アサダワタル 日常再編集のための発明ノートパン屋のパン屋によるパン屋のためのパン食い競走 |
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ミホシ 古典×耽美人形峠 |
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野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳靄の向こう側 ~眠れる美女~ |
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小林哲朗 モトクラ!ディスカバリーフレアスタック |
(聞き手・進行 牧尾晴喜)
プロのポーカープレーヤーであり、2012年には日本人選手としてはじめてポーカーの世界選手権(WSOP)での優勝を果たしている木原直哉さん。彼に、ポーカーの世界やポーカーに対する姿勢についてうかがった。
-------昨年(2012年)にはポーカーの世界選手権(WSOP)の「ポット・リミット・オマハ・シックス・ハンデッド」で優勝を果たされました。初歩的な質問ですみませんが、こういった世界的な大会というのはいくつかあるのでしょうか?また、大会に出ていない時期は、どのように過ごされますか?
木原: WSOPほどの規模ではないにせよ、大会はたくさんあり、毎週のように世界のどこかでやっています。もちろん、どの大会に出るかは自由ですし、出ようと思えば出続けることもできます。
ひとによって違いますが、自分の場合、どちらかというと大会に出るのは少ないほうです。自分はポーカーをはじめて6年くらいしか経っていないんです。もっと強くなりたいし、まだまだ強くなれると思っています。いまはそのためのトレーニングも大事なので、とにかく大会に出続けるといったことはしていません。
ここ2年くらいは、海外4ヶ月、日本8か月、といった感じでしょうか。海外にもう少し出たほうがいいかな、という気持ちもあります。日本にいると、ポーカーの大会やトレーニングのほかに取材を受けたりもするので、ついつい日本滞在が長くなってしまいます。
------ポーカーでは、どのような実力や能力が大事ですか?
木原: まずは相手の手を冷静に考える力です。そして、自分が相手のことを考えているということは、同じように、相手も自分のことを考えているわけです。そこで、相手が自分のことをどのように考えているかを読む能力が重要になってきます。ごく特定の状況以外、相手の手は読めないし、読むのは不可能です。でも、相手が自分の手をどう読んでいるかを読むことはできるし、すごく大事です。
それから、あるプレーをするほうが期待値が高いと判断すれば、それにのっとって勝負できる勇気も大事です。まあ、慣れてくるものですが(笑)。たとえば、ブラフのほうが得という判断をしたら、金額が大きくてもためらわずに勝負します。逆に、ブラフをしてはいけない状況なのに、それまでに費やしたお金、ポットに入れたお金のことを考えてブラフをしてしまうというのはよくありません。
もちろん、こういった能力については、ぜんぶがそろっていなくてもいいですし、特定の能力が突出して他の弱さをカバーしているプレーヤーもいます。自分はバランスよくプレーするタイプです。
------記憶力は関係しますか?
木原: ブラックジャックなどのゲームでは記憶力も関係しますが、ポーカーではどういう札かを覚える必要はないです。ただ、相手が前日にどういうプレーをしていたかなどは覚えておけるなら有利ですね。
自分の場合は記憶力には本当に自信がなくて、同じテーブルで8時間一緒だったプレーヤーから、次の日に声をかけられても相手が誰か分からないことが多々あります(笑)。
------ポーカーの勝負では、多額のお金が短時間で動くことも多いですね。日常生活で金銭感覚がずれてきたりしないかな、という気もするのですが、いかがでしょうか?
木原: ポーカーで50万円や100万円といった金額が動くからといって、日常生活で数万円をポンポン使うといったことはありません。
ポーカーで動くお金は、たとえばTVゲームの「ドラクエ」で敵を倒すともらえるゴールドに似ています。戦ってゴールドをためながらレベルアップしていく感じです。「はがねのつるぎ」や「てつのたて」を買うのはコストがかかるけれど、次からの戦いはラクになって、という風に。時間や戦いという意味では、ポーカーと似ているところもあります。負ける確率が低い敵とだけ戦っていればゴールドはたまります。でもそれで時間を費やしても仕方ないですし。
ただ、ドラクエのゴールドとポーカーで稼ぐ実際のお金の違いは、現実世界で使えるかどうかですね(笑)。ポーカーで稼いだお金は現実世界にもってきて使えますが、なるべく次の大会の軍資金にしたいので、もったいないという気持ちもあります。
------木原さんの著書『運と実力の間(あわい)―不完全情報ゲーム(人生・ビジネス・投資)の制し方―
』では、頭が熱くなっている相手から一対一の勝負を申しこまれて、「ギャンブルが好きではないので」提案を断ったエピソードも書かれています。
木原: 基本的にはギャンブルは好きではないので、できることなら避けたいですね。たとえば52%の勝率で五分五分のお金をかけるかどうかという状況であれば、期待値からいえば、勝負するほうが得なんです。ただそれでも、自分の場合には金額が大きいと嫌なほうですね。
カジノでこういうことを言うと、相手が無茶なことをしてくれなくなるので、あまり得ではないです。相手が無茶なことをしてくれると、こちらとしてはそれはありがたいわけなので。
------子どものころはどんな感じでしたか?
木原: 考えるのが好きでした。学校の勉強でも、いわゆる「記憶系」はそれほど得意ではなかったので、処理能力でカバーしていました。たとえば、数学の公式なんかも、大体の形はおぼえていて、あとはその場で公式を導く、といった感じで。
------今後のビジョンを教えてください。
木原: ポーカープレーヤーは世界中にたくさんいます。そういったなかで、「誰が一番強いか」という話題になったときに常に名前が挙がるような、トップクラスのプレーヤーになりたいです。ポーカーの強さは計れるものではなくて評価です。たとえば100メートル走は結果が明らかですが、「誰がいちばん仕事ができるか」といった話になると、評価方法によるので、決めることはできないですよね。だから、ポーカーの場合も、とにかく勝って実績を積んでいくことです。近めの目標としては、次のタイトルを早めに、遅くても4・5年くらいの間には獲りたいですね。
もうひとつは、ポーカーのイメージ向上に貢献していきたいです。自分は将棋からはじめた人間なので将棋の話をしますが、昔は将棋にはネクラなイメージがあったとおもいます。それが、1995年の羽生善治さんと谷川浩司さんの対局あたりから、非常に注目をあつめました。あのときは羽生さんが7冠制覇に向け、また、谷川さんは阪神大震災で被災されたばかりで神戸復興に重なるイメージなどもありました。いまは子どもに習わせたいという方も多く、将棋にはとてもいいイメージがあるとおもいます。ポーカーもそんなふうになってほしいです。いまはまだ、「アングラ」や「(金銭面で)汚い」といったイメージも残っているかとおもいますが、投資やビジネスに通じる、健全な知的ゲームなんです。
運と実力の間(あわい)―不完全情報ゲーム(人生・ビジネス・投資)の制し方― 木原 直哉 (著) 出版社: 飛鳥新社 (2013/6/8) |
木原 直哉(きはら なおや) プロ・ポーカープレーヤー。1981年北海道生まれ。 2001年東京大学理科一類入学、2011年3月に10年かけて東京大学理学部地球惑星物理学科卒業。東京大学在学中には将棋部に所属しながら、バックギャモンのプレーヤーとしても活動。その後プロのポーカー選手となり、同年の世界ポーカー選手権大会で「ノー・リミット・ホールデム」に初参戦、入賞を果たす。 2012年の第42回世界ポーカー選手権大会 (2012 World Series of Poker)で、6月18日から20日にかけて行なわれたトーナメントナンバー34、「ポット・リミット・オマハ・シックス・ハンデッド」に参加し、日本人選手としては初めて世界選手権での優勝を果たした。優勝賞金は$512,029、参加者数は419名。 |
10月である。食の秋、運動の秋、芸術の秋。とりわけ一介の音楽家として秋は各地でライブや滞在制作が多く、ゆく先々で仲間たちと語らいながら現地の名物と酒を食らうのが楽しい。と言っても高価なものではなく、日常的な食材にちょっとした趣向を凝らして地域の特色をアピールしているような美味しく、かつ笑えたりする食が好きだ。例えば、僕は出張するとその地元のパン屋さんによく行く。地元ならではの食材をふんだんに使ったパン屋、喫茶店が併設されご近所おばちゃんたちの語り場になっているパン屋、ユニークな地元新聞を発行するパン屋、フェアトレード雑貨店を併設している天然酵母のパン屋などなど。
最近、ネットでパン屋について検索していると、面白いニュースをいくつか発見した。まずひとつに『「パンのまち神戸」PR 県協同組合などが5日に多彩なイベント』( 2013年10月3日付「msn 産経ニュース」)という記事。どうも神戸は1世帯当たりのパンの消費量が全国トップの「パンの街」らしい。その魅力を発信しようと、試食会から、パンで作った工芸作品や世界中の名物パンの展示会など、とにかくこの秋にかけて「見る・知る・食べる・パンのまち神戸」をテーマにした町ぐるみのイベントが開催されるらしいのだ。一方で、『食パン戦争 コンビニPBと「パン屋のプライド」が真っ向勝負』(2013年9月17日付「NEWS ポストセブン」)という記事。セブン-イレブンがプライベートブランドとしてうちだす「金の食パン」が売れに売れている状況に対して、老舗のパンブランド 山崎製パンが「ユアクイーンゴールド」にてプライドをかけた逆襲撃をしかけるといったパン屋業界の過酷な競争話。製造メーカーだけでなく、新規開店のパン屋と老舗のパン屋が地域で生き残りの競争を繰り広げているような記事も散見される。そう、パンも時代の変化に巻き込まれて大変なのだ。
そこで、先ほどの神戸の町ぐるみのパンイベントと、この過酷なパン競争時代を組み合わせた面白いアイデアを思いついた。まず、冒頭で書いたように、食の秋であると同時に、運動の秋である。運動の秋と言えば…、運動会!!もう、僕の家の近所でも朝から子どもたちが、きゃりーぱみゅぱみゅとか、懐かしの爆風スランプの「ランナー」とかが鳴り響く中、校庭を走り回ってますよ。そして町内会の運動会には、僕も大縄跳び担当で参加してきましたよ…。この運動会とパンと言えば…。そう!パン食い競走だ。もったいぶったが、ずばりアイデアを言おう。それは「パン屋のパン屋によるパン屋のためのパン食い競走」だ。地元のパン屋が味やセンスや接客態度で競うだけでなく、年に一度、秋のシーズンにパン食い競走で他店のパンも貪りまくるぐらいのスポーツマンシップ全開で走りきる。それを地元の町おこしイベントとして大々的にフューチャー!きっとその町のパン屋では、シーズンになれば"競走用"にふさわしい形態のオリジナルパンが店頭に並び、お客さんの目と口を喜ばすことになるだろう。
(イラスト:イシワタマリ) |
アサダワタル(あさだ・わたる) 日常編集家/文筆と音楽とプロジェクト 1979年大阪生まれ。 様々な領域におけるコミュニティの常識をリミックス。 著書に「住み開き 家から始めるコミュニティ」(筑摩書房)等。ユニットSJQ(HEADZ)ドラム担当。 ウェブサイト |
今宵の儂は運が良い!
国境の山々の間から月明かりがぼんやりと照らし始めた頃。
若い娘がひとり、旅の途中で疲れたのか小岩に腰掛け休んでいた。
若いおなごじゃ、さぞ肉はやわこいじゃろうて。
様子をじっと窺う沢山の目と足、それは峠に棲む大蜘蛛だった。
流れ者やら行商やら骨張った男ばかりで食い飽きていたところじゃ。
いつものように糸を使って動きを封じれば、皆腑の中じゃ。
はよう、糸を手繰りよせたいの。はよう!はよう!
上物の獲物に気が急いてか娘が本当の人間だと気付かずに…
大蜘蛛はするり、するりと糸を吐きはじめた。
【出典・参考】岡山県の昔話・まんが日本昔ばなしをもとに脚色しています。
ミホシ イラストレーター 岡山県生まれ、京都市在住。イラストレーターとして京都を拠点に活動中。 抒情的なイラストを中心に、紙媒体・モバイルコンテンツなどのイラスト制作に携わる。 |
やあ、私だ。2009年、イタリアは「眠れる美女」の話題で持ちきりだった。といっても、ロマンティックな話ではない。エルアーナという女性が、17年間の植物状態を経て、父親の意志によりウディネという北部の町に移送され、治療を打ち切るという決断を下したことで、イタリアでは神学的にも法的にも政治的にも大論争が巻き起こったのだ。この作品は、エルアーナが亡くなる前後の数日を舞台としているものの、エルアーナその人が登場するのではなく、彼女の尊厳死を巡って揺れ動いた人々が織りなす3つの物語が展開する。
その一。保守政党から出馬している上院議員は、エルアーナの延命治療を続行させる暫定法案に賛成するよう、時の首相ベルルスコーニ率いる党から根回しをされるが、かつて自分自身が妻の尊厳死を受け入れた経験から煩悶する。愛娘は父が母を殺したのだと考えていて、エルアーナの延命措置続行を求めるデモに参加している。そして彼女は、あろうことか現場で延命治療反対派の男と恋に落ちてしまう。
その二。医師パッリドは、エルアーナの死を賭け事の対象にする同僚や、治療への不満を次々とぶつける患者の家族たちに対して心労を覚えていた。そして、勤務先の病院で薬物依存の女とろくでもない出会い方をするのだが、自殺願望の強い彼女に寄り添い続ける。
その三。女優としての伝説的なキャリアを捨て、昏睡状態が続く娘ローザの看病に身を捧げる女性。かたくなな態度が続くあまり、夫婦仲は完全に冷えきってしまっている。俳優志望の息子は母を慕い尊敬するが、その愛は一方通行である。振り向いてもらおうと彼は突発的にある行動をとる。
北イタリアの病院やホテル、女優の豪奢な邸宅、国会議員の自宅、警察署。駅、高速鉄道の車内、ローマの議事堂などなど。名だたる巨匠ベロッキオ監督だけあって、こうした空間はそれぞれのキャラクターや物語を時にさりげなく時に確実に補強する要素として大事な役割を担っており、見どころは多い。なかでも、私が今作の空間的なハイライトと捉えている場所は、トルコ風呂である。突然『テルマエ・ロマエ』の世界にスライドインして、これは阿部寛でも出てくるのではないかと思ってしまうくらいに、複数回、しかも精神科医と国会議員の会話というかなり大事なシーンで登場する。穿(うが)った見方かもしれないが、立ち込める靄で見通しのきかない感じや、それこそ古代より人間が裸のつきあいをしてきた場所での問答は、「死のあり方」という問題の普遍性が強調される場面であるように思う。
そもそもはエルアーナ事件に対するイタリア社会の保守的な叫びに監督がショックを受けたことで創作がスタートした映画だが、名匠は自らの昂ぶりを抑えて、時間をかけながら、視野を広げ、視点を深めたという。結果として、ひとりの女性の死に端を発しながらも、時を超えて共鳴を呼ぶ作品になっている。必見。
(c) 2012 Cattleya Srl - Babe Films SAS 『眠れる美女』Bella addormentata 10月19日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか、全国順次公開 監督・脚本・原案:マルコ・ベロッキオ 出演:トーニ・セルヴィッロ、イザベル・ユベール、マヤ・サンサ、アルバ・ロルヴァケル 2012年/カラー/115分/イタリア=フランス 配給・宣伝:エスパース・サロウ |
野村雅夫(のむら・まさお) ラジオDJ/翻訳家 ラジオやテレビでの音楽番組を担当する他、イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳なども手がける。 FM802 (Ciao! MUSICA / Fri. 12:00-18:00) Inter FM (Mondo Musica / Mon.-Thu. 18:00-20:00) YTV (音楽ノチカラ / Wed. Midnight) |
製造過程で発生した不要なガスを、燃焼させることにより無害化し、安全に処理するフレアスタック。工場の中でも特に目を引く設備の一つだ。青い色はより高温で燃えている証で、辺りを怪しく照らしている。一瞬たりともその形をとどめない炎は、写真に記録しても二度と同じ形を捉えることはできない。被写体としても迫力があり、非常に魅力的だ。
小林哲朗(こばやし・てつろう) 写真家 廃墟、工場、地下、巨大建造物など身近に潜む異空間を主に撮影。廃墟ディスカバリー 他3 冊の写真集を出版。 |
第1回書家川尾朋子 |
第2回字幕翻訳家伊原奈津子 |
第3回紙芝居弁士/ラジオDJ伊舞なおみ |
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第4回写真家田村尚子 |
第5回リソースアーキテクト河原司 |
第6回女優市川純 |
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第7回ランドスケープアーティストハナムラチカヒロ |
第8回翻訳家柴田元幸 |
第9回建築家光嶋裕介 |
第1回講談師旭堂南陽 |
第2回フォトグラファー東野翠れん |
第3回同時通訳者関谷英里子 |
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第4回働き方研究家西村佳哲 |
第5回編集者藤本智士 |
第6回日常編集家アサダワタル |
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第7回建築家ユニットstudio velocity |
第8回劇作家/小説家本谷有希子 |
第9回アーティスト林ナツミ |
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第10回プロデューサー山納洋 |
第11回インテリアデザイナー玉井恵里子 |
第12回ライティングデザイナー家元あき |