野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳フレームという名の鋭利な刃物 ~籠の中の乙女~ |
||
河原尚子 「茶」が在る景色美意識という刀 |
||
小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー白い工場 |
||
ミホシ 空間と耽美引手と望月の君 |
(聞き手・進行 牧尾晴喜)
セルフポートレート日記プロジェクト『本日の浮遊』が話題を呼んでいるアーティスト、林ナツミさん。彼女に、まるで重力から解放されて浮遊しているような写真撮影に取り組むようになったきっかけや撮影の裏側についてうかがった。
-------セルフポートレート日記プロジェクトが『本日の浮遊 Today's Levitation
』(青幻舎)として書籍化されました。まずは、このプロジェクトをスタートされた経緯を教えていただけますか。
林: わたしは大学やそれ以外の学校でも写真の勉強をしたことがなく、アーティスト原久路氏のアシスタントをしながらカメラについて勉強をしています。そのなかで、自分自身の内面を表現する作品をつくってみたいな、とおもうようになりました。小さい頃から落ちつきがなくて、「地に足をつけた子になりなさい」と言われていたんですが、大学院まで出てもそういう大人にはなれなかったというコンプレックスもあったんです。だから、そういう自分をポジティブにとらえられるようなものをつくっていきたいとおもっていました。
もともと写真が好きで小学校からカメラに触ったりしていました。写真の技術、たとえばシャッタースピード、露出、ホワイトバランス、なんかはアシスタントをしながら覚えました。ウェブサイト用にデジカメ一眼でスナップを撮っていたんですが、あるとき、原久路氏の写真を撮ろうとしたら、撮りづらくするために彼がわざとジャンプしたんです。それが、たまたまうまく撮れました。ジャンプしているのではなく、まるで無重力の状態みたいに写っていたのが面白くて。そんなふうにして、技術的なものと、コンセプトがつながりました。
------今回のプロジェクトでは、東京を中心に、都市のさまざまなシーンで撮影されています。撮影場所を決める際に、どんなことを意識していますか?
林: 光を一番意識しています。浮遊写真のためにどこかへ出かけるということはほとんどありません。打合せにいく途中の道や、近所の散歩コースだったり。常に機材を持ち歩いていて、光がきれいなところを見つけたら撮影をしています。
------『本日の浮遊』には、二重露光やシルエット、作中作のような構図などの写真もありますね。
林: 日記形式のプロジェクトなので、気になったことも試しています。常に新しいことを入れたいですね。二重露光に見えるのは実は長時間露光とストロボ発光を組み合わせた「スローシンクロ」という撮影方法です。作中作の構図のものは、友達が遊びにくる予定があって、「じゃあ出てもらおう」と(笑)。
後半の方では、3Dに取り組んでいます。裸眼立体視、つまり横にならんだ2枚の写真を寄り目などをして見るもので、交差法と平行法という二つの見方があります。撮影機材が倍になって大変ですが、そんなふうに、まったく違うこともやっていきたいな、と。
------ひとがたくさんいる場所などでは、撮影がとくに大変そうです。
林: 駅などはひとが多いですが、目的をもって移動している人がほとんどなので、一瞥はするけれどそのまま移動していくという感じですね。逆に店先などだと、店員さんはずっとその場にいます。望遠のカメラが離れたところにあってわたししか見えなかったりすると、かなりヘンですよね。ずっと同じ場所で跳んでいて、警察に電話されそうになったこともあります(笑)。ちゃんと事情を説明して写真を見せれば理解してもらえますが、最初から言ってしまうと日常風景が変わってしまうので、できれば何も言わずにやりたいんですよね。
------『本日の浮遊』を拝見していると、ものすごい跳躍やバランス感覚の写真もありますね。尋常ではないというか(笑)。
林: ありがとうございます(笑)。子どもの頃にモダンバレエをしていたので、そのときの経験がすこしは活きているかもしれないですね。自分の感覚とカメラに写っているものは違うので、カメラからどう見えているかをモニターで確認して、角度を微妙に変えながら撮影をしています。1/500秒のシャッタースピードなど、撮影の方法はよく聞かれるのでウェブサイトに掲載しています。
そんなふうにして100回から150回跳んで撮影をして、そのなかで一番いいものを選んでいます。きちんと着地をしていても体にずれが生じてくるみたいで、整体をしてもらってるんです。アスリートではないんですが、やはり体のメンテナンスは大事だと実感します。
------今回のプロジェクトに対しては、まず海外で大きな反響がありました。また、ブログ、ツイッター、フェイスブックなどで、ダイレクトに反応も届くようになりました。海外と日本で、反応が違ったり、あるいは共通する部分はありますか?
林: 『本日の浮遊』への感想は、国に関係なくて、それで逆にビックリしました。アフリカ、ヨーロッパ、北欧、南米、アジア、など、さまざまな地域から感想をいただきますが、「すごく癒された」「元気がでた」といった感想は共通でした。『本日の浮遊』では「地に足がついていない自分」、つまり「重力からの解放」を表現していますが、重力は万国共通だからかな、という気がしています。着実であることを「地に足がついている」というイディオムも、日本語だけでなく、英語、中国語にもあるようで、それにも驚きました。
------子どもの頃から写真が好きだったということですが、きっかけは?
林: ボタンを押すのが好きだったんです。押し心地がしっかりしていてカチャカチャと押すもの。たとえば、昔の郵便局のATMのボタンや、エレベーターのボタン。その延長線上にカメラがあったんです。わたしが小学校低学年くらいのときに、父がニコンF-501っていうカメラを買ってきたのですが、そのボタンがすごく魅力的で。そのボタンを押したいがためにカメラを触るようになったんです(笑)。
------ウェブサイトの名前は『よわよわカメラウーマン』ですが、由来は?
林: 学生の頃に趣味で写真を撮ったりはしていましたが、きちんとした写真の勉強をしてこなかったので、アシスタントをはじめた頃でもカメラのちゃんとした構え方を知らなかったんです。好きで撮っていたら、腰がひけていて構え方が弱々しいということで、よわよわカメラウーマンというニックネームがついて(笑)。それがそのままサイト名になりました。
------関西で好きな場所があれば教えてください。
林: 昔になりますが、何度か行ったことがあります。梅田の地下街の白い感じが印象的でした。ずっと地下がつづいて色んな店がならんでいて、このままここに住めるんじゃないか、という気がしました。東京ほど追い立てられる感じがしない地下でした。あと、太陽の塔も衝撃的でした。
------今後の作品づくりのビジョンを教えていただけますか。
林: いまは、この『本日の浮遊』プロジェクトで一年間分の撮影を終えることが最優先です。次の作品も、インターネット上で発表するものになることは決まっています。わたしにとっては国などの境界を越えていくツールとして、インターネットはとても大切だと感じています。
2012年7月24日 東京にて
本日の浮遊 Today's Levitation
(著)林ナツミ 青幻舎、2012年7月 |
Fri.05.06.2011 (c) Natsumi Hayashi, courtesy of MEM |
Fri.04.01.2011 (c) Natsumi Hayashi, courtesy of MEM |
Fri.03.04.2011 (c) Natsumi Hayashi, courtesy of MEM |
Thu.05.05.2011 (c) Natsumi Hayashi, courtesy of MEM |
Fri.04.29.2011 (c) Natsumi Hayashi, courtesy of MEM |
Tue.04.26.2011 (c) Natsumi Hayashi, courtesy of MEM |
Mon.01.31.2011 (c) Natsumi Hayashi, courtesy of MEM |
(c) Natsumi Hayashi, courtesy of MEM 林ナツミ(はやし なつみ) 1982年埼玉県生まれ。 現在、東京都に猫と在住。アーティスト・原久路(はら ひさじ)氏のアシスタントを務めている。2011年よりウェブサイト『よわよわカメラウーマン日記』にてセルフポートレート日記プロジェクト『本日の浮遊』の更新を続けている。 |
やあ、私だ。久しぶりに、度肝を抜かれた。ここまで徹底して寓話的な物語にも、野心的なフレーミングにも、ついぞ最近お目にかかったことがなかったからだ。アンゲロプロスの訃報からしばらく、私たちはギリシャが生み出しつつある、ランティモスという新しい才能に触れる機会を得ることになった。
とある工場主が郊外に構えるプール付きの大邸宅。ぐるりと高い塀に囲まれた敷地内には、夫婦とその息子にふたりの姉妹、計5人の家族が暮らしている。「何不自由なく」という言葉が似合うように見えるのだが、実は父親の統制のもと社会のあらゆる情報がシャット・アウトされていて、邦題通り、子どもたちは実験室で純粋培養されたかのようにして育てられ、思春期を迎えていた。毎日、家をベンツで出ていくのは父親だけ。彼は息子の性欲処理のために若い女を雇うようになるのだが、それを契機として、この不条理で不健全な家庭の不自然な均衡が徐々に狂い始める…。
説明がほとんど省略された語り口に唖然としながらも、私はスクリーンを前に、何度も居心地の悪さを感じていた。どうやら、原因は映像にあるようだ。そして、ふと気づいた。フレーミングがおかしいのである。胸から上を撮影するバストサイズや全身をとらえるフルショットなどといった、ノーマルなカット割りが極端に少なく、逆に人物が妙なところで切れていることが多いのだ。まるで刃物か何かのように、フレームが頭なんかを切断するものだから、むしろフレームそのものが尋常でない存在感を放つというこの珍しい例に、私は恐怖すら覚えた。映像に囲まれた生活を送る現代の私たちは、写真や映画の黎明期を生きた人々のように、足から下が切れた被写体を目にしても、普通はその人が幽霊だなんてまず思わない。ところが、フレームという残忍なナイフで身体のあちらこちらを切り取られ続ける本作の登場人物たちを見るにつけ、不気味としかいいようのない違和感が次第に積もり、これは何かただならぬものを見てしまっているのではないかという目眩、あるいは戦慄をついに覚えるというわけだ。そして、フレームによる肉体の擬似的な損傷は、嫌な予感がえてして当たるように、やがて現実のものとなる。そして、このシュールな寓話がいったい世界の何を言い当てようとしているのか、否応なしに考えてしまうことになる。
ハネケ、キューブリック、ヘルツォーク、ブレッソン、カサヴェテス、ブニュエル…。この消化困難なフィルムを前に、世界の批評家たちは数々の巨匠を引き合いに出している。「異物」が性的に介入することでブルジョワ家庭が崩壊していくという構造に、私はパゾリーニの『テオレマ』を思い浮かべざるをえなかったのであるが、いずれにしても、こうしたビッグネームで応戦したくなる監督であるのは間違いない。ハリウッドからも演出のオファーが来ているというランティモス。青田買い気分で劇場へ向かう価値は大ありだろう。
(C)XXIV All rights reserved. 『籠の中の乙女』 監督・脚本:ヨルゴス・ランティモス(長編第一作) 2009年/ギリシャ/96分/スコープサイズ/原題:DOGTOOTH 配給:彩プロ/関西宣伝:cloud heaven R-18 9月15日(土) シネマート心斎橋、9月29日(土) 元町映画館にて順次公開! |
野村雅夫(のむら・まさお) ラジオDJ。翻訳家 FM802でROCK KIDS 802(毎週月曜日21-24時)を担当。知的好奇心の輪を広げる企画集団「大阪ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳も手がける。 |
沖縄で茶の在る人に出逢った。
美意識という刀をもった人だった。
「茶」というと
ついつい和みとか癒しとかいう言葉を
連想する事が多い。
でも もともと利休が大成した時代の「茶」とはどんなものだったのだろう。
利休により1つの雑器への価値付けが行われ
一国と交換するほどの価値を持つ。
庭で有名な小堀遠州も
マンガ「へうげもの」で知られる 古田織部も
独自の感性で ものを評価する事ができた人物。
現代はどうだろう。
自分の美意識で物を選ぶことに躊躇する時代。
「手仕事」という言葉だけに ふりまわされて
昔 価値付けられたものを前にして
腕を組んでわかったようなフリをしてしまう。
美意識というものを 打ち出すのは 覚悟のいることだ。
これまでの価値をくつがえすのは とても骨の折れる事だ。
でも 自分の其れを信じて 戦おうとしているその人は 清々しかった。
茶席の外に 刀置きがあるのは
「実際の刀ではなく 美意識の刀をもって挑め」
という事だったのかもしれない。
河原尚子(かわはら・しょうこ) 陶磁器デザイナー/陶板画作家 京都にて窯元「真葛焼」に生まれる。 佐賀有田での修行を経て陶板画家として活動を開始。 2009年、Springshow Co.,Ltdを設立。同年、陶磁器ブランド「sione」を発表。 |
石灰を扱っていた廃鉱山がある。鉱山内の設備など手付かずだった期間が長く、当時の様子を色濃く見て取れる。広い敷地内は立体的に入り組んでおり、遊園地の巨大迷路のようだ。木造部分の多くは雪の重みや風雨で崩壊が激しいが、製品であったはずの石灰が多く残っており、場内はいたるところが真っ白で幻想的。重厚な機械類も多く非日常感が満載だ。
小林哲朗(こばやし・てつろう) 写真家 廃墟、工場、地下、巨大建造物など身近に潜む異空間を主に撮影。廃墟ディスカバリー 他3 冊の写真集を出版。 |
引手の形は、ついつい想像を巡らせたくなる。
ひとつひとつの形がドラマチックでありファンタジーだ。
手に収まるあの小さな形と空間に、私は魅力を感じてやまない。
円い襖引手は満月、そしてその空間の奥にはもうひとつの小さい満月と望月の君が腰掛ける。
襖絵の桔梗越しに月見を楽しんでいるかのよう。
秋宵、読書も愉しいが想像に耽る秋の夜長もまた風情だと思う。
ミホシ イラストレーター 岡山県生まれ、京都市在住。イラストレーターとして京都を拠点に活動中。 抒情的なイラストを中心に、紙媒体・モバイルコンテンツなどのイラスト制作に携わる。 |
第1回講談師旭堂南陽 |
第2回フォトグラファー東野翠れん |
第3回同時通訳者関谷英里子 |
|||
第4回働き方研究家西村佳哲 |
第5回編集者藤本智士 |
第6回日常編集家アサダワタル |
|||
第7回建築家ユニットstudio velocity |
第8回劇作家/小説家本谷有希子 |
第9回アーティスト林ナツミ |
|||
第10回プロデューサー山納洋 |
第11回インテリアデザイナー玉井恵里子 |
第12回ライティングデザイナー家元あき |