橋本征子 建検ガクガク

#4 鯖江のTSUGIのはなし

野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳

音楽という格闘技、あるいは狂気の果ての美 ~セッション~

寒竹泉美の月めくり本2015

卯月本「広場」 隈 研吾、陣内秀信/監修 鈴木知之/写真

インタビュー 蒼井ブルー さん

(聞き手/牧尾晴喜)

ァッション系人物撮影を中心に幅広く活躍するとともに、twitterなどでの発言でも大きな注目を集めるフォトグラファー、蒼井ブルーさん。彼に、新刊や撮影に対する思いについてお話をうかがった。

-------新刊『 僕の隣で勝手に幸せになってください』についてうかがいます。 蒼井さんがTwitter上で綴ってこられた独り言からの抜粋、さらに書き下ろしのエッセイと小松菜奈さんをモデルとした写真が加わっての書籍化で話題になっています。Twitterでの独り言には、はっとするもの、面白いものなどさまざまありますが、日常、身の回りの出来事への見方などで意識しておられることはありますか?
蒼井:自分やその周辺で特別と言いますか、何かこう珍しいできごとが起こった際はメモアプリに残しておいたりします。リアルタイムでツイートできないことが多いので、あとでまとめる用ですね。ただ、メモって単語の羅列みたいに断片的なものになりがちじゃないですか。なので「何このメモ…こんなことあったっけ……」となって自分でも思い出せないことも多いですね、悲しいです。あと、人の話には面白い要素が満載なので、あまり自分に関係の無い話でも割と聞きます。公共の場で聞こえてくる知らない人同士の会話も面白いですよね。もっと聞いていたくなります。

-------Twitterでは文字数の制限がありますが、工夫されていること、意識されていることなどあれば教えてください。
蒼井:基本的には短いツイートが好きなので、省けることはどんどん省いていいと思っています。人のツイートを読む際もそうなのですが、短いものはスッと入ってくるような感じがあって心地いいんですね。口語に近いラフな書き方も親しみやすくて好きです。丁寧に表現したい時は長くなっても気にしませんし、時々はそういうものも必要な気がしています。

-------蒼井さんのTwitterはフォロワー数が12万人を超えていて(2015年4月時点)、いろいろな反響があるとおもいますが、テーマやルールなど決めておられることはありますか?
蒼井:今よりもずっとフォロワー数が少ない頃の方が、どこか本当の自分ではないような、居心地の悪さを感じながらやっていたように思います。きっと妙な自意識に囚われてしまっていたんですね。今は、少し先の自分が何かで迷うようなことがあった際に見返せるよう心情を記録しておく意味と、あとはもうアレです、親しい友人に向けた報告くらいの感覚でやっています。今日こんなことがあったよとか、こんなことを思ったよとか、ちょっと聞いてくれ自慢したいことがあるんだとか、ダメだ最近つらい誰かごはん誘ってアピールとか、そういった具合に。何がキッカケでそうなったかは覚えていません。単に慣れただけなのかもしれませんね。

-------ファッション系人物撮影をメインに広告、誌面などでご活躍です。ファッション系の撮影において、大事にされていることは何でしょうか?
蒼井:女性のモデルさんと接することが多いので、嫌われてしまって現場の雰囲気が悪くならないようにできるだけ清潔感をもって臨みますが、無理な時はどうやっても無理なので最後はノリでごまかします。あと、恋バナに持ち込むと親しくなりやすい傾向があるのでどんどん挑むのですが、モデルさんご本人や周囲のガードが堅い場合はやはりノリでごまかします。撮影内容はクライアントの意向に沿って極力自我を出さないよう気を付けています。納期の設定は食い下がってでも引き延ばそうとします。いつもすいません。

-------最近の撮影現場での苦労話など教えていただけますでしょうか?

蒼井:納期続きでお風呂に入れないまま現場に行って帰らされたことがあります。

-------写真の撮影の仕事をしていてよかったと感じる瞬間はどんな時ですか?
蒼井:著名なカメラマンさんはある意味アーティストのようなもので、その人がシャッターを切ることがもう既に芸術であったりする訳なのですが、僕のような日陰カメラマンに対しても時々そのように扱っていただけることがあって、そんな時は、ああ、いい仕事ができたんだなと少し胸を張ることができます。次も頑張ろうと思うことができます。

-------書籍のなかで触れられているように、Twitterから撮影依頼につながるケースなども多いようです。性格やプライベートな面も知っている方との仕事は、やりやすい面とやりにくい面の両方がありそうだと思いますがいかがでしょうか?
蒼井:全く関係の無い場面でも急にツイートを音読されたりして帰りたくなることがあります。

-------どのような子どもでしたか?読み書き、あるいはカメラが好きでしたか?もしくは、大きくなられてから、いまの仕事につながるような特別なきっかけがありましたか?
蒼井:読書は好きでした。古い記憶で言うと、僕の通っていた幼稚園では毎週水曜日に絵本の貸し出しがあって、親の迎えが来た園児から順に好きな絵本を借りて帰ることができたんですね。ただ、共働きだった我が家はクラスの中でも迎えが遅くて、人気のあるアンパンマンやノンタンの絵本は、僕が借りる頃にはいつも残っていなかったんです。その度に僕は親に「早く迎えに来い」的な訴えを起こすのですが、当然叶うはずもなく、渋々売れ残った絵本の中からどれか一つを選ぶ訳なのですが、さすがは売れ残りです、園児向けにしては絵が怖すぎるだとか、文字が多すぎるだとか、残るべくして残った猛者ばかりなんです。不本意でした、それはもう泣いて訴えるくらいに不本意でした。でも、いま思えばこの頃に読まされ続けた本たちのおかげで読書の楽しさを覚えたような気がします。とっつきにくさから不人気ではあったものの、わざわざ貸し出し図書として置いてあるくらいの選ばれし者たちなので、いざ読み始めると夢中になるくらいに面白かったんですね。小学生の頃は星新一さんを、中高生の頃は歴史小説等を読み漁っていました。以降は、その時々の流行りや、読んでいるとモテそうな気がしてくるものを中心に。そうそう、部屋に村上春樹さんの「ノルウェイの森」のハードカバーを上下巻わざとらしく飾って女子を招いたりしていましたね。一体どうなりたかったのか自分でもよく分からないです。一方で、書くことには興味が無かったです。作文等も楽しいと思ったことは無くて、今でもどちらかと言うと嫌いです。きっと集中力に問題があるんですね。
 カメラや写真には興味がありましたが、カッコいいなあとか、おしゃれだなあ程度のもので、何が何でもやりたいほどの情熱は無かったです。そんなある日、当時付き合っていた人が誕生日に一眼レフの入門機をプレゼントしてくれて、それが無かったら、あのぼんやりとした気持ちのままで、始めてすらいなかったと思います。ただ、入門機とは言え高価なプレゼントに引いてしまった僕は、結局自分でお金を払って、つまり自分で買ったことにしたんです。人からもらった物で始めても続く気がしなかったんですね。我ながらまじめでカッコいいなと思います。今なら「やったー!」なんて言って、もう喜んで受け取りますけど。

-------今後のビジョンを教えてください。
蒼井:彼女ができたら映画デートをしたいです。

モデル:あわつまい
撮影:蒼井ブルー

 

モデル:あわつまい
撮影:蒼井ブルー
梅田EST 2014クリスマス広告

 

蒼井ブルー(あおい ぶるー)

大阪府出身、フォトグラファー。
きゃりーぱみゅぱみゅ等のファッションアイコンを収めたストリートスナップが話題を呼び写真業界へ。ファッション系人物撮影をメインに広告、誌面、ウェブなど幅広く活躍。独特のタッチで綴られるツイートがゆるくておかしくてじんわり泣ける。
twitter:@blue_aoi

 

#4 鯖江のTSUGIのはなし

江のTSUGIさんを訪ねました。 TSUGI(ツギ)とは、福井県鯖江市を拠点に、ものづくり・デザイン・環境など様々な職種に携わる若手によるクリエイティブ集団です。福井に息づく文化や地場産業の魅力を多くの人に知ってもらいたいという思いで2013年に結成。鯖江市河和田地区のTSUGI Labを拠点に“ものづくり”をテーマに未来を醸成する様々なプロジェクトを行っています。

彼らのプロジェクトのテーマが、「10年後の担い手になること」「福井の地域資源を拡張させること」。 活動拠点である河和田地区は、三方が山に囲まれた小さな集落。半径10km圏内には、繊維産業、越前和紙・越前打刃物・越前焼・越前箪笥といった伝統的工芸がある国内屈指の地場産業集積地だとか。ディレクターの新山さんはじめ、メンバーのほとんどが関西からの移住者。だからこそ、この土地で脈々と紡がれてきた地域資源と地場産業の魅力を「ヨソモノ」の視点から掘り起こし、活動を通して県内外に発信されています。

そもそもの活動の「きっかけ」となるのは、彼らの学生時代の活動に遡ります。「河和田アートキャンプ」という地区の災害復興ボランティアから始まったのですが、これが10年も続く地域振興活動で、毎年現役学生による文化発信が河和田の地で行われています。TSUGIのメンバーにアートキャンプ出身者も多く、学業とは別に時間を割いた経験が現在の「しごと」に繋がっています。

実は今回出会いのきっかけは、私の所属する日本スペースデザイナー協会にて福井県に行くことになり、アポイントを取る運びとなりました。収穫は、事前のリサーチで予想していた以上のものでした。ホームページだけでは計り知れない、奥行きのある彼らのストーリーに、とても感銘を受けました。 若手によるクリエイティブな活動の方向性について常日頃考えている私たちとしても、彼らの活動に今後も注目して行きたいと思っています。

また、気になる町がひとつ増えました。


トークセッション?後の集合写真。
日曜日にも関わらず、万全のウエルカム体制にて待ち構えてくださいました TSUGI 代表の永富さん(写真前列中央)と、ディレクターの新山さん(写真前列右から二番目)と、日本スペースデザイナー協会のメンバーたち。


トーク中のひとコマ。協会メンバーには地方出身者も多く、じぶんの町に置き換えて、真剣に意見交換中。ホウ酸団子は?お墓は?(この質問内容の詳細ははまたどこかで詳しく…)


TSUGIのルーツ。河和田アートキャンプは、グッドデザイン賞も受賞。

橋本征子(はしもと せいこ)
スペースデザインカレッジ広報。
おしゃべりだいすき。CO2の排出量で光合成のお手伝いをしている。
と、思っている。

音楽という格闘技、あるいは狂気の果ての美 ~セッション~

ぁ、私だ。撮影当時わずか28歳だった新人監督の作品に、この私があんなにも震えるとは! まばたきすらじれったい。握った手は汗ばみ、鑑賞後も身体のこわばりが取れず、しばらく歩くのもぎこちなかった。それほどの度を越した緊張感だった。といったって、拳銃も裸体も出てこない。ただ、言葉という弾丸は乱射されるし、主人公の精神は丸裸になる。『セッション』は、ひとりの若者が芸術における栄誉を死に物狂いでその手にするための孤独な戦いであり、一級のエンターテイメント作品だ。
 マイルズは、名門音楽大学でジャズ・ドラムを専攻している。教師フレッチャーは、ムチをメインに時おりアメをちらつかせながら学生を強権的に高みへと導く暴君だ(原題の「Whiplash」は、劇中で演奏される難易度の極めて高い実在の曲のタイトルであり、「ムチで打つこと」という意味だ)。若き監督チャゼルは、このふたりの心理戦のみに焦点を絞り、一度もそのピントをずらすことなく107分にわたって私達の気持ちを張り詰め続ける。恐るべきストーリーテリングだ。若い男の話なのだから、恋愛要素もある。心優しい庇護者たる父親も登場する。バンドで演奏するわけだから、他にも学生がたくさん出てくる。しかし、彼らは文字通り、いや、映像通り、脇役だ。それが証拠に、主人公マイルズが画面に映らないシーンはひとつもない。これは一般的な劇映画としては実は普通じゃない。
 カメラは執拗なまでにマイルズを捉え続ける。緊張が高まると、クロースアップで彼の顔を拡大し、ドラムセットに飛び散る血と汗を克明に描写する。緊張がほぐれると、引きの画で彼を突き放すように距離を置く。これは画角の選択として教科書通りなのだが、実際に数えてみれば分かるだろうが、寄りの画の割合が極端に高い。つまり、それだけハイテンションだということだ。これだけ求心的な話なので、被写体は限られている。空間も練習室やステージなど限定的だ。そこでのカメラワークの工夫に留意すると、チャゼルの意図をより鋭敏に感じることができるだろう。そして、もちろん、全編を通して鳴り響くドラムのリズムが、聴覚的にもアドレナリンの分泌を促し続ける。  フレッチャーのかける圧力と罠。マイルズがそれに屈するのか。はねのけるのか。かいくぐるのか。教育や指導を越えた尋常ならざる攻防の果てに聞こえるのはどんな音楽なのか。大事な演奏曲「ウィップラッシュ」そのもののように、先の読めない変拍子的展開。そのスリルと究極の美がもたらす凄みと対峙するには、劇場へ向かうしかない。


(c)2013 WHIPLASH, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


『セッション』
原題:WHIPLASH
TOHOシネマズ新宿他 全国順次上映中

監督・脚本:ディミアン・チャゼル
製作:ジェイソン・ブラム、ヘレン・エスタブルック、ミシェル・リトヴァク、デヴィッド・ランカスター
出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、メリッサ・ブノワ、ポール・ライザー
2014年/アメリカ/107分/カラー/シネスコ
字幕翻訳:石田泰子
配給:ギャガ





野村雅夫(のむら まさお)
ラジオDJ/翻訳家
ラジオやテレビでの音楽番組を担当する他、イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳なども手がける。
FM802 (Ciao! MUSICA / Fri. 12:00-18:00)
InterFM (Alternative Nation / Sat. 17:00-20:00) 
InterFM (CINEMA Dolce Vita / Sat. 11:00-11:30)
ytv (音力-ONCHIKA- / Wed. Midnight)

卯月本「広場」 隈 研吾、陣内秀信/監修 鈴木知之/写真

場という言葉は何だかぴんと来ない。思い浮かぶのは「天安門広場」や「赤の広場」のように歴史の生き証人的な意味をまとう観光地だ。日本の例は思い浮かばない。「みんなの広場」というように象徴的な意味として使う方が多い気がする。ふれあい、とか、きずな、とか、つながり、とかそういう言葉と同じ、実体のない心のありかたとしての「広場」。
だって広場って広い場所でしょう? 日本に広い場所なんてないのだもの。広い場所はたいていがお金持ちの所有物で、わたしのような庶民は入れない場所だもの。警備員なんか立っちゃってさ。

と、いうイメージを抱いてこの本を開いたら、好みの場所ばかり載っていて心を奪われた。理想の場所ばかりだ。偶然通りかかったら、絶対にふらふらと吸い寄せられているだろう。公園、駅前のスペース、美術館の庭、川岸、ショッピングモールの一角。それもただのスペースではなく、施工者のポリシーがあり、デザイナーの手が入った、計算され尽くした空間。ああ、これが広場か、と思った。広くないけど広場なんだ。広場というのは、実際の面積ではなく、建築デザインの工夫によって、心が広々とする場所。それが現代日本における広場なんだと思った。

執筆のアイデアを書きとめるとき、わたしは書くための場所を求めてさまよい歩く。わたしが求めているのはまさにこの広場だ。専用の執筆室やカフェやコワーキングスペースのようにお金を出してレンタルする場所ではなく、黙ってふらりと入れる場所。2時間いても、3秒で席を立っても誰も気にしない場所。人々が入れ替わり、移ろいゆく外の空気を感じる、都会の小鳥の止まり木のような場所。原稿を直す段階では引きこもってパソコンにひとりで向かうが、最初のアイデアを出す段階は、こういう場所が必要になる。かっちりホールドされてしまうと出るものが出ないらしい。 広場ではわたしは誰でもないひとりになる。日常のわたしを忘れて、知らない人たちとしばし時間を共有する。それは何だか旅に似ている。広場には街ゆく人々を旅人にする力があると思う。

<広場がリアリティを取り戻しつつある。>と、この本の始めに建築家・隈研吾氏が書いている。取り戻しつつあるということは、それまでリアリティがなかったということだ。わたしの「ぴんとこない」感覚は正当なものだった。たまたま出来た空きスペースくらいにしか思われていなかった広場が、生きるために欠かせない空間として認知され帰ってきている。これは喜ばしいニュースだ。この本を読めば、わたしたちがそれらを知らないうちに享受し、日常の中で小さな旅を楽しんでいることに気づけるはずだ。


「広場Hiroba: All about "Public Spaces" in Japan」
隈 研吾、陣内秀信/監修 鈴木知之/写真
2916円
出版社: 淡交社 (2015年4月)

寒竹泉美(かんちくいずみ) HP
小説家
京都在住。小説の面白さを本を読まない人にも広めたいというコンセプトのもと、さまざまな活動を展開している。