アサダワタル 日常再編集のための発明ノート

政治的な街宣音のみを消してくれる ノイズキャンセラーヘッドフォン「ノンポリフォン」

ミホシ 古典×耽美

葛の葉狐

野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳

観察映画危機一発! ~選挙2~

小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

巨大クレーンのある風景

インタビュー ハナムラ チカヒロ さん

(聞き手・進行 牧尾晴喜)

ンドスケープデザイナーとして、数々の斬新なプロジェクトで注目を集めるハナムラチカヒロさん。病院での大規模なインスタレーション作品『霧はれて光きたる春』やクリエイティブシェアの場である『♭(フラット)』を中心に、デザインに対する姿勢についてうかがった。

-------まずは、『霧はれて光きたる春』についてうかがいます。この作品では、病院の大きな吹き抜け空間に霧が立ちこめ、さらにはシャボン玉が舞い落ちてくるといった圧倒的な風景を生み出しました。2012年には、世界最大規模の空間環境系デザイン賞であるDSA空間デザイン賞において、大賞と日本経済新聞社賞を同時受賞されています。
この構想はどのようにして?
ハナムラ: 最初から霧やシャボン玉を使って何かをしようという考えがあったわけではなく、この吹き抜け空間という場所性があったからおもいついたんです。ここは機能的には採光のためだけにあって、誰も見向きもしない空間になっています。病院でも、「ここをつぶしてベッドをつくればもっとたくさんの患者さんを救えるのに」という声もありました。でも、そんなふうに人が目を向けていない風景にこそ、何かの価値や意味を見いだしていくことがアーティストの社会的な役割だとおもっています。

------構想プロジェクトの準備段階では、どのようなことを考えられましたか?
ハナムラ: 最初は、大阪市立大学医学部付属病院の6階から18階までの入院病棟を、くまなく歩いて調査してまわったんです。病院の協力を得て、看護師さんと一緒に白衣を着て医者の様子で調査しました。そのときに気づいたことが2つあります。
 ひとつは、入院患者さん同士のコミュニケーションの重要性を感じたことです。病気というのは自分の身に起こっていることなので家族とも共有できないこともあります。しかし患者同士が自分と同じような境遇の人々の存在を感じるという瞬間を持ったり、そういう人とコミュニケーションの時間を持つ事で、ひょっとするとそうした孤独から少しは解放されるのでは、と考えました。
 もうひとつは、医者と看護師と患者との間のコミュニケーションが固定化しているんではないかという問題意識です。病院では医者や看護師、患者といった役割が規定されていて、お互いに無意識に役割を演じてしまう関係にあるのではないかということです。それはそれで、病気の治療を進めていくうえで欠かせないことですし、病院にかぎらず、わたしたちは常に社会的な役割を演じているわけです。でも、ひととひととのコミュニケーションという意味では、その役割を脱ぎ捨てる瞬間が病院の中にあってもいいだろうと感じました。
 こういう役割とか立場などの壁を取り払われて一瞬でも素のままの状態に戻る時というのは、圧倒的な出来事が目の前に起こっている場合だと思うんです。その瞬間を生み出す事が出来ればと考えました。

------病院での大規模なインスタレーションなので、実施に向けてのハードルはすごく高かったと思います。経緯というか、前段階のようなものがあれば教えていただけますか?
ハナムラ: じつは、『霧はれて……』の前に、病院で2つの作品を作りました。ぼくは『船場アートカフェ』という大阪市立大学のプロジェクトに、ディレクターとしてかかわっていたんですが、その同じディレクターの一人に大阪市立大学医学部附属病院の山口先生がおられました。そちらの病院では、当時で5、6年、写真展やワークショップなどのアートプロジェクトをされていたんです。病院でのアートプロジェクトをより本格的にやっていきたいということで声をかけていただきました。
 最初は、改装中の小児科外来の病棟に仮設の殺風景な壁があり、その壁で何かできないか、ということでした。大学病院の小児科というところは0歳から20歳まで、とにかくすごい数の人が来るんですが、子供たちは2時間待って診察は5分という感じでほとんどが待っている時間です。そこで、この待っている時間を何かに使えないかと考え、子どもたちがこの壁に絵を描けるようにしようと考えました。山と海と空を最初に僕が描いておいて、子どもたちには登場人物を描いてもらうルールにしたんです。その時に、「タングラム」という図形パズルを用いて形を組み合わせる事で壁に自由に登場人物を参加させてもらうようにしました。結果、当初こちらが想定していた形だけでなく、奇妙な太陽やイカのような生物など子供たちの発想で様々なキャラクターが出てきて、壁だけでなく床など当初想定していなかった他の場所にも拡がっていくという感じになりました。この作品は2ヶ月間の展示で撤去されたんですが、展示期間中とても好評で、今度は待ち時間が楽しくて診察に行くのが嫌になったという子もいたくらいです(笑)。重要だったのは、現場の看護師さんたちが喜んでいて、この展示終了後に自分たちでこの作品の常設のコーナーをつくられたんです。僕はその行為に意味があると感じていて、その現場の方々が自分ごととして捉えるようになることで、外部からもちこまれた「芸術」がその場所の「文化」になった瞬間だと思いました。僕は自分の創造性によって誰かのまなざしが変わればいいなといつも願っていて、この出来事は自分の中でも大きな意味があったとおもいます。
 次の年には、800人居る入院患者に向けて6階の空中庭園で何かをしてほしいということでした。相部屋での長い入院生活などもありますので、患者さんたちが一人になるためにやってくる場所です。実際に行ってみると、とても気持ちのいい風が吹いていてこの風に物語を与えられないかと考えました。そこで500個の風船を浮かべ、風を視覚化したんです。風がふけば同じ方向に風船が倒れ、逆からふくと反対に倒れます。夕方の凪の時間には空に向かって垂直にピンと風船が立ち始めます。雨が降ると風船に水滴がついて沈むんですが、乾くとまた浮かんできます。そして、この風船には一つずつにメッセージが添えられています。看護師さんからの言葉を集め、詩人の方と一緒に刻んで、ひとつひとつの風船に違う言葉をつけました。こうやって患者さん達が下りて来て言葉に出会い、何か心に響く物があれば、風船をちぎって部屋に持って帰ることができるようにしたんです。開始当初500個の風船を浮かべましたが、2日で200個がなくなりました。病院のような場所は治療が最優先されますし、どうしてもアートは後まわしになります。しかしそんな場所でこそ、アートのような角度から近づくことで不安な心に何か手を差し伸べられるかもしれないと改めて感じました。

------そういう信頼関係もあったうえで3年目に、『霧はれて……』が実現するわけですね。
ハナムラ: はい、3年目では、すべての病院のひとを対象にして「どこで何をやってくれますか」と言っていただけました。それまでの信頼関係の積み重なりがあって、今度は一緒になって場所の可能性を探すところからスタートしたんです。やはり、病院のようなデリケートな現場にアーティストが入って行くにはそうした信頼関係が重要だと思いますし、通常の美術館ではありえないような制約やリクエストにも応えて行かねばなりません。たとえば、『霧はれて……』では、機材の電源や搬入などさまざまなハードルがありましたし、市大病院の場合は実施の2日前に、用意していた音楽をすべて変えました。当初作っていた音楽のリズムが、心臓の鼓動のリズムに同期してしまうので、脈や心拍が不安定になってしまう患者さんがいるからという理由で。先ほどの風船の作品でも、事故などが起こらないよう、力がかかるとすぐに切れるような不織布を探して使用しました。病院のようにアートに対する制限がとても強い場では、自分で用意している答えをもっていってすぐにやりたいことを実現するのではなく、生の現場と向き合って、いろいろなリクエストを乗り越えていくような作品や態度が必要なんだと思います。

------次の話題にうつります。芸術と生活創造の場、クリエイティブシェアの実践の場として、『♭(フラット)』を運営されています。立ち上げられたきっかけは?
ハナムラ: フラットは2008年10月に立ち上げたんですが、それ以前は大阪大学のコミュニケーションセンターで仕事をしていました。哲学者の鷲田清一さんや劇作家の平田オリザさんをはじめ、いろいろなジャンルの方々が、それぞれの立場でコミュニケーションについて研究や実践をされていましたが、ぼくは空間デザインからコミュニケーションデザインにアプローチしていて、実際に街のなかでもいろいろな実験を展開しました。色々とさせていただいたのですが、さまざまな可能性とともに、大学という枠組みでできることの限界も感じました。たとえばシンポジウムなどを開催すれば、関心があるひとが集まり、参加して帰っていきます。でもその出来事を見たいと思っていなかったり、その話題に特別な関心がないひとがたまたま見て関心を持つようになることの方がひとが成長する度合いが大きいと感じたのです。
 そこでスペースを借りて実験アトリエとして立ち上げ、自分の生活や生き方自体も一から問い直しながら、様々な目的をもった人々が偶然出会ってしまうようなきっかけのある場を作ろうと考えました。ここではクリエイティブシェアというコンセプトを作って、目的意識、利害関係などが異なるひとたちが出会い、価値観や創造性をシェアし交換する場を目指しています。

------クリエイティブシェアをするにあたって目をつけられたのが大阪の緑橋というのもユニークですね。
ハナムラ: 当時は、まだ誰にも目をつけられていない場所でした。既に何かの創造性の共有を始めようとしている人たちがいる地域はその人たちに任せておけばいいと考え、新しい場所で新たな芽をまこう、と。僕のアトリエはもともと活版印刷工場だった物件で、物件を発見した翌日にはここで立ち上げようと決めていました。ガスはきていない、電気はかろうじて、といった環境で、一から生活を獲得したかったんです。ぼくは演劇や映画で俳優をやることがあるんですが、当時主演していた舞台の稽古にも使っていました。当初一人で解体するところからスタートしましたが、様々な人々がここの場作りに関わっています。演劇の稽古場から映画の撮影場所、文化にまつわるシンポジウムの開催、地域の子どもたちの劇団の稽古、大学生たちとの工事といった感じで、いろいろな出来事を通じてネットワークが広がっていき、世代や価値観の違いを超えた交流がうまれてきました。左官や水道工事など建設行為のワークショップもしました。そうした工事の中でたとえば1本でも釘を打てば、その場所に愛着がわきます。そうやって場を中心にして集まる人々が演劇のように物語を繰り広げていくなかで場所への誇りや愛着が生まれ、サロンのような場所へと繋がって行きます。僕が提唱するクリエイティブシェアとは、ひとが持っているクリエイティビティをみんなでシェアするということ、そしてまたシェアによってクリエイティビティがあがっていくことなんです。

------ハナムラさんはどんな子どもでしたか?
ハナムラ: 韓国のソウル生まれの母と京都生まれの父の間に生まれ、親族のほとんどはアメリカに居ました。日本と韓国とアメリカという3つの国に関わっていたぼくはずっと全部のコミュニティからはどこか外側に居た感覚がありました。つまり、日本というコミュニティの外側だったし、韓国というコミュニティからみても外側だし、日本のいわゆる「在日」のコミュニティからも外側でした。母とは日本語で話し、母と親族は韓国語で会話し、アメリカから来た親族とぼくは英語で話したりしていました。だから、ずっと大阪で育ちましたが、このまち自体が僕にとって外国に居るような気分でした。小学校の頃って、クラスにグループがあったりしますよね。ぼくはどのグループとも仲良くなるけれど、どこにも所属せず、グループをつくることもなく、という感じでした。
 こうやったコミュニティの規範から離れた状態にいると、そのコミュニティの内側では見えないものを外から発見したり、あるいはその集団を相対化できる立場にいることがあります。いま思えば、そういう見方をしていたところがあるかもしれません。自分は旅人であるということはずっと意識していました。

------今後のビジョンを教えてください。
ハナムラ: いま手がけている仕事のひとつに、この7月に北海道でのモエレ沼公園で開催されるフェスティバルのプロデュースがあります。ランドスケープアーティストのイサム・ノグチがつくった公園として有名で、その場に居ると地球や宇宙の広がりまで感じられる空間です。都市のなかで生きていると視界が閉ざされていて、星空を眺めたり地球や文明といった大きなスケールに思いをはせることを忘れてすぐに目の前のことにしか目がいかなくなってしまいます。そんな日々の中で一年に一度、この公園で繰り広げられるフェスティバルに物語を与えて毎日の忙しい生活で忘れかけていることに目を向けてもらえるようなものにしたいと考えています。
 僕が何か表現するときに大切にしているのは、僕自身の自己表現でなく、人間の生き方や普遍的な何かにつながっているようなメッセージを考えるプロセスです。自分のイマジネーションや創造性が何かそれに触れるひとにつながって共有されていくことが重要だとおもっていますし、それ以上に芸術という手段で、僕たちが知らない間に陥ってしまっている考え方やまなざしに揺さぶりをかけて、別の角度が物事を捉えるためのきっかけに気づいてもらいたい、と言ってもいいかもしれません。



霧はれて光きたる春:SHINING SPRING AFTER CLEARING FOG
 
霧はれて光きたる春:SHINING SPRING AFTER CLEARING FOG
 
霧はれて光きたる春:SHINING SPRING AFTER CLEARING FOG
 
霧はれて光きたる春:SHINING SPRING AFTER CLEARING FOG
 
霧はれて光きたる春:SHINING SPRING AFTER CLEARING FOG
 
タングラムスケープ:TANGRAM SCAPE
 
タングラムスケープ:TANGRAM SCAPE
 
風のおみく詩:MESSAGE OF WIND
 
風のおみく詩:MESSAGE OF WIND
 
♭(フラット):FLAT
 
♭(フラット):FLAT
 
♭(フラット):FLAT
 
♭(フラット):FLAT
 
ハナムラ チカヒロ
1976年大阪生まれ。ランドスケープアーティスト。パフォーマー。大阪府立大学21世紀科学研究機構准教授。クリエイティブシェア提唱者。
民間デザインオフィス、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター特任助教を経て、現職。「風景とまなざし」をデザインする観点から、建築や公園などの空間や現象のデザインを行うとともに、コミュニケーションを生み出すプロダクトのデザインや公共空間でのアートインスタレーションなども行う。2012年、DSA空間デザイン賞において大賞と日本経済新聞社賞を同時受賞。
 

政治的な街宣音のみを消してくれる ノイズキャンセラーヘッドフォン「ノンポリフォン」

2013夏の参院選総選挙。今回は初のネット選挙解禁後の総選挙ということもあって、どこどこの候補者が「(フェスブックで)700"いいね!"達成!」と喜んでいると思ったら、ネット選挙戦略のコンサル業でどこどこIT系企業の景気がすこぶる良くなったとかとか。でも、市井の人間として日常を送っている立場として、"選挙"を一番意識する場面ってやっぱり選挙カーからの演説じゃないかと。今日も朝8時きっかりに始まりましたよ。「え~、おはようございます! ■×党の○山△男です~!」みたいな声、声、声。猛暑に追い打ちをかけるかのように暑苦しく響き渡る選挙演説の声にうんざりしている方々もきっと多いのではなかろうか。
 そんな中、興味深い記事を見つけた。『しつこく名前を連呼する「選挙カー」 住民は「静かにして」と要求できるか』( 2013年6月30日付「弁護士ドットコム」より)と題されたこの記事には、選挙カーの音量に規制がない理由を、公職選挙法をもとに詳しく紹介している。例えば、学校、病院などの周辺では静穏を保つように努めるという趣旨の規定はあってもあくまで努力義務であったり、騒音防止条例などの自治体のルールも選挙活動においては適用除外にされてしまうことなどなど。しかしこの記事の内容もさることながら、より興味を惹かれたのはハフィントンポストにてこの記事に対して寄せられた読者投稿の内容である。以下、一部転載。

(前略)この時期、私は「ノイズキャンセリング」機能付きのヘッドホンと音楽プレイヤーで凌いでいます。この組み合わせは最高で、目の前で怒鳴る人がいても、まるで聞こえないので、気がついたらマイクで辻説法している候補者の目の前を、知らずに通り過ぎたこともあるほどです。(中略)選挙演説の騒音がきになる方は、ぜひ「ノイズキャンセリング」を試してみてください。それだけの価値はあります。(by nmitaさん)

 この投稿から思い付いたのは、政治的な街宣音のみ消してくれる ノイズキャンセラー付きヘッドフォンを開発するということ。名前は「ノンポリフォン」だ。オールクリアーモードでは、全政党の演説がキャンセルに。また比例代表政党セレクトモードでは、気になる政党だけはキャンセルせずに残しておくことも可能。小選挙区モードでは、立候補&応援演説予定の政治家の全声紋を完全インプット。そのため、個人別にキャンセルモードを割り当てられるなど、高精度な機能を実装!(BOSEあたりが開発してくれないだろうか…。)さぁ、政治にあなたの声を届ける第一歩がここから始まりますよ。選挙は確かに大事だし、候補者が有権者に対して自らの政治的主張を訴えていくことは必要であろう。しかし政治不信が続く中で、有権者が候補者の言葉をちゃんと信じてみようと心から思える前提として、あえて「聞かない"自由・権利」もあってもいいのではなかろうか。

(イラスト:イシワタマリ)

アサダワタル(あさだ・わたる)
日常編集家/文筆と音楽とプロジェクト
1979年大阪生まれ。
様々な領域におけるコミュニティの常識をリミックス。
著書に「住み開き 家から始めるコミュニティ」(筑摩書房)等。ユニットSJQ(HEADZ)ドラム担当。
ウェブサイト

葛の葉狐

の母は葛の葉という白狐です。大層美しい狐で娘だったと聞きました。


母を助け怪我を負った父と恋仲となり私が生まれました。
しかし私が幼い頃に故郷の森へ帰ってしまった。
幼かった私は母恋しさに何度森へ出向こうかと思ったことか…。

紛らわすように宿命付けられたように、占星術をはじめ学問にのめり込みました。
それらはすんなり私を受け入れ、膨大な知識は星のごとく燦々と照らしてくれた。
葛の葉…母もきっと喜んでくれるはずと。

十を過ぎたある日、鴉から興味深い話を聞きました。
私は京へ向かう決心をした。母の遺してくれた詩と宝を胸に。



【出典・参考】葛の葉狐伝説 ※伝説をもとに脚色しています。

ミホシ
イラストレーター
岡山県生まれ、京都市在住。イラストレーターとして京都を拠点に活動中。
抒情的なイラストを中心に、紙媒体・モバイルコンテンツなどのイラスト制作に携わる。

観察映画危機一発! ~選挙2~

あ、私だ。今月は参議院選挙。投票率はまた低迷するのだろうか。『選挙2』を観て、少々やるせない気分になった一方、作品はめっぽう楽しかったのでここに報告する。
 獅子によく似たボスが仕掛けた郵政選挙の頃、想田和弘監督は川崎市議選を対象にしたドキュメンタリー『選挙』を製作。自民党から落下傘候補として突然立候補することになった友人の山さんこと山内和彦が、選挙のプロである地元組織の神輿に乗せられ、言われるがままドブ板選挙を展開して勝利を収めるまでを追いかけたもので、国内外で非常に高く評価された。その後、山さんは任期をまっとうしたものの、次の選挙では自民党の公認を得られずに不出馬。主夫として子育てをしていた。
 一方、『選挙』で観察映画という手法を確立してみせた想田監督は、『精神』『Peace』『演劇』と、その後立て続けに話題作を連発。下調べなし。台本なし。ナレーションなし。音楽なし。ないない尽くしでとにかくただひたすら被写体と向かい合うスタイル「観察映画」を提唱・実践してきた。
 そして2011年、震災直後の4月。山さんが再び市議選に出馬するという。しかも、今回は完全無所属。スローガンは脱原発。知らせを受けた監督は、今回もまた「いきあたりばったり」にカメラを回し始めるが、前回のようには「観察できない」ことに気づく。なぜか。複数の要因がある。ひとつは、カメラ慣れ。山さんも他の候補者も、前回の映画『選挙』のことを覚えていたり観ていたりして、今回はカメラを無視してくれないのだ。もうひとつは、今回の山さんがあまり動かないこと。前回の裏返しで、組織も事務所も選挙カーもタスキも握手もなし。ポスターを貼ってハガキを送付するくらいで、いわゆる選挙活動をほとんどしないのだ。前回のまるっきり裏返し。結果として、監督は他の候補者たちの様子にも積極的に目を配り始めると、複数の候補者からあからさまな撮影拒否をされてしまい、これまでの作品ではありえなかった摩擦と軋轢が生じるのだ。観察映画の危機! 否応なく迫られるスタイルの変更に監督も少なからず困惑する様子がジリジリと伝わってきて、これが無類に面白い。前作とのコントラスト。山さんと他の候補者とのコントラスト。ほとんど白黒反転したようなその鮮やかさに、私たちはむしろこれまで以上に食い入るように観察を強いられる。
 それにしても、目につくのは候補者の白々しい訴えであり、有権者の白白とした視線である。鑑賞後のもやもやはこれまでの想田作品の中でも群を抜く。そう、私たちは実生活においてもっと選挙を観察すべきなのだろう。参院選にぶつけるようにして公開されるこの作品が、広く観られることを強く望んでいる。

(C) 2013 Laboratory X,Inc.

『選挙2』

監督・製作・撮影・編集:想田和弘
製作補佐:柏木規与子
配給・宣伝:東風
2013年/日本・米国/149分/HD/観察映画第5弾

シアター・イメージフォーラムほかで緊急ロードショー
7月6日十三第七藝術劇場、7月20日神戸アートビレッジセンター、順次京都シネマにて公開

野村雅夫(のむら・まさお)
ラジオDJ/翻訳家
ラジオやテレビでの音楽番組を担当する他、イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳なども手がける。
FM802 (Ciao! MUSICA / Fri. 12:00-18:00)
Inter FM (Mondo Musica / Mon.-Thu. 18:00-20:00)
YTV (音楽ノチカラ / Wed. Midnight)

巨大クレーンのある風景

の気配が少ないベイエリア中でも、元気に働く巨大クレーンは一段と目を引く存在だ。写真右側、赤白模様のガントリークレーン(通称キリンさんクレーン)は、数基並んで群れをなすことを好んでいるように見える。一方背中合わせの写真左手のグレーのクレーンは一匹狼、孤高の存在。真下にある黄色の重機と比べるとその大きさに驚く事だろう。

小林哲朗(こばやし・てつろう)
写真家
廃墟、工場、地下、巨大建造物など身近に潜む異空間を主に撮影。廃墟ディスカバリー 他3 冊の写真集を出版。

第1回

 書家
 川尾朋子

第2回

 字幕翻訳家
 伊原奈津子

第3回

 紙芝居弁士/ラジオDJ
 伊舞なおみ

第4回

 写真家
 田村尚子

第5回

 リソースアーキテクト
 河原司

第6回

 女優
 市川純

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: アサダワタル 日常再編集のための発明ノート

連載2: ミホシ 古典×耽美

連載3: 野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳

連載4: 小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

第1回

 講談師
 旭堂南陽

第2回

 フォトグラファー
 東野翠れん

第3回

 同時通訳者
 関谷英里子

第4回

 働き方研究家
 西村佳哲

第5回

 編集者
 藤本智士

第6回

 日常編集家
 アサダワタル

第7回

 建築家ユニット
 studio velocity

第8回

 劇作家/小説家
 本谷有希子

第9回

 アーティスト
 林ナツミ

第10回

 プロデューサー
 山納洋

第11回

 インテリアデザイナー
 玉井恵里子

第12回

 ライティングデザイナー
 家元あき

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: 野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳

連載2: 河原尚子 「茶」が在る景色

連載3: 小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

連載4: ミホシ 空間と耽美

第1回

 建築家
 藤本壮介

第2回

 書容設計家
 羽良多平吉

第3回

 漫画家
 羽海野チカ

第4回

 小説家
 有川浩

第5回

 作庭家
 小川勝章

第6回

 宇宙飛行士
 山崎直子

第7回

 都市計画家
 佐藤滋

第8回

 作家
 小林エリカ

第9回

 歌手
 クレモンティーヌ

第10回

 建築史家
 橋爪紳也

第11回

 女優
 藤谷文子

第12回

 ラッパー
 ガクエムシー

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: 野村雅夫 フィルム探偵の捜査手帳

連載2: 澤村斉美 12の季節のための短歌

連載3: 小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

第1回

 イラストレーター
 中村佑介

第2回

 書家
 華雪

第3回

 華道家
 笹岡隆甫

第4回

 小説家
 森見登美彦

第5回

 光の切り絵作家
 酒井敦美

第6回

 漫画家
 石川雅之

第7回

 ギタリスト
 押尾コータロー

第8回

 プロダクトデザイナー
 喜多俊之

第9回

 芸妓/シンガー
 真箏/MAKOTO

第10回

 写真家
 梅佳代

第11回

 歌人
 黒瀬珂瀾

第12回

 演出家
 ウォーリー木下
   

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: きむいっきょん(金益見) ラブ!なこの世で街歩き

連載2:  野村雅夫式「映画構造計画書」

連載3: 【連載小説】 ハウスソムリエ 寒竹泉美