野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳心の風通し ~ル・コルビュジエの家~ |
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河原尚子 「茶」が在る景色白から白 |
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小林哲朗 モトクラ!ディスカバリーアーケード上 |
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ミホシ 空間と耽美欄間柘榴に鬼ごっこ |
(聞き手・進行 牧尾晴喜)
扇町ミュージアムスクエアの運営や、カフェ空間のシェア活動「コモンカフェ」などを手がけてきたプロデューサー、山納洋さん。彼に、カフェ経営に関する新刊を中心に、さまざまなプロデュース活動についてうかがった。
-------まずは、『カフェという場のつくり方: 自分らしい起業のススメ』を書かれた動機を教えてください。
山納: もともとは「カフェをやりたいひとに伝えておきたいこと」といった感じのタイトルで書いていました。2000年前後のカフェブームの時期から、カフェ経営の指南本はたくさん出ていましたが、パターンはだいたい決まっていました。たとえば、先輩オーナーがどんな店をつくったか、事業計画書の書き方、コンセプトの作り方、ウェブサイトでの客の引きつけ方、キラーメニューの作り方、などです。この何年かの間に出た本には、失敗談を書いているものも少しはありましたが、いわゆる「残念なお客さん」が出入禁止になるケースなど、今回の本に書いたような内容を扱っているものはありませんでした。カフェ経営を2、3年やっている人なら何となく知っていることが、書かれていなかったんです。
------自己表現や「ロマン」だけでは、店の経営はうまくいかないということですね。
山納: ロマンチストでお店をやる人はわりと多くて、ロマンしか考えていなかったために失敗をするというひとも沢山みてきました。鄭永慶が手がけた日本で最初の喫茶店もそうでしたし。ここ最近の例でも、立地にそぐわないコンセプトのカフェがすぐに閉店してしまったケースなど、山ほどあります。ロマンチストでいいから、これだけは知っておいて欲しい、ということを伝えておきたかったんです。
------歴史的あるいは社会学的な視点からみたカフェと、現場の話の両方が描かれているので、資料としても、また、読み物としても面白い本になっているとおもいます。取材であちこちのお店に実際に行かれていますが、苦労も多そうです。
山納: あたりはずれで言うと、当然、「はずれ」の場合もあります。ただ、ぼくが実際の店に行くポイントが2つあるんです。ひとつは、どんな経営をしているか、にフォーカスしてみること。もうひとつは、その街の眠っている歴史を、喫茶店の店主から聞きだしてくる、ということです。どちらもぼくのライフワークみたいなもので、少なくともどちらかでいい情報が得られることが多い。2つあると、「打率」は上がるんですね(笑)。たとえば、「何年やっているんですか」と聞いてみたら、「36年やってるよ。最近はダメだけど、昔はこのへんには港湾労働の人がたくさんいてね……」なんて話が聞けたりするんです。あとは、店の様子を眺めながら、いろんなことを読み取っています。
芝居をずっと見てきたので、芝居や作品を見るように店を見ているんです。社会学でもありながら、作品を見ている感じ。ある店では、ぼくが入っていくと、集金の人だと勘違いをしたようで、ぼくにお金を渡そうとしたんです。一見さんのお客さんは滅多に来ないんだな、と思いました。あるいは、お店にカランカランと入っていくと皆がこちらを珍しそうに見てきたり。ドラマのなかに入っていった気分で、それが面白いですね。
------副題に「起業のススメ」とありますが、カフェ経営者以外への示唆も意識されましたか?
山納: カフェにフォーカスしたつもりですが、エッセンスは似ているところがあります。5年前の本『common cafe(コモンカフェ)- 人と人とが出会う場のつくりかた』に「自分軸と他人軸」、つまり、自分がやりたいことと他人がやってほしいことの折り合いについて書きました。「ライスワーク」(お金を稼ぐための仕事)と「ライフワーク」(自分がやりたい仕事)、と言ったりもしますが、こういったバランスのことは、カフェのオーナーだけでなく、クリエイターも当然考えていますから。
------いまの社会や働き方の動向とつながる話もありますね。
山納: たぶん、これから小商いをする人、つまり自分ひとりが何とかやっていけるくらいの規模のビジネスをやるひとは増えるだろうな、と思っています。飲食でもクリエイターでも、経済的には成立しにくい状況にどんどんなっています。カフェブームのときには、月商数百万といったカフェがたくさん紹介されていました。それがいまは、月商目標80万といった感じのものが紹介されていて、どんどん小さくなっている。カフェオーナーがカリスマや実業家のように評価されていた時代に多くの本が出ていましたが、カフェという場の作り方について考えると、実業という意味では大した魅力がない世界になっています。駅近でオオバコの物件でアルバイトを使って、といった方法でないと、大儲けは難しくなっています。そういう状況の中で、周回遅れみたいなテーマでこの本があるんです。観光地で儲かっていたにもかかわらず店をやめた人の話も書いていますが、カフェのオーナーもクリエイターも、ビジネスと自己表現の微妙なバランスのうえに自分の身を置こうとしているんだと思います。コンサルの人たちが、そういう微妙なバランスを知らずに「人気店になるには」といった感じの本を出すのはちょっと違うのかという気がしています。小商いであったり、地方であったり、いまの時代の関心の方向、生き方のバランスがあるんだと思いますね。
------ヘミングウェイの「カフェ的生活」の話もありましたが、カフェには、その場から広がっていくものの可能性がありますね。
山納: 飲食業としてのカフェの「強さ」としては、「常連客商売になれる」、「特定少数の客でもまわる」、といったことが挙げられます。でも、特定少数の客でやっていて「○○ちゃん、今日は来ないねえ」といった状況よりも、その場に誰だか分からないひとがまじったり、セッションのようになったりして、店がはやる以上のことが街で起こる、という状況に関心があるんです。飲食自体への興味よりも、触発されて何かが起こるという現場に興味があります。そこにはすごく可能性があると思います。
------山納さんの子どもの頃について聞かせてください。
山納: 物を集めるのが好きでした。石、切手、古銭、キーホルダー、などを集めました。何かへの思い入れが強くなるタイプだったと思います。感化する、というのか、まわりでも石が好きになるひとが出てきて、3ヶ月くらいで飽きたと伝えると怒られました。人を道連れにしておいてなんだ、と(笑)。飽きて別の物に関心がいき、また戻ってくる、という感じでした。
そういえば中学校ではサッカー部と地学研究部で鉱物採集をしていたんですが、それ以外に「よろずの会」というのを組織していました。部活などとは関係なく声をかけて、廊下を何秒で走れるかを競ったり、土曜日の放課後に学校裏の六甲山の水場まで行ったり、2時間バラバラに動いて、体験したことを後で語り合う、なんていうことをやっていましたね。10人くらいでしたが、そんなことを面白がるメンバーで何かをやっていた。
サッカーでは、ゲームのなかでパスをどうつなぐかということが面白くて、「中盤好き」でした。こういうタイミングでボールが来て、こういうひとがいるからパスを出して、というようなことに興味があって。いまやっているコラボレーション的なことにも似ています。頭の使い方や、アドレナリンの出方が近いです。
------今後のビジョンについてお聞かせください。
山納: 仕事としては大阪ガスでラジオドラマをつくったり、デザインプロデュース向上委員会で『残念サン』という漫画を作っていたりするのですが、面白いと思えるコンテンツを、力をもったひとたちと一緒につくることに興味があります。立場としては大阪ガスの社員なんですが、クリエイターという自負を持って仕事をしています。クオリティの高い仕事をしたいですね。「場」というところにも、かえってくるだろうなとおもっています。自分自身が何かを作りたいという衝動欲求と、自分がいなくても皆が何かを創れるようになる場をつくりたいという両方の気持ちがあります。
2012年9月11日 大阪にて
common cafe(コモンカフェ)―人と人とが出会う場のつくりかた
(著)山納洋 西日本出版社、2007年5月 |
コモンカフェ |
コモンカフェ |
六甲山カフェ |
Talkin'About201104
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Talkin'About201207
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山納 洋(やまのう ひろし) 1971年兵庫県生まれ。プロデューサー。 1993年大阪ガス入社。神戸アートビレッジセンター、扇町ミュージアムスクエア、メビック扇町、大阪21世紀協会での企画・プロデュース業務を歴任。2010年より大阪ガス近畿圏部において地域活性化、社会貢献事業に関わる。一方でカフェ空間のシェア活動「common cafe」、「六甲山カフェ」、トークサロン企画「御堂筋Talkin'About」などをプロデュースしている。著書に『common cafe―人と人とが出会う場のつくりかた―』(西日本出版社、2007年)、『カフェという場のつくり方―自分らしい起業のススメ―』(学芸出版社、2012年)。 |
やあ、私だ。学芸カフェでフィルム探偵業をやっていて、取り上げないわけにはいかないタイトル。しかも、脚本家は建築家にして現代アートのキュレーターときた。ストーリーラインも、それを受けて撮影された映像も、なるほどきびきびと論理的に構成されている。そのうえ、セットではなく、アルゼンチン・ラプラタにある、ラテンアメリカ唯一のル・コルビュジエ設計個人住宅、クルチェット邸でロケを敢行しているのだ。日本の観客にしてみれば、地球の裏側の名建築を鑑賞できる貴重な作品であることは間違いないが、観光気分で劇場に向かうと、足元をすくわれることだろう。
モチーフは、隣人とのトラブル。売れっ子インダストリアル・デザイナーのレオナルドが、ヨガ・インストラクターの妻と思春期の娘と一緒にクルチェット邸に住んでいる。ある朝、隣家の住人ビクトルが自分の家に向いた壁をハンマーで貫通させる打撃音でレオナルドが叩き起こされる。驚いて苦情を申し立てると、ビクトルは「よお!」とばかりにやけに気さくで、「太陽の光がちょっと欲しいだけだ」とのたまう。向かいに窓を作られては家の中が丸見えでおちおち生活していられないし、これは違法だ、と繰り返してものれんに腕押し…。
これに類するネイバーズとの厄介事は身に覚えのある読者も多いことだろう。ただし、この作品に周到に張り巡らされたシュールで皮肉の効いた笑いのトラップにはめられ、口元を歪めながらクスクスしているうちに、いつの間にか「とんでも男」ビクトルの方に肩入れしている自分に気づくことになるのだから、ことはそう単純ではない。頭のイカれた(と思っていた)ビクトルよりも、ハイセンスで理想的な家族と暮らすイケている(はずの)レオナルドの方が、よっぽど偏狭で魅力のない人物に見えてくるのだ。
映画は、窓が開くことで始まり、窓が塞がって終わる。風を呼び込み、外を臨む「心の窓」をどんな形にするのか。開けるのか閉めるのか、はめ殺しなのか、それとも塞いで塗り込めてしまうのか。家を考えることは、つまるところ対人関係を考えることなのだなと、戦慄の幕引きに震えながら考えた。
『ル・コルビュジエの家』 監督・撮影:ガストン・ドゥブラット、マリアノ・コーン 2009年/アルゼンチン/103分 10月27日から、梅田ガーデンシネマ、順次神戸アートビレッジセンター、京都シネマ にて公開。 |
野村雅夫(のむら・まさお) ラジオDJ。翻訳家 FM802でROCK KIDS 802(毎週月曜日21-24時)を担当。知的好奇心の輪を広げる企画集団「大阪ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳も手がける。 |
10月に入って 空気が変わった。
空は どこまでも浅葱色で
雲は 小さく薄く重なりあって その向こうの宇宙を透かしている。
この秋への入り口がすきだ。
うだるような暑さから 一変。
急に世界が 色鮮やかに見えてくる。
透き通ってくる。
この季節の変わり目を肌で感じる事ができるのも
日本の文化そのものかもしれない。
先日私は 京都で開催されたTED×KYOTOというイベントにて
茶会を開催した。
その時に ある人が言った言葉。
「TED× は、当日だけのイベントではない。
それはずっと繋がって行く関係を作ることだ」
茶事とは 当日を中心にそのずっと前からが醍醐味である。
むしろ茶事当日の数時間は 夢の様に過ぎ去ってしまうけれども
その前の入念な準備の時間が 人と人の間に 絆をつくる
展覧会でもそうだ。
真っ白の空間から世界観を造り上げて また白に戻る。
その「白」から「白」へのプロセスは
「茶」であり「人」でもある。
もうすぐ葉が色付き やがて落葉する。
また木も白にもどる。そしてまた春には。
河原尚子(かわはら・しょうこ) 陶磁器デザイナー/陶板画作家 京都にて窯元「真葛焼」に生まれる。 佐賀有田での修行を経て陶板画家として活動を開始。 2009年、Springshow Co.,Ltdを設立。同年、陶磁器ブランド「sione」を発表。 |
雑多な雰囲気が心をざわつかせるような空間。一見立体迷路のようにも思えるが、ここはとある商店街のアーケードの上だ。頑張れば屋上間を行き来することもできそうなくらい、建物同士が密着している所もあり、映画の逃走シーンに使えそう。ジャングル化する勢いの屋上ガーデニングや、空中に浮かんで連なる業務用エアコンの室外機も目を引く。
洗濯を干すおじさんがいたり、バットで素振りをする少年がいたり、自由に使える空間は見ていて飽きない。
小林哲朗(こばやし・てつろう) 写真家 廃墟、工場、地下、巨大建造物など身近に潜む異空間を主に撮影。廃墟ディスカバリー 他3 冊の写真集を出版。 |
欄間の柘榴は嫋やかに枝垂れ、今にも弾けそうな実の間を鬼ごっこ。
あなたはするりと抜けるけど、不器用な私は実に当たっては柘榴が弾けてしまう。
朱く色付いた私は、とうとう鬼のあなたに捕まってしまった。
掴まれた手首から伝わる温度と鮮やかな朱で染まった実と身。
奥底にしまっていた箍が外れぽろぽろと壊れて、欄間の間に朱いふたり落ちてしまうよ。
ミホシ イラストレーター 岡山県生まれ、京都市在住。イラストレーターとして京都を拠点に活動中。 抒情的なイラストを中心に、紙媒体・モバイルコンテンツなどのイラスト制作に携わる。 |
第1回講談師旭堂南陽 |
第2回フォトグラファー東野翠れん |
第3回同時通訳者関谷英里子 |
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第4回働き方研究家西村佳哲 |
第5回編集者藤本智士 |
第6回日常編集家アサダワタル |
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第7回建築家ユニットstudio velocity |
第8回劇作家/小説家本谷有希子 |
第9回アーティスト林ナツミ |
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第10回プロデューサー山納洋 |
第11回インテリアデザイナー玉井恵里子 |
第12回ライティングデザイナー家元あき |