アサダワタル 日常再編集のための発明ノート

「人気ゆるキャラの"コスプレ"をするゆるキャラ」として人気が出るゆるキャラ

寒竹泉美の月めくり本

水無月本 :the DESIGNER says -デザイナーから学ぶ創造を磨く言葉たち

野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳

人と人とが惹かれ合うプロセス ~シンプル・シモン~

真子 レシピでつながる世界の景色

花を飲む初夏(タスマニア、オーストラリア)

風戸紗帆 建築素人のデザイン体験記

名刺づくりを体験するの巻

インタビュー 浜崎健 さん

(聞き手・進行 牧尾晴喜)

い人、という通称で知られるとともに、浜崎健立現代美術館を構えるギャラリストでもあるアーティスト、浜崎健さん。彼に、新作『IN-FLIGHT PAINTING』を中心にして、創作にまつわる話をうかがった。

-------飛行機のフライト中に絵を描く『IN-FLIGHT PAINTING』を2011年から始められ、作品を発表されています。まずはこのシリーズに取り組むようになった経緯を教えていただけますでしょうか。
浜崎: きっかけにはいろんな要素があるんですけど、東北で震災が起きたこと、もうひとつは個人的な話で、ちょうどその頃に鳥取の実家がなくなりました。生まれ育った実家には、大阪に出てきてからはほとんど帰ってなかったんです。でもまあ、何かあれば帰れる場所であり、子どもの頃から大事にしていた宝物みたいなもの、たとえばブリキのおもちゃや服なんかがありました。実家の荷物を整理するとき、ぼくの物もほとんど捨てられたんです。
 そのとき、自分でも意外だったんですけど、すごく楽になったと感じました。毎日使っているような物とちがって、実家にある物や家のタンスの中の物っていうのは、所有しているというだけで、実はリアリティがありません。震災のタイミングもあって、物や所有することについていろいろと考えたんですが、物にはなんの意味もないというか、単なるきっかけに過ぎないんじゃないかっていうふうに強く思うようになって。

-------身軽になられたんですね。
浜崎: そうなんです。そういうことを色々と考えているときに、飛行機で描くっていう行為を始めました。旅行や展覧会で飛行機にはよく乗りますが、ぼくは元々、飛行機に乗るのが全然苦にならないんですよ。何時間でも乗っていたいくらい。パカッて道具を開くとテーブルがアトリエになって、飛行機が地上から飛びたって降りるまでの間に一個の作品をつくるという行為。飛行機のなかは暗いし狭いし動くし、そういうちょっと過酷な環境でギュッと集中して描くことがすごく面白いなと感じたんです。飛行機が好きだから、そういう好きな場所で描く、と。嫌なこともしないとやっぱり生きられないときもあるけど、なるべくなら削ぎ落して、好きなこと、やりたいことをやっていきたいですね。物をいっぱい持つことって大事だけれど、それが余分な脂肪みたいに、部屋を狭くしていたり、何かの足かせになっていることもあるとおもうんです。自分にとって筋肉のような部分だけで生きられたら、すごく物がいらなくなるんじゃないかなと。
 それと、海外でよく展覧会とかさせてもらいますが、特に欧米から出てくる作品には、すごく大きいものが多いじゃないですか。オブジェとか絵とかも、やっぱり大きい方がいいみたいな感じで。ぼくもすごく大きな作品をつくりたいと思っていた時期があったんですけど、ある程度大きい作品をつくって持っていって展示しても、向こうで見るとそんなに大きく感じられないんですよね。ぼくの勝手な見解なんですけど、日本という島国で生まれたことがアイデンティティである人間が、アメリカやヨーロッパの大陸に大きな作品を持っていって発表しても、同じ土俵に立てないんじゃないかなってちょっと思って。生まれた土壌が違うし、大きさやパワーで勝負するだけじゃ無理だなと。そうやって自分なりに納得できる作品や概念、同じ土俵に立てるものって何かなと考えてみると、小さいけれどすごく合理的だったり、小さいけれどそこに宇宙があることっていうのが、日本人的というかアジア人的なのかなと思ったんです。

-------もう一つの新作『IN-SLEEP DRAWING』について。
浜崎: 言葉通り、寝ながら描いてるんです。飛行機に乗るのと同じくらい好きなことが、寝ることなので。ペンをくくりつけて寝るから、今日もちょっと手がしびれてるんですよね。多分風邪の治りが悪いのもそのせい。熟睡できてないから。そのときの夢日記とセットで一つの作品なんですが、電話で起こされたりすると夢を覚えてなくて苦労するときもあります。最近はコンディションを整えるために寝るんじゃなくて、寝るためにコンディションを整えてます(笑)。夢と現実の境目が最近よく分からなっている気もするんですが、結局のところ、『夢を売る芸術家』ということで絵を描いてますから。

-------アメリカの砂漠で開催されるバーニングマンや水都大阪をはじめ、さまざまなイベントでの茶会でも有名です。お茶には昔から精通されていたんですか?
浜崎: 実は昔はお茶には興味がなかったんですが、友達で落語家の桂あやめさんを通じて、彼女のお茶の師匠の黒田宗光さんにお会いしました。それまで持っていた「辛気臭いもの」というお茶のイメージをあっけなく覆されましてね。それからお茶会がライフワークになって、いままでで150回くらいはお茶会をやっています。
 バーニングマンは砂漠に即席の街をつくってしまうという大規模なイベントで、巨大な彫刻や派手なパフォーマンスなんかもいっぱいあるんです。一週間のためだけに、ビルみたいな物も建ててるんですよ。そのなかで、一畳のスペースにちいさな宇宙空間を作りだすお茶の世界が異様に映ったのかもしれません。バーニングマンというイベント自体が世界的に有名になり、ぼくも運よく、バーニングマンで有名な日本人ということでよく取りあげられるようになったんです。それを狙っていたわけじゃないんですけど、ずっと行ってたらたまたまそうなったというか。そういえばGoogle創業者のラリー・ペイジ氏も、バーニングマンに最初の頃から行ってますね。

-------浜崎さんがアーティストの道に進まれたきっかけを教えてください。
浜崎: ぼくは子どもの頃はスポーツばっかりやってたんです。たまたまテニスをやっていて、中学校のときに国体強化選手で選ばれていました。テニスだけやっていれば勉強はしなくてもいい、みたいな感じで。やるからにはプロになりたいなって思ってたんですけど、高校生になって日本全国を見ると、強い選手がいっぱいいたんです。自分にとっての可能性が少しでも見えたらやりたいんですけど、ぼくは松岡修造さんと同い年で、あの人のプレーを見たときに、日本の中で既にこんなすごい人がいる、勝てない相手がいると分かって、そういう状況でプレーするのが嫌になってしまったんです。それと、一生現役でいられる仕事がしたいなと思ったときに、スポーツって凄い素敵だけど、現役の選手としては難しいですから。ライフワークとして考えていくと、それまではあまり向きあってこなかった文化系のほうが向いているんじゃないかなと思って。
 それからロンドンに行って自分のことや日本の良さを客観的に見ることもできて、今の自分があります。いまも、何か新しいことを始めるときには、子どもだった頃にワクワクした記憶を引っ張りだしてきます。それがコアにあって、いかにアートとして発展させるか。

-------今後、どのような作品をつくっていきたいですか?
浜崎: 『IN-FLIGHT PAINTING』のほうでは、今は飛行機で描いてるけど、宇宙へ行くときに無重力で作品をつくりたいなあと。夢としては、宇宙にその作品を置いてくることです。ぼくは今、皆既日食にすごく凝ってるんですが、日食って、何月何日にどこそこで見られる、みたいになるじゃないですか。あんなふうに、何月何日にどこそこの上空にぼくの作品がまわってくる、と。望遠鏡で作品を見たりとか、すごくワクワクします。美術館に入るとか誰が買うとかじゃなくて、アートってそれぐらいのことかなと。
 もう一つ最近考えているのは、ぼく自身の形をしたデカいものをつくりたいなと思っています。『ガリバー・ケン』って呼んでるんですけれど。たとえば1.8 キロぐらいの長さがあって、寝転がってるんです。宇宙からガリバー・ケンを見て、地球からは浮かんでいる作品を見る相互関係みたいな。そんなことが死ぬまでにできたら楽しそう。口から入って遊べたりとか、経営の方法とか具体的に考えているわけではないですけれど、そういう何か分からないけれどワクワクするようなことって凄くいい。
 アートって、やっぱりそんなふうに生き方なのかなって。いまの時代、模写したら同じものはすぐにつくったり描いたりできるじゃないですか。でも何が違うのかっていうのは、そこに入ってるパッションとか、目に見えない気持ちとか、そういうかかわり方が大事なのかなと。20世紀って物の時代で、ぼくはまさしくそういう時代に育ちました。21世紀っていうのはアーティストとして物や作品を残すだけじゃなくて、お茶会や『IN-FLIGHT PAINTING』でも、そういう精神的な部分も伝えられたら一番いいのかなあと考えています。



『IN-FLIGHT PAINTING』展示風景 @浜崎健立現代美術館
 
『IN-FLIGHT PAINTING』展示風景 @浜崎健立現代美術館
 
World Tea Gathering:世界大茶会
2014年6月21日~24日、アイスランドにて開催
 
浜崎健立現代美術館
大阪府大阪市中央区南船場4丁目11-13 REDビル
大阪市営地下鉄御堂筋線 心斎橋駅クリスタ長堀北12番出口から徒歩約1分
06-6241-6048
開館時間: 12:00-20:00
毎週水曜日定休
 
浜崎健(はまざき けん)
1967年生まれ。現代美術家、画家、ギャラリー経営者。
20歳で渡英し、制作をはじめる。様々なものを赤一色で表現する作品やパフォーマンス、迷路をモチーフとした絵画などで知られる。バーニングマン1999で「RED TEA CEREMONY」を行い、以降、MISIAのツアーをはじめ、各地で「RED TEA CEREMONY」のパフォーマンスを重ねる。1992年に自らのギャラリーを構え、その後は移転、改称を重ね、1997年からは大阪・南船場に、建物の内装や外装を赤一色にした浜崎健立現代美術館(Ken Hamazaki Red Museum)を構える。
 

「人気ゆるキャラの"コスプレ"をするゆるキャラ」として人気が出るゆるキャラ

日6月1日。兵庫県高砂市でに開かれた全国からゆるキャラを集めたイベント「ご当地博」にて、千葉県船橋市の非公認キャラクター「ふなっしー」の偽物が現れ、"中の人"が兵庫県警高砂署に取り押さえられ&庶務質問された事件はご存知だろうか。神戸新聞によれば

「イベントは同市の主催で、ゆるキャラは熊本県の「くまモン」など47体が出演。ただ、「ふなっしー」は日程が合わず、オファーを断っていたという。同市によると、同日正午ごろ、偽物は会場で20~30人の子どもに囲まれていたが、ステージ上のご当地アイドルに「ふなっしーだ」と指さされると、慌てて駆けだしたという。」(「神戸新聞NEXT」 6月2日配信記事より)

 その後の事情聴取で、"中の人"はどうやら「母親の勧めで、自分の子どもを喜ばせるために着ていた」らしいのだが、争点は「そもそも著作権法的にそんなことやってよかったん?」って話。これについては既にハフィントンポストの記事で世間の声が取り上げられているので参考にしていただきつつだが、まぁ一言で言うと「コスプレとどない違うの?」ってことなのだ。実際、今回のところ"中の人"は「違法性はなっしー!!」ということで釈放されたそうだが、なんかこのニュース、僕的にはすごく気になった。

 一方でゆるキャラ界で先陣をきって著作権を開放したのが、東京都品川区にある大崎駅西口商店会のマスコットキャラクター「大崎一番太郎」だ。大崎一番太郎はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに基づき、「営利目的での二次創作、二次利用もOK」という立場をとっている。その理由として「権利管理の経費&労力の削減」などが挙げられているが、とりわけ重要なのは「情報発信力に特化したキャラクターとして特化することにより、地元のみならず他の地域の活性化にも貢献できるキャラクターとして育てることが可能なのではないか」と書かれていたことだ(参考:NAVERまとめの記事)。

 他の地域の活性化にも貢献するキャラクターとして、津々浦々で勝手に繁殖していくキャラクターという発想は面白い。しかし、実際はまだまだ大崎一番太郎の存在は、ひこにゃんやくまもん、ふなっしーほどの人気を獲得していないのも事実。「新駅開業太郎」という派生キャラが生まれる自作自演(!?)も始まっているが元ネタ自体が有名でないからどうなることやら。そこで改めてこういう発明はどうだろう。「全国各地で大崎一番太郎自体を"中の人"として活用する」という案。つまり、こんな感じ。「あれ!ふなっしーだ!おかしいな。今日は来ないはずだったのに…。ひょっとして偽物…?捕まえろー!(捕まえて)一体、お前は誰なんだ?!(脱がされる。すると中には…)ああ!大崎一番太郎!またお前か!!!」みたいなことで知名度を上げる。"中の人"がクリエイティブ・コモンズでありながら、他の人気ゆるキャラを"コスプレ"するという体裁を、みんなが"お約束"として実行する。そのお約束自体を、事前に人気ゆるキャラと協定を結んでおく。こうして大崎一番太郎が意図する「情報発信力に特化したゆるキャラ」としての謎の知名度を獲得する。こういう批評性高きコミュニケーション文化を育んでいくことも、ここまで発展したゆるキャラ界だからこそ可能なのではないか。


(イラスト:イシワタマリ)

アサダワタル
日常編集家/文筆と音楽とプロジェクト
1979年大阪生まれ。
様々な領域におけるコミュニティの常識をリミックス。
著書に「住み開き 家から始めるコミュニティ」(筑摩書房)等。ユニットSJQ(HEADZ)ドラム担当。
ウェブサイト

水無月本 :the DESIGNER says -デザイナーから学ぶ創造を磨く言葉たち

iPadでKindleが読めることを知って以来、電子書籍を購入することが多くなった。縦書きで読めるし、字体は美しいし、文字の大きさは変えられるし、何より思い立ったらすぐに購入して読むことができる。いつも原稿の締切間際になって、あの本読まなきゃ、この資料をチェックしなきゃと慌てるので、夜中でも休日でもクリック一つですぐに読める電子書籍は非常にありがたい存在なのです。
 しかし小説家の端くれとしては、「やっぱり紙が一番」だとか、「本は本屋で手に取って買わなくちゃ」とか言わなきゃいけないような気にもなる。だけど、正直に言うと、実は、わたしはハードカバーの本が苦手なのです。何が苦手かって、あの紙のカバー。扱い方が分からない。読むときには邪魔になるし、鞄に入れたら引っかかってやぶれてしまう。本棚に抜き差しすると上下がよれよれになる。だからといって、外してしまうと何だか表紙がさみしくなる。ただの覆いだと思えば捨てられるけれど、デザイン的にカバーの方がメインのように見えるので捨てるに捨てられない。一体どうして単行本というものは、あんな扱いにくい形をしているのだろう。
 と、一見、本の紹介とは関係なさそうな話をしているのは、今回紹介するこの本があまりにも手触りがよくて感動したからなのでした。


the DESIGNER says -デザイナーから学ぶ創造を磨く言葉たち
販売価格:2,000円+税 Sara Bader(サラ・ベイダー)・編著 田中芽理・訳
ビー・エヌ・エヌ新社(2013年9月発行)

 これなんです! わたしが求めていたのは、こんな装幀の本なのですよ! ほどよい大きさで、さりげなく丸くなっている角。重すぎず軽すぎない、ちょうどいい重量感。しっかりとした固い表紙。朱色がかった鮮明な赤色に美しい箔押しの文字。なでなでするたびに心が癒されるあたたかみのある手触り。いっそ頬ずりしたいけれど、顔の脂がつきそうなのでそこは我慢。中のページの手触りも最高。ざらっとしていて、それでいてしっとりしている紙は、かすかに黄色がかった優しい白色をしている。
 こんな本なら、わたし、古本や文庫本や電子書籍じゃなくて、絶対に新刊でそろえてしまう。そして、棚に並べてにやにやして、ときには取り出してなでなでする。
 この本には見開きにひとつずつ、様々なデザイナーたちの名言が書かれていて、わたしは気まぐれに開いては何度も読み返している。だけど、もしその言葉がのっぺりとした電子画面に表示されていたなら、読み返すことはないかもしれない。もしくは、ページを開いたり棚から取りだしたりするたびに、カバーの端がよれよれになってしまう本に書かれていたとしたら、本が汚くなるのが嫌で、手に取らなくなったかもしれない。でも、この本は違う。手に取ってページを開くのが無条件に楽しいから、わたしは、本を取り出し、ページを開いてしまう。そして、そのたびに彼らの言葉に出会い続ける。開くタイミングによって、その言葉はいろんな意味をわたしに与えてくれる。
 機能性を追求した結果の美。この本はまさに、このデクスター・シニスターの言葉を体現しているのでした。

物事はうまく機能するからこそ美しい。
うまく機能させようと努力する過程が、物事を美しくする。
どちらのアプローチも面白いが、見た目が最優先ではない。
僕たちが興味あるのは、副作用のかたちだと言えるかもしれない。
――デクスター・シニスター 「the DESIGNER says デザイナーから学ぶ創造を磨く言葉たち」より

寒竹泉美(かんちくいずみ) HP
小説家
京都在住。
家族のきずなを描くWEB小説「エンジェルホリデー」毎日連載中。
デビュー作「月野さんのギター」の映画化企画が進行中。

人と人とが惹かれ合うプロセス ~シンプル・シモン~

ぁ、私だ。普通とは何か。「普通の人」と簡単に人は言うけれど、それはどういう人のことを指すのか。こんなにぼんやりした言葉もないのではないか。そんなことを考えさせるのが今月の作品『シンプル・シモン』だ。
 スウェーデンに暮らす18歳のシモンは、発達障害の一種アスペルガー症候群を抱えて生きている。誰しもがそうだが、彼は特に周りのサポートを必要としていて、シモンのことをいつも気にかけているのは、心優しい兄サム。何か気に入らないことがあると、お手製のドラム缶ロケットに潜り込んで妄想宇宙旅行に出かける弟を見かねた彼は、あろうことか恋人と同棲している自宅に弟を呼び寄せ、共同生活を開始する。ただ、大方の予想通り、トゥーマッチな自分の生活ルールを押し付けるシモン中心の暮らしはやがて破綻を来たし、恋人は家を出てしまう。落ち込むサム。シモンは一念発起して、サムの新恋人探しを始めるのだが…
 これが長編デビューとなるエーマン監督は、アスペルガー患者への同情も遠慮も示さない。目指したのは、シモンに見える世界のあり様を折にふれて画面に溶けこませることだろう。これは下手なヒューマン路線よりもよっぽど映画的にまっとうなアプローチではないか。観客の見慣れた世界に「視覚的に」揺さぶりをかけ、この手際が抜群なのだが、やがてはあの問題児シモンが愛おしく感じられ、面白いことに「普通」の登場人物が「普通でなく」見える価値の転倒すら体験させてくれるのだから。上っ面の同情とおっかなびっくりの遠慮がない代わりに、ここには愛情がある。それが伝播してくる。
 今作の肝となるそんな視覚効果に大きく寄与しているのは、鮮やかな色の選択とポップなインテリアデザインだ。IKEAのグローバル展開で我々にもすっかりお馴染みとなったスウェーデンのデザインが、ここではその特徴をより強調して(あるいはデフォルメされて)姿を現し、後半のファンタジックな展開に向けて大事な下地となっている。
 冒頭の質問を繰り返す。普通とは何か。「情けは人の為ならず」を地で行くストーリーラインは、人と人とが次第に惹かれ合っていくプロセスを、相手の普通ではない(自分にとって)特別な魅力を発見していくプロセスとして見せてくれる。スウェーデンのキュートなポップミュージックに導かれて映画を見終わる時、あなたはきっとシモンが、いや、登場人物みんなが、ひいては人間が愛おしくなるに違いない。

(c)2010 Naive AB, Sonet Film AB, Scenkonst Vasternorrland AB, Ljud & Bildmedia AB, All Rights Reserved

『シンプル・シモン』

全国順次上映中。
関西は、6/21からシネ・リーブル梅田、京都シネマ、7/19から元町映画館にて。

監督:アンドレアス・エーマン
脚本:アンドレアス・エーマン、ヨナタン・シェーベルイ
出演:ビル・スカルスガルド、マッティン・ヴァルストレム、セシリア・フォッシュ、ソフィー・ハミルトン
原題:lrymden finns inga kanslor
2010年/スウェーデン/86分/スウェーデン語/ビスタ・サイズ/カラー
配給・宣伝:フリッカポイカ



野村雅夫(のむら まさお)
ラジオDJ/翻訳家
ラジオやテレビでの音楽番組を担当する他、イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳なども手がける。
FM802 (Ciao! MUSICA / Fri. 12:00-18:00)
Inter FM (Happy Hour! / Mon., Tue. 17:00-19:00)
YTV (音楽ノチカラ / Wed. Midnight)

花を飲む初夏(タスマニア、オーストラリア)

スマニア北中部のカタラクト渓谷に紫陽花の咲き乱れる季節。すこし汗ばむような陽気のなかで、待ち望んだ夏の到来もちかいと色めきたつ人々の喉を潤す爽やかな飲み物がある。タスマニア産エルダーフラワーという花のエキスを使う。冷たいサイダーや紅茶と合わせたり、レモンを浮かべたり、シャンパンに加えても美味しい。

真子
スケッチ・ジャーナリスト
タスマニアと名古屋でデザインと建築を学ぶ。専門はグリーンアーキテクチャー、療養環境。国内外の町や森をスケッチブック片手に歩き、絵と言葉で記録している。
ウェブサイト

名刺づくりを体験するの巻

回は名刺づくりをデザインから体験しました!大阪o堺市にある「まちの印刷屋さん」ホウユウ株式会社で制作をしていただきました。これまでフリーペーパーづくりをしていたときに名刺をつくってもらったことはありますが、自分だけの名刺を、しかも印刷のプロの方と一緒につくるのは初めてです。
 まずは関連会社で運営する『紙カフェ』で、名刺に載せる基本的な情報である、名前やメールアドレスなどを用紙に書き込んでいきます。どんなデザインにしたいか、私は特に考えがなかったので、お店の田中さん、松永さんからアドバイスをもらいながら紙質oフォントo縦横o色など全体のバランスを考えていきました。載せたいイラストなどがあればとあらかじめ言われていたので、自分で描いたイラストを用意していました。印刷屋さんだから特別なのかもしれませんが、紙の種類が豊富で、環境に優しいケナフ、わらがみ、バガスなど聞いたことのない紙や、手芸でよく使われる羊毛でできた紙までありました。全て質感が違うので、気になる紙のサンプルの感触を確かめながら決めていきました。フォントひとつでも全体の雰囲気が変わるので、慎重に選ばなければなりません。
 仕事・趣味・イベント用など様々な用途で実際につくられた名刺も見せてもらって、私の中で名刺というものに対する見方が広がった気がします。名刺は仕事で取引先の会社の人に渡すことしか想像していませんでしたが、イベントの告知をするための名刺があったり、本のしおりにもなる名刺があったりとオリジナルなものをつくることができるのです。名刺のデザインでは決めなければならないことはたくさんありましたが、対面で打ち合わせできたので、自分が名刺をどう使っていくのかという用途をはっきりさせて、それに合うものができました。
 あとは一週間程度で出来上がるのを待つだけとなり、わくわくソワソワしていました。
 完成した名刺が手元に届きました。シルバーダイヤのツルツルとした質感で、程よい厚みのしっかりとしたものになっていました。表は白地に黒の文字で名刺の基本的な情報が入っていて、裏は私のイラストを大胆に入れてはどうかというアドバイスもあり、全面にきのこのイラストです(笑)。シンプルながらもインパクトのある名刺に仕上がりました。
 この名刺が出来上がってからはまだインタビューなどに行っていないので、誰にも渡していませんが、早く誰かに渡したくて仕方ありません!

風戸紗帆(かざと さほ)
京都精華大学人文学部3年生(2014年4月に3年生になりました。)
文章を書くのが好き。柔道初段を持っている。ちなみに得意技は一本背負い。