアルで、とても愛らしい。つぶらな瞳や、動作のひとつひとつがたまらない。今にも動きだしそうなのです。ああ、この絵本があれば、もう、近所のペット屋さんにハムスターやスナネズミやマウスを眺めに行かなくてもいい…! さらに、その子ネズミの視点でみる世界は、はらはらするような迫力があり、同時に何とも言えない魅惑に満ちている。
次のページにはどんな景色が待っているのだろうとわくわくしながらページを繰っているうちに、自分が子どものときに、どんな気持ちで絵本を読んでいたかを思い出した。幼いわたしの頭の中では、絵本は「静止画」ではなかった。別の世界につながる扉だった。絵の中に吸い込まれ、わたしの頭の中で、主人公が動き、まるで映画のように世界が広がっていった。だから、何度も何度もぼろぼろになるまで絵本を読み続けられた。
わたしの中の忘れていたスイッチをいろいろ押して活性化させてくれる素敵な絵本。ぜひ、ページを開いて、子ネズミと一緒に空へ飛び立ち、雲の上から見る夕日を楽しんでもらいたい。
リンドバーグ: 空飛ぶネズミの大冒険
トーベン・クールマン・作/金原瑞人・訳
定価 2,376円(本体2,200円+税)
出版社: ブロンズ新社 (2015/4)
寒竹泉美(かんちくいずみ) HP 小説家 京都在住。小説の面白さを広めたいというコンセプトのもと、さまざまな活動を展開している。 |