橋本征子 建検ガクガク#1 進化系空間づくりイベント「BrookNYn Market」 |
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野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳刮目すべき欺き ~ビッグ・アイズ~ |
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寒竹泉美の月めくり本2015睦月本『名作家具のヒミツ』 ジョー スズキ(著) |
(聞き手/牧尾晴喜、原稿構成/風戸紗帆)
シンプルで開放的な建物によって、国内外で注目を集めている建築家の奥和田健さん。彼に、最近の作品を中心に、創作に向き合う姿勢についてお話をうかがった。
-------今年竣工した、古川紙工株式会社 新社屋についてお聞きします。伝統的な和紙を作っている工場ですが、とても開かれた自由な空間をデザインされています。
奥和田:伝統的なものを扱っておられますが、かなりクリエイティブな商品をつくっている会社なんです。伝統的かつクリエイティブというキーワードから、派手さを追求するのではなく、シンプルで想像力のあるような形にしたいと思いました。全体的な構成や風が良く通るような開放的な形は、実際に美濃を訪れてから考えつきました。
-------この古川紙工新社屋は海外でもよく紹介されていますね。海外のひとの見方はいかがですか?
奥和田:ぼく自身が考えていた以上に、自然の形に沿ってできるものに興味を持たれている印象があります。たとえば、山の稜線に沿って水平につくったこと、山から川に向けて風を流したことだとか。美濃の和紙はユネスコに取り上げられたこともあり、そういった点でいろいろと書いてくださっているメディアもあり、日本の伝統技術への注目度を再認識できました。
日本社会では敷地いっぱいに建てていく感じのことが多く、経済的にそうなるこも多いかと思うんですが、そういう建て方とは違って、もっとソフトランディングするようなつくり方の可能性も感じました。
-------住宅やオフィスのほかにも、カフェやリノベーションなど、さまざまなジャンルのものを手がけられています。ジャンルが違っても、空間づくりで共通することや意識されていることはありますか?
奥和田:計算し、あまり作りすぎないっていうことです。作りこみすぎてしまうと、空間のなかの『間』がなくなってしまうので。
住宅、工場、オフィスなど全てで共通していますが、特にリノベーションではつくり込みすぎないことを意識しています。引き算できるところは引き算し、そこに『間』を入れていくという感じです。
-------そういった作りかたは、具体的な建物の用途や敷地からどのように見えてきますか?
奥和田:たとえば、住宅『白い林檎』は傾斜地に建っているんですが、傾斜地には底や中腹、最上部などがあり、それぞれの場所で見える景色が違うんです。そこにどういった『間』を入れていくか、それをどう繋げていくかっていうことが大切になってきます。
ほかには、住宅『シラハマノヒラヤ』の場合には、かなり特性がある敷地でした。東西北が山に囲まれ、南側は海に向けて開かれています。敷地へのアプローチは、北側道路からの小さな入り口です。住宅は敷地の一番南側、すごく遠いところにつくりました。北側の入り口から住宅まで歩く距離、時間といった『間』がこの建物には必要だと考えたからです。一歩一歩あるきながら建物に近づいていって、玄関の扉を開け、さらにあと2、3歩で、目の前には、この家だけの景色、海と空が広がっています。そういった感じの構成にしたかったんです。空間と場所のポジションをまず考えて、それから建築をつくっていくっていうのが多いですかね。
-------なるほど。敷地での発見が大きいんですね。
奥和田:事前にいくつかの要望をお伝えいただいて、そのまま素直に敷地に行くことが多いですね。狭小地で幅3メートルぐらいの建物なんかもつくったりしますが、どちらかというと、原っぱとか山の中とか、何もないところに連れていかれることが多いですかね(笑)。お客さん自身が敷地を気に入っておられることが多いので、敷地とロケーションを見て手がかりを探します。風はどんなふうに吹いているのか、雨はどれぐらい降るのだろうなど、自然から読み取れることと、お客さんの要望を組み合わせていくことで形をつくりあげていきます。
-------現在の事務所では、イベントなども開催されていますね。
奥和田:以前の事務所が手狭になったこともあって、新しい場所を探していました。ピンとくる候補がなかったんですが、たまたま自転車で今の事務所の前を通って、見つけたんです。前々から四天王寺の近くは雰囲気も良くて気に入っていたんです。そういう雰囲気も活かして、定期的にバーのイベントなどをやってきました。
-------今の仕事をされるようになったきっかけは?
奥和田:奈良の山奥で生まれ育って、中学校の卒業後は高専に行きました。その高専には奈良だけじゃなくて、大阪や京都からも生徒が来ていて、友達のところに遊びに行ったり、街に出て遊んだりしましたね。そうしていろいろな空間に触れたっていうのが大きいのかもしれません。
その後、大阪に出て知り合った友達とフランスへ旅行。予算もなく歩いてまわったのですが、ラ・デファンスに行ったときに衝撃を受けました。新凱旋門と凱旋門の軸線を感じながら、「建築の仕事は面白いんじゃないかな」と改めて感じました。
-------今後、どのような空間をつくっていきたいですか?
奥和田: 作りたい空間は実作を通じて伝えていくのが一番ですが、開かれた家をどんどんつくっていきたいです。
現在は、ジッパー付きの収納袋のように、外気に対してきっちり密閉された感じの家が多いと思いますが、たとえば新聞紙をくしゃくしゃっとした中に生まれる隙間空間のようなところで暮らせたりすると面白いのかな、とも。必ずしも最高というわけではないでしょうが、外と触れ合える少し開かれた空間づくりをめざしています。外にというか、地球に向けてちょっと開いているっていう感じでしょうか。
あとは、日本できちんとした仕事を積み上げながら、いつか海外でもきちんと仕事ができるようになりたいですね。
古川紙工株式会社 新社屋 |
白い林檎 photo:Yuko Tada |
白い林檎 photo:Yuko Tada 傾斜地に建つ白い林檎 |
シラハマノヒラヤ photo:Yuko Tada |
シラハマノヒラヤ photo:Yuko Tada エントランスの扉を開けると海が広がるリビングへ |
不定期に催されるイベント 4E-MALT |
奥和田健(おくわだ たけし) 1970年、奈良生まれ。 建築家。 株式会社 奥和田健建築設計事務所 代表取締役。 シンプルかつ開放的な建物で、国内外で注目を集める。 |
縁があり、コラムに携わる事となりました。
橋本征子と申します。1年間宜しくお願い致します。
昨年12月。西梅田スクエア(大阪中央郵便局跡地)にて開催された、SNOW MARCHE。テーマはNY・ブルックリンのクリスマス。
ブルックリンは人口も多く、様々な人種が集う独特の文化の発信地。ほどよく自然体なのに、おしゃれ。そんなカルチャーを生み出し続けるこのエリアでありながらも、おそらく住まう人たちは意識していない。…またそれがいい。そんなラフさがスタイルとでも言いましょうか。
テーマに添って飲食店等が軒を連ねる中、エリアの約半分を占めたのが、barracks*のKiichiro Ogawa氏と上手工作所の徳田健二氏がプロデュースした「BrookNYn Market」。その一部でお手伝いを。
さて人通りは…。大阪駅から徒歩圏内にあるものの、出会うのは知る顔ばかり…。
スタッフもレイアウトや見せ方の工夫など、連日試行錯誤しているのがわかる。
数日間、定点観測をしたのですが、どうすればより活気が出るかの答えが解らず、会期が終わってしまう。最終日に拵えられたフラッグが、その答えの糸口として心に残ります。
イベントは広場(スクエア)でするべきか、通路(ストリート)でするべきか。改めて考えてみる。江戸時代の街並み。通りの両脇に店が並ぶ。そこに人が集まり、井戸端が情報の発信基地。通路が通り道ではないかのような、人の滞留を生む場所。
スペースとは与えられるものではなく、自分達で見つけ出すものではないかと。
「箱」ではなく「空いてる間」なのではないかと。私はこれからの「BrookNYn Market」が、これからもっと進化を遂げるのが楽しみなのです。
※BrookNYn=ブルック人(ぶるっくにん)。と読みます。「そこらへんの有り合わせのものでささっとカッコよく作ってしまう人=ブルック人」
BrookNYnのスタッフはユニフォームとして、米軍のテント生地を再利用したエプロンを身につけた。これがブース全体の統一感が出ていい演出。 会期中も進化する空間づくり。トラックの幌でつくられたフラッグ。これめっちゃいい。 関係あるのか無いのかの一枚。NYのタイムズスクエアに展示されたアート。 ブルックリンベースのKyu Seok Ohという彫刻家の「Counting Sheep」(紙製)。 このアイデアは、作者が幼少のとき、自宅近くの錦糸町の「通り」の光や音や匂いのなかに身を置いたときの、興奮と戸惑いの混じった感情からきているそうで。 2011年のものですが、ひつじ年ということで、2015年宜しくお願いいたします。 |
橋本征子(はしもと せいこ) スペースデザインカレッジ広報。 おしゃべりだいすき。CO2の排出量で光合成のお手伝いをしている。 と、思っている。 |
やぁ、私だ。ティム・バートンが新たな傑作を撮り上げた。これは人を欺くプロセスについての物語であり、アートにおける「作者とは?」という命題についての考察である。1960年代、ウォーホールと同様ポップ・アートのアイコンとして注目を浴びたウォルター・キーンをご存知だろうか。最近だと奈良美智が眼の大きな人物を描いて高い評価を得ているが、その半世紀前、彼は一連の「ビッグ・アイズ」をした子どもたちの絵画で一世を風靡した。彼の及ぼした影響は実は作品のみにとどまらない。20世紀は複製芸術の時代と呼ばれたわけだが、絵画をポスターやポストカードにじゃんじゃん印刷して安く売りさばく、つまりアートの大衆化を先駆けた人でもあったのだ。ただし、キーンはキーンでも、本当に絵を描いていたのはウォルターではなく、妻のマーガレット・キーンだった。この映画は、法廷でも争われたキーン夫妻の出会いと別れをとても興味深く見せてくれる。
なぜ彼女が「本当の作者」として名乗り出ずにゴースト・ペインターとなり果てたのかはフィルムをご覧いただくことにして、ここではティム・バートンの冴えた演出に触れたい。わずか数年のうちに巨万の富を得た夫婦は、サンフランシスコの郊外に豪邸を構えている。ウォルターが稀代の話術で「自作」の広報活動に勤しんで派手な暮らしを謳歌する一方、マーガレットは娘にすら立ち入らせないアトリエでただひたすら「キーン作」の「ビッグ・アイズ」を描き続けている。文字通り、いや、映像通り、見事な陰陽だ。そこへ遊びに来た女友達にふとした拍子に作業部屋へ入られ、秘密がバレそうになった後、無論キーン邸はどんよりとした空気に包まれる。監督はその気まずさを夫妻とその女友達に、広いリビングの広いソファーにそれぞれかなりの距離をとって座らせることで表現する。たったワンカットの引きの画。しかも、ひとことのセリフも無しにすべてを観客に悟らせる匠の技と言えよう。さらにリビング奥の庭にはプールがあり、水面が反射する光も家族の心理状態を代弁する大道具として活用しているのだから、このモダンな建築物が果たす役割はまったくもって大きい。また、映画という装置そのもののメタファーとして枚挙にいとまがないほど用いられてきた鍵穴も、この作品では少なくとも私は見たことがない利用のされ方をするのだから目が離せない。
ところで、名優テレンス・スタンプ演じる名うての美術評論家からニューヨーク・タイムズの紙面で「作品が低俗で悪趣味だ」とこき下ろされたウォルターが激高し、彼に「絵も描けないくせに評論なんてするんじゃねぇ」と食ってかかる場面があるのだが、これは「芸術における作者」の問題を考察するこの映画のもうひとつのテーマとリンクしていて面白い。まさにキーンのようなポップ・アートの出現も手伝い、60年代は「作家の作家性を超えたテクスト論」が広く論じられ始めた時代でもあった。ウォルターは、自分の筆によらぬ作品に自分のオリジナリティを付与するために嘘の筆舌を尽くした。映画冒頭で引用されるウォーホールの「ビッグ・アイズ」に向けた言葉「いい作品でなければあんなにたくさんの人々に愛されない」は、旧態依然とした作家主義への批判も含まれていたと考えるのが自然だろう。
嘘がいかにして生まれ、いかにしてバレるのか。芸術を我々はいかにして評価すべきなのか。ティム・バートンの描く示唆に富んだ「ビッグ・アイズ」の裏側をぜひ「刮目」されたい。
Big Eyes SPV, LLC. ALL Rights Reserved. |
『ビッグ・アイズ』 原題:Big Eyes 2015年1月23日全国公開 監督:ティム・バートン 脚本:スコット・アレクサンダー、ラリー・カラゼウスキー 製作:スコット・アレクサンダー、ティム・バートン、リネット・ハウエル、ラリー・カラゼウスキー 出演:エイミー・アダムス、クリストフ・ヴァルツ、クリステン・リッター、ダニー・ヒューストン 、テレンス・スタンプ 2014年/アメリカ/106分/カラー/ビスタ 配給:ギャガ |
野村雅夫(のむら まさお) ラジオDJ/翻訳家 ラジオやテレビでの音楽番組を担当する他、イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳なども手がける。 FM802 (Ciao! MUSICA / Fri. 12:00-18:00) Inter FM (Happy Hour! / Mon., Tue. 17:00-19:00) YTV (音楽ノチカラ / Wed. Midnight) |
子供のときから「みんなと一緒のこと」をやるのがなぜか嫌いで、流行りの服も着たくないし、しぶしぶついていった団体旅行ではペースを乱すし、大学の卒業式は袴を着なかった(でも結局、院の修了式で着た)。大人になってからは、みんなが一斉にやる行事に抵抗している。GWだからといって遊びに出かけたくないし、大晦日だからといって大掃除したくないし、正月だからといってわざわざおせちやお雑煮食べなくてもいい。
でも、人がやってるのを見たら、あとからやりたくなる。あとからやるくらいなら一緒にやればよかったのに!やらないならやらないで貫けばいいのに! あまのじゃく! とお思いになっていらっしゃるでしょうが、面倒くさいやつだと自覚はあるので許してください。
というわけで、正月に大掃除を始めました。そして今も進行中です。どうしてこんなに片付けができないのか…と今まで見て見ぬふりをし続けていた自分の家の惨状に心が折れそうになったときは、この本を読んで自分を励ましています。
名作家具のヒミツ
ジョー スズキ (著)
1,728円 (税込)
出版社: エクスナレッジ (2014/9/30)
デザインに関心のある人なら必ず知っている名作家具(部屋が片付けられないわたしでも掲載されている家具の半分以上は見たことある)。ここに出てくる個性豊かな家具たちとそれを生み出したデザイナーたちの言葉は、「みんなと一緒」が嫌いなわたしを魅了する。片づかない部屋の中で雑多なものに埋もれていても、ここに出ている写真を眺めていれば、夢が広がる。この名作家具とともに暮らす生活を想像してしまう。
この本に書かれている家具の誕生秘話はどれも本当に人間くさい。ひとくせもふたくせもあるデザイナーたちが、個性豊かなプロダクトを思いつき作り上げるまでに意外なきっかけがあったり、今では大人気の椅子が発売当時は人気がなかったり、一躍スターになるために偶然が重なったり、人のつながりが運命を左右したりと、家具の「人生」はとてもドラマティックだ。
目録や解説やカタログでは味わえない人間くささは、デザイナー本人にインタビューした話で構成されているからなのだろう。この本の主役は家具ではなく、人だ。名作を生み出し、世に送り出し、流通させ、選び、愛していった人々が主役だった。
家具のデザインで何より大事なのは機能性だと思う。どういう機能を目指してどういう工夫をしたのか。デザイナーたちが語る言葉に、暮らしに対する哲学が見え隠れする。この本を読みながら、わたしはどういう暮らしをしたいのだろうと改めて考え始めている。まあ、まずは部屋を片付けなきゃ。話はそれからですね。大晦日までに終わりますように。今年は先取りの方向で。
寒竹泉美(かんちくいずみ) HP 小説家 京都在住。小説の面白さを本を読まない人にも広めたいというコンセプトのもと、さまざまな活動を展開している。 |