アサダワタル 日常再編集のための発明ノートオフィス街パラソル弁当におけるビジネス紙芝居 |
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ミホシ 古典×耽美雪女 |
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野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳男を糊にして繋がれた女たち ~つやのよる~ |
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小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー石膏学校 |
(聞き手・進行 牧尾晴喜)
書の可能性を追求し、自身の作品や、さらにはミュージシャンやファッションブランドなどとのコラボレーションでも注目を集める書家、川尾朋子さん。彼女に、書の魅力や作品制作に対する姿勢についてうかがった。
-------まずは、多く手掛けておられるロゴなどの話からうかがいます。たとえば、「嵐山」の駅の題字を揮毫されていますが、この作品では何を意識して書かれましたか?
川尾: 2年くらい前になりますが、阪急電鉄の100周年にあわせて嵐山駅のリニューアルがありました。題字の依頼をいただいたのは、ちょうど展覧会でベルリンにいたときです。納期が迫っているという事情もあり、ベルリンで書いたものをスタジオで撮影して送り、後で現物の作品を渡すということになりました。そのような流れだったので、じつは上の2つの文字『史跡および名勝』と『嵐山』はベルリンで、下の『ARASHIYAMA』はデンマークで書いたんです(笑)。現地のアーティストにスタジオを借りたり、阪急電鉄の担当の方と携帯電話の時間帯設定を合わせたり、といったことがいくつもありました。日本で作業するとき以上に、たくさんのひとに協力してもらって、この題字ができたんです。
作品の制作にあたっては、遠くから嵐山のことを思いました。たとえば家族なんかでも同じですが、ちょっと離れてみるとよくわかることがありますよね。ベルリンは、歴史深いけれど現代的でもあり、そういった点では京都と似ています。でもやっぱり、京都に独特なことも多いんです。百人一首でも詠われている嵐山の景色を、ちょっと遠くから改めて眺めてみる、というイメージでこの題字を書きました。それと、わたしは女なので、しなやかな強さを意識しました。
------音楽に関係するロゴもありますが、たとえば『Rock Beats Cancer FES 2013 vol.1』のロゴでは、アルファベットを書かれています。日本語を書くときとずいぶんと違うのかな、という気がしますが、どうでしょうか?
川尾: 漢字は表意文字で、アルファベットやひらがなは表音文字ですよね。アルファベットは、ひらがなと同じように、いくつかの集まりでひとつの言葉ができています。また、ひらがなは、丸みを帯びていて、昔は「女文字」とも言われていました。そういうことを思いながら書きました。
それと、力強さや筆からしたたる墨の痕跡を残したかったので、筆先が30センチくらいある、大きな筆で書きました。墨のしずくで空中での筆の動きがわかります。そうやって、一字一字がつながっていくことが伝わればいいな、と。このイベントはAYA世代(15~29歳)と呼ばれる世代に向けた、がん疾患啓発・がん研究推進のためのチャリティフェスですが、これを通じていろんなひとがつながっていけばいいなあという思いがあります。
書道は、二度書きができない、一回かぎりのものです。一度書き出したら、後戻りはできなくて、最後まで書かないといけない。一回かぎりで後戻りができないというのはわたしたちの人生と似ています。これは、わたしが書道で一番好きなところです。
------まさに書道の一回かぎりという特徴につながりますが、百貨店をはじめ、記念イベントなど華やかな場でパフォーマンスをされることも多いですね。面白さと怖さの両方があると思いますが、いかがですか。
川尾: 書道には欠かせないのですが、古典臨書、つまり模写の訓練を毎日続けています。また、祥洲先生に師事していますが、先生がいつも「紙の命は一回」と言っておられ、一枚一枚を大事に、「二枚目はない」と常に意識して書くことを心がけています。パフォーマンスに臨むときには、そういう日頃の行為を自分自身に言い聞かせています。そして現場では、正座をして墨をするなどの準備の段階を経て、呼吸を整えていきます。
とは言うものの、墨のバケツをひっくり返してしまった失敗なんかも、昔はありました(笑)。足場が滑りにくかったり、書くために用意していただいた場所が高すぎたり、といった普段との違いがどうしてもあります。
------最近の作品である『呼応』シリーズについて教えてください。
川尾: 古典臨書の話をしましたが、中国でも日本でも、1,000年以上前からの書道のスーパースターみたいな人たちがいるわけです。そのひとたちの「書」、つまり二次元のものを見て臨書するのですが、形だけじゃないな、と考えるようになりました。つまり、見た形だけではなくて、空中でどうやって筆が動いているか、さらには時代背景、そのひとの人となりやその時の状況、などを想像しながら書かないと、本当の臨書にはならない、と。それで、空中でどうやって筆が動いているかを想像して、三次元でとらえてみようと思うようになりました。それが『呼応』シリーズの原点です。
二点のつながりを考えるということは、日常生活でも、意外としていません。自分の過去から現在をつなげて考えることや、家族と自分の間、だとか。そうやって見えないものを想像するきっかけになればいいな、という思いがあります。
------今年4月に開催される『和紙で、包む展 in ミラノ』など、和紙をはじめとする伝統工芸士やデザイナーとのコラボレーションも展開されています。
川尾: 2012年の秋にIPECで発表した作品では、ひとつの作品を八等分して、色にもバリエーションをつけ、好きなようにシャッフルできる、という形にしました。他のひとがかかわってくださることで、自分の枠を超えたところまで作品が持っていかれるというときに、一緒につくることの可能性を感じます。日本の伝統である書道や和紙はもちろん、こういったデザインを綺麗に仕上げていく日本の技術は本物だと思いますし、本物を海外に持っていくことは大事だとおもいます。ちゃんとした技術、素材でつくったものを見ていただければうれしいですね。
------書道を志すようになったきっかけを教えてください。
川尾: 書道をはじめたきっかけは、小さいときにすごいお転婆だったので、習ったらどうか、とすすめられたんです。いい先生とのご縁があって、また、書道が自分に合っていたんだと思いますが、すごく好きになって、ずっと書道を続けていました。でも、書道で生きていくとは思っていなかったんです。大学卒業のときには就職の内定も決まっていて、内定先でアルバイトもしました。このときに、どっちかを選ばないといけない、と考えるようになって、内定を辞退して書道を選びました。
最初は書道だけで食べていけなくて、「9時5時」の仕事をかけもちしていた時期もあります。京都大学の医学部で実験手伝いなんかもしていました。遺伝子工学関連で、細胞を育てたり、顕微鏡をみたり、実験したり。こういう経験も、いまやっている墨の調合などで役に立っていたりして、無駄はなかったですね。体のなかのほうを見せてもらったのも、生命の捉え方という点で、特別な経験になりました。
------年賀状などで、新年には筆をとるひとも多いと思うのですが、ワークショップ『筆墨硯紙と暮し:自由な文字を手にするヒント』について教えてください。
川尾: 1月13日のワークショップでは、「今年の言葉」ということで、2013年の自分の決意や目標など、自分で選んでもらった言葉を書きお持ち帰りいただきます。私も大筆で今年の言葉を書くパフォーマンスをします。中之島デザインミュージアムの入口では、横230cm縦165cmの超特大年賀状が1月13日まで展示されています。
------その他の、展示やイベントのご予定などを教えていただけますか。
川尾: お正月のしつらえとして、ホテル&レジデンス六本木のエントランスホールに「呼応」の屏風が1月15日まで展示されています。
2013年は、2月に京都でライブパフォーマンス、4月にミラノでの和紙の展示5月に京都、12月に東京でのグループ展で作品を展示する予定です。詳細はホームページをご覧下さい。
------今後のビジョンを教えてください。
川尾: いまはフォントばかりの世界になってきていて、自分で文字を書くことが少なくなってきています。生きた文字というか、生きた人間が書いた文字をもっと世の中に残していきたいです。
あとは、私にしかできないことを、もっと広い世界でやりたい、という漠然とした思いがあります。海外もそうですし、たとえばビルの一面全部が書になっているとか、公園みたいな広い場所を飛行機から見てみると綺麗な書があるとか。スケールの大きなことに挑戦したいですね。
2012年12月26日 京都にて
阪急電鉄嵐山駅「嵐山」揮毫 |
Rock Beats Cancer FES 2013 vol.1 2013年2月22日(金) 会場:Zeppなんば大阪 料金:全席指定6,000円(税込) 出演:LOUDNESS、デーモン閣下、他 主催:FM802 詳細はこちら(チューリッヒ生命のプレスリリース) |
大丸京都店 エントランスホール ライブパフォーマンスの様子 |
大丸京都店 店内/ショーウィンドウ 2011.10.15-11.9 |
川尾朋子展「呼呼応応」 2011.11.19-12.24 SATOSHI KOYAMA GALLERY(東京) |
Ko-ou
書家 川尾朋子 デザイン 山下順三 販売元 京都・和紙来歩 IPEC2012 11.9-11 |
『筆墨硯紙と暮し:自由な文字を手にするヒント』 色紙-今年の言葉 日時 1月13日(日)15:00?16:30 会場 中之島デザインミュージアムde sign de 参加費 2500円(材料費込み) 申込方法 件名に「筆墨硯紙と暮し」と明記し、お名前、参加希望日時、連絡のつく電話番号、Eメールアドレスを info@designde.jp 宛にお知らせ下さい。前日までの受付です。 |
川尾朋子(かわお ともこ) 兵庫県出まれ。京都在住。書家。 6歳より書を学び、国内外で多数受賞。2004年より祥洲氏に師事し、書の奥深さに更に取り憑かれ、"書に生かされている"ことを強く感じる。古典に向きあう日々の中で、代表作である「呼応」シリーズが生まれる。この作品は、点と点のあいだにある、空中での見えない筆の軌跡に着目したもので、見えないものを想像することをテーマとしている。ライブパフォーマンスやワークショップもこの「呼応」を根底にして行っている。 また、"生活の中にある書"として、阪急嵐山駅の「嵐山」をはじめ、新聞、テレビ、ラジオ等の各メディアや寺社、ファッション、インテリアなど、あらゆる媒体に登場する文字や墨表現も、好評を得ている。 |
本回より学芸カフェにて、連載することとなりましたアサダワタルです。
日常生活にあまた溢れてはいるが、普段はなかなか気づかない様々な創造的種子(要はネタ)を発見し、それを文章にしたり、音楽にしたり、あるいは街中で実際にプロジェクトとしてやってみたり。とにかくその種子を、「表現」という樹木へと育てる(ちょっと大袈裟ですけど)。そんなことを生業にしております。
この連載では「住み開き」(自宅を中心としたプライベートな空間を、自分の好きなことをきっかけに無理なくちょっとだけ人様に開くこと)のようなネタを小出しに披露していき、「こんなん実現したら面白いんちゃうん!?」「うわ、この発明、社会変えちゃうかも…」と勝手に小躍りしつつ、なおかつ読者の皆さんと一緒に実現に漕ぎ着けられたらいいなぁと妄想する次第でございます。さぁ、日常生活をヘンテコおかしくリミックスしちゃいましょう。
さて、まず今回僕が目をつけたのは、かつて日本にあまた存在した「街頭紙芝居」。昔、紙芝居のおっちゃんが街にやってきて、公園とかで「黄金バット始まるよ~」とか言って、太鼓鳴らしたりしながら、わんさか子どもたちを集めて実演するあれですね。興味深いのは、あれ、ビジネスとしてよく出来てるんですよ。実は紙芝居がメインでなくて、話を盛り上げて行きながらちゃっかり飴とか駄菓子を子どもたちに売る。紙芝居はあくまで物売るための商い芸なわけです。でも子どもたちはそんなことも関係なくとにかく紙芝居の続きを毎回楽しみに待っているわけで、おっちゃんが来たらわぁーっと集まってきて、街頭には一時的なコミュニティが発生する。こういった要素の表現を、現在において実現しようと思ったらどんな代わりがあるだろうか。
そこで、思いついたのが、オフィス街によくあるパラソル弁当屋さんを舞台にしたビジネス紙芝居という発明!
場所は、子どもたちが集まる公園からビジネスマンが集まるオフィス街の路上にチェンジ!売り物はアメや駄菓子ではなく弁当にチェンジ!そして大人対象のビジネス的な素養を盛り込んだ紙芝居を実演するわけ。ちょっと椅子とかを設ければ、そこでそのまま弁当を食べながら、『AERA』のビジネス特集ばりの内容が瞬時に、かつエンタメ要素たっぷりで聞けてしまう。「そうか、今日は"優良中小企業の条件講座"か…。受けていこっと」とか「今日の演目は"上司を上手く使いこなすコツ"だから弁当買いに行こう」とか「10月の毎週金曜は"すべらない!中間管理職ならではのコミュニケーション術"らしいですね。係長、いかがっすか?」とか…。場合によっては、企業協賛をもらいながら、一コマ企業CMを入れてもいいかも(これって完全にチンドン屋の世界)。企業CMも可能ならば「第二新卒の転職成功多数! "転職サイトのアデコ"」といったように、その回の講座の内容に連動したものが理想。っていうか、僕のこの発明自体に、企業協賛がついてくれれば尚良いのだが…。
(イラスト:イシワタマリ) |
アサダワタル(あさだ・わたる) 日常編集家/文筆と音楽とプロジェクト 1979年大阪生まれ。 様々な領域におけるコミュニティの常識をリミックス。 著書に「住み開き 家から始めるコミュニティ」(筑摩書房)等。ユニットSJQ(HEADZ)ドラム担当。 ウェブサイト |
親父殿だった人が冷たく凍っていた。
その横には白い女がこちらをじっと見つめ、凍てつくような視線を向ける。
其方はまだ若い、この事は決して口外するな。
白く繊細な作りの女、雪女はそう言った。
約束を破ってしまった身体が淡雪のように命が溶けていく。
たった一つの約束さえも固まることなく、溶けてしまったのだ。
ミホシ イラストレーター 岡山県生まれ、京都市在住。イラストレーターとして京都を拠点に活動中。 抒情的なイラストを中心に、紙媒体・モバイルコンテンツなどのイラスト制作に携わる。 |
やあ、私だ。試写室の暗がりで銀幕に目を光らせ、終映後も気になるシーンを自在に脳裏に投影。毎月1本の新作映画を捜査し、その空間的な特徴と魅力を炙り出す。こちらフィルム探偵。今年も懲りずによろしく願いたい。
井上荒野の原作。行定勲の脚本・演出。宣伝用ポスターの趣味の悪さには辟易させられながらも、阿部寛を取り囲む女優陣の豪華絢爛さや、cobaやクレージーケンバンドという音まわりの布陣に、正直なところウキウキという言葉が似合うほど期待が膨らんでしまっていた。そこで、映写開始。
無類の男好きにして根無し草の艶という名の女が、死を待っている。艶の通夜が近づいている。阿部寛演じる夫は、かつて妻が関係した男たち、あるいはその男たちの女たちに、妻の危篤を伝えていく。そこから昔日のやりとりが再現されるのかと思いきや、カメラはむしろ過去の色恋をほじくり返された男たちの現在、いやむしろ、その相手の女たちの心模様にピントを合わせる。つまりこれは、艶を起点にして男という接着剤でつなぎ合わされた女たちのオムニバス=乗合馬車なのである。昨年の邦画ベストに挙げる評論家も多かったエポックメイキングな作品『桐島、部活やめるってよ』に構造としては近い。桐島同様、艶の顔は画面から周到に排除されていて、語られても語られてもついに掴み切れず、登場人物同様、観客も振り回されるという、不思議な感覚だ。
これだけ登場人物がいて、キャラクターを短い時間で表現し分けるには、衣装やメイクといった小道具はもちろん、それぞれの生活空間の演出への気配りが大事になる。艶たちの暮らす伊豆大島のむき出しの地層切断面。総合病院。民宿兼食堂。文学賞のパーティー会場。離れや蔵のある旧家。会員制のバー。惣菜屋。美容院。大学。少し気負いを感じる局面もないではないが、年齢も職種も生活水準もこれほど異なる人間たちを、有無を言わせず巻き込んだ艶の凄みに感興を覚えさせるには十分な効果を上げるロケーションでありセットだ。ただ、桐島とは裏腹に、艶の場合は「性(さが)」や「業」の輪郭は伝わるものの、肝心の「魅力」がよくわからないのはもどかしくもあった。「モラルや正論を軽やかに飛び越えてみせる、美しい刺激に彩られた」物語だと謳い、複雑で野心的な構造を採用している割には、演出は良くも悪くも手堅い。そこが好みの分かれ目かもしれないが、さすがは行定監督だと私が認めたことは認めておこう。
(C)2013「つやのよる」製作委員会 『つやのよる』 主演:阿部 寛 原作:井上荒野「つやのよる」(新潮社刊) 脚本:伊藤ちひろ、行定勲 監督:行定勲 2013年1月26日(土)全国ロードショー |
野村雅夫(のむら・まさお) ラジオDJ。翻訳家 FM802でROCK KIDS 802(毎週月曜日21-24時)を担当。イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳なども手がける。 |
超ダークネス廃墟で2013年のモトクラ初めとさせていただく。ここは廃校後、石膏像などの作成のために工房として利用されていた廃墟だ。というわけで学校だった名残と、工房の生々しい痕跡とで二重の廃墟といえる。壁に掛けられたマスクや、彫刻作品などでよく見るビーナスの像などが完品のまま放置されていたり、石膏の型が転がっていたり、黒板や机がそのまま残っていたりと、数ある廃墟の中でも断トツの異空間であると言えよう。
小林哲朗(こばやし・てつろう) 写真家 廃墟、工場、地下、巨大建造物など身近に潜む異空間を主に撮影。廃墟ディスカバリー 他3 冊の写真集を出版。 |
第1回書家川尾朋子 |
第2回字幕翻訳家伊原奈津子 |
第3回紙芝居弁士/ラジオDJ伊舞なおみ |
第1回講談師旭堂南陽 |
第2回フォトグラファー東野翠れん |
第3回同時通訳者関谷英里子 |
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第4回働き方研究家西村佳哲 |
第5回編集者藤本智士 |
第6回日常編集家アサダワタル |
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第7回建築家ユニットstudio velocity |
第8回劇作家/小説家本谷有希子 |
第9回アーティスト林ナツミ |
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第10回プロデューサー山納洋 |
第11回インテリアデザイナー玉井恵里子 |
第12回ライティングデザイナー家元あき |