野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳

これは伝説を捕獲した映像である(嘘) ~トロール・ハンター~

河原尚子 「茶」が在る景色

弄花居

小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

大谷石地下採掘場跡

ミホシ 空間と耽美

雪洞とみえない檻

インタビュー 関谷英里子 さん

(聞き手・進行 牧尾晴喜)

ル・ゴア元米国副大統領やノーベル平和賞受賞ダライ・ラマ14世など一流講演家の同時通訳者、関谷英里子さん。彼女に、同時通訳の現場や言葉の扱い方の問題、ラジオやテレビ番組での講師としての姿勢についてうかがった。

------多くの一流の講演家の通訳をされています。語学などの技術はもちろんですが、それぞれのキャラクターに合った日本語を選ぶ、「言葉のデザイン」も難しそうです。どういうことを心がけておられますか?
関谷: 通訳のなかでもとくに同時通訳をする機会が多いのですが、「声優」を心がけています。つまり、言葉ひとつひとつを変換するよりは、全体の文脈を捉えて、「その人が日本語を喋ったらこうなるだろう」ということを考えるんです。
 たとえば自分のことを指す一人称にしても、日本語では一人称を入れるか入れないか、入れる場合にも、わたし、オレ、僕、わたくし、など様々な選択肢があります。あと、その人の話す「間」なんかもなるべく再現したいですね。同時通訳はどうしても半歩遅れますが、文章の終わりは同じにしたいと意識しています。

------固有の文化的な話題やユーモアなどを通訳するのはとくに難しそうです。
関谷: 難しいですね。たとえば、投資家のジム・ロジャーズ氏は日本にもよく来られて、その際に通訳をさせていただくのですが、あるとき彼が日本の未来について尋ねられました。人口減少や少子化対策が課題だと答えたのですが、そのときに「この講演が終わったらすぐに家に帰って子づくりに励んでください」と言って皆を笑わせたのです。これをオブラートに包んだ表現にしたり、真面目に言ってしまうと笑えませんよね。彼はユーモアをこめて、敢えてダイレクトに「今すぐ」と言っているんです(笑)。

------話者が発言してその通訳、また話者の発言のあとで通訳、というように少しずつ順番に訳していく逐次通訳はある程度イメージできますが、同時通訳はイメージがつきにくいです。どのような感じの作業なのか、ご説明いただけますか?
関谷: 私が最近思っているのは、話をされている方の言語を瞬間的に頭の中で絵にして、私がそれを別の言語で出している、というイメージです。言葉が文字として見えるというよりは、イメージが浮かんでくる感じです。どちらの言葉で言うかだけの問題ですね。

------関谷さんは子どもの頃にイギリス滞在のご経験がありますが、その頃から通訳者を志されたのでしょうか。
関谷: 子どもの頃から通訳者を目指したわけではないですね。結果的に得意だったのかなとおもいます。

------海外を深く経験していることで日本に対する向き合い方も変わっていると思いますが、いかがでしょうか。
関谷: ひとつは、日本が大好きなんです。日本にいるとすべてが当たり前に見えてしまって、日本のよさが分からなくなることがあります。ですが海外に行ってみると、日本の街の清潔さや安全さ、便利さが身にしみます。接客などサービス業のレベルも高いですよね。ほかにはパッケージのデザインなどでも、作る側が使う側のことを考えている。ちょっとしたパッケージでも、なんて開けやすいんだろうと感動してしまいます(笑)。日本では、そういう気配りが自然なかたちで徹底されていますよね。
 もうひとつは、英語はフラットな言語で、それを使うひとびとの態度もフラットなことです。もちろん英語でも丁寧な表現や敬語はありますが、上下関係というのは強くありません。ですから、たとえば褒められたときもへりくだり過ぎず、褒めてくれてありがとう、という感じになりますね。私は日本で日本語を喋っているときも、へりくだりすぎず、いいものはいいと、なるべくオープンに言うように心がけています。

------関西での思い出を教えてください。
関谷: 最初の就職先が大阪だったのでしばらく大阪で生活しましたが、社会人一年生でしたし、とにかく仕事に精力を傾けた時期でした。育てていただいてありがとうございます、という気持ちがあって、いまも新幹線で新大阪の駅につくと鼻の奥のほうがツンとする感覚があります。当時のがんばった思い出がよみがえりますね。

------2012年4月から一年間、NHKのラジオ番組『入門ビジネス英語』の講師をされます。番組の聴きどころを教えていただけますか。
関谷: テーマは「この一言であなたの印象をグッとアップさせるフレーズ集」です。ビジネスのちょっとした時、たとえばアポを取るときなんかに、よりこなれて見える表現を取りあげます。毎週2個ずつ、1年で100個くらいのフレーズになります。

------著書『えいごのつぼ』は語学的な内容だけでなく、英語のある人生や可能性の広がりについて書かれてあり、英語を専門にしないひとにとっても面白い内容だとおもいます。
関谷: 語学的な話というよりは、ツールとしての英語で自分の可能性を広げたい方々向けに、その心構えについて書いています。英語の説明はあまりなく、縦書きです。読者の方にちょっとでもやる気を出していただければとおもいます。
 この書籍については、少し先で6月くらいに、私が書籍の内容を解説しているDVD版もリリースされる予定です。同じ文章でも言い方でずいぶんと印象が変わりますし、参考にしてもらえたら嬉しいですね。

------今後の予定とビジョンを教えてください。
関谷: 近いところでは、新刊『関谷英里子のビジネスに効く!ポジティブ英語』が出ます。学校で習ったように訳しているだけではなかなか思いつかない表現を取りあげます。NHK Eテレ(教育テレビ)『英語でしゃべらナイト』での一ヶ月分を中心にして、新しい形でまとめた書籍です。
 これから先のビジョンについては、いただける仕事をひとつずつこなし、あまり先のことを考えないようにしています。今のことを一所懸命にしていくと、自分が想像していない次のステージに行けるのではないかと思うからです。『英語でしゃべらナイト』やNHKラジオ番組の講師なども、1年前の自分だとまったく想像していなかったですね。



2012年3月7日 東京にて

NHKラジオ『入門ビジネス英語』
2012年4月~2013年3月
講師:関谷英里子
 
関谷英里子のビジネスに効く!ポジティブ英語

 
えいごのつぼ (まなびのつぼ)
 
撮影:豪田トモ

関谷英里子(せきや えりこ)
同時通訳者。幼少期をイギリスで過ごす。慶応義塾大学経済学部卒業後、伊藤忠商事、日本ロレアルを経て独立。アル・ゴア元米国副大統領、ノーベル平和賞受賞ダライ・ラマ14世、ヴァージン・グループ創設者リチャード・ブランソン氏など一流講演家の同時通訳者。
NHKラジオ『入門ビジネス英語』やNHK Eテレ(教育テレビ)『英語でしゃべらナイト』などで講師を務める。
主な著書に『えいごのつぼ』『カリスマ同時通訳者が教えるビジネスパーソンの英単語帳』などがある。



これは伝説を捕獲した映像である(嘘) ~トロール・ハンター~

者諸賢はモックメンタリーという映画用語をご存じだろうか。日本では擬似(フェイク)ドキュメンタリーとも言われるが、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『パラノーマル・アクティビティ』、少し遡るなら架空のロックバンドについての『スパイナル・タップ』といった作品名を出せば、雰囲気は承知していただけるだろう。
 英語のモック(mock)は「まねる」という意味だが、そこには「嘲る」ニュアンスが入っていて、「(希望を)くじく」なんて使い方までされたりする。ノルウェー映画『トロール・ハンター』には、この最後の用法が最もしっくりくるかもしれない。何せトロールとは北欧に伝わる森の妖精のことだし、岸田今日子が演じたあのアニメキャラの名はムーミントロールだったではないか。
 3人の大学生が熊の密猟事件を追うドキュメンタリーを撮影している。容疑者として狙いを定めたのが、改造で特殊車両化したランドクルーザーを駆って夜な夜な森へと姿を消すハンスなる男。徐々に接近して固い口を割らせた若者たちが直面したのは、彼が政府機関に雇われたトロールハンターであり、その脅威の生物を秘密裏に管理・抹殺するという任務を遂行しているという「事実」だった…
 肝心のトロールの造形は、映像的悦楽として銀幕を前に味わっていただくのが一番だが、本作のポイントは要所に「隙」を設け、それをスパイスの効いた笑いに昇華しているところだとだけは言っておきたい。そして、低予算を逆手に取るアイデアもまた魅力だ。たとえば、田舎に張り巡らされている送電線。この実在する人工物(そのまま被写体として利用可能)にこの映画ならではの隠された意味を付与するあたりのモック感には唸らざるをえなかった。
 それにしても、国民がパニックに陥ってはいけないと、得体の知れないものをひた隠す権力。現場で身体をはる末端の作業員の不遇。2012年の日本であれば、既視感を覚えるのは私だけではないはずだ。現実のいびつさを浮き彫りにするのは、このジャンルの真骨頂である。

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『トロール・ハンター』 TROLL HUNTER
公開:3月24日(土)TOHOシネマズ日劇・梅田ほか全国ロードショー

監督・脚本:アンドレ・ウーヴレダル
出演:オットー・イェスパーセン/グレン・エルランド・トスタード/ヨハンナ・モールク
製作国:ノルウェー 本編:104分
提供・配給:ツイン

野村雅夫(のむら・まさお)
ラジオDJ。翻訳家
FM802でNIGHT RAMBLER MONDAY(毎週月曜日25-28時)を担当。知的好奇心の輪を広げる企画集団「大阪ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳も手がける。

弄花居

水月在手 弄花香満衣
-みずをきくすればつきてにあり はなをろうすればかおりころもにみつー

禅語として現代まで愛誦されているこの句は、元々唐の詩人・干良史(うりょうし)の詩「春山夜月」の中の二句である。

詩というものは自由なもので、
読み手によっていろんな解釈がなされる。
その為に余白の部分が絶妙に取られていて、人を楽しませる。

この詩も後に、虚堂智愚禅師(きどうちぐぜんじ)によって禅的に解釈され、
1つの教えとして今に伝わっている。

私はこの句を読むと、いつも桜を思いだす。
流れる水を掌で掬うとき、
春のほんの一瞬しか咲く事の無い桜を愛でるとき、
人は、生と同時に、無へと向かう強烈な死を想う。

移ろう時の愛おしさを思いだすのだ。

昨年末から住み始めた町家。
目と鼻の先には琵琶湖疎水がながれ、桜並木が縁取っている。
その住まいを「弄花居」(ろうかきょ)と名付けた。

移り行く時とこの一瞬を重ね合わせて・・・

河原尚子(かわはら・しょうこ)
陶磁器デザイナー/陶板画作家
京都にて窯元「真葛焼」に生まれる。
佐賀有田での修行を経て陶板画家として活動を開始。
2009年、Springshow Co.,Ltdを設立。同年、陶磁器ブランド「sione」を発表。

大谷石地下採掘場跡

材などに主に用いられる大谷石の地下採掘場跡が一般に公開されている。地下にあるとは思えないほど天井の高い内部には、採掘機械のほかに芸術家による空間を生かした作品が展示がなされており、異空間を感じさせる。湿気の多い夏場はより幻想的に。また、転々と配置されているほの暗い照明はどことなく落ち着きを感じさせてくれる。この独特な雰囲気から映画などのロケでもよく使われるようだ。

小林哲朗(こばやし・てつろう)
写真家
廃墟、工場、地下、巨大建造物など身近に潜む異空間を主に撮影。廃墟ディスカバリー 他3 冊の写真集を出版。

雪洞とみえない檻

さん喜んで!わたし好きなひとができたの。


桃色一色の空間に囲まれながら、淡い告白を聞いてしまった。
雛祭りの雪洞の前で双子の妹はそう僕に告白した瞬間、何かが消え入りそうな気がした。

妹の纏う空気、ひっそりだがきらきらとした清廉さが大好きだった。
けど…今の彼女はよくいる大人の女みたいに、心も体もつまらない丸みを帯びた別人のようだ。

妹だった彼女からたまらず視線を逸らす…とその先に淡い空間、雪洞が飛び込む。
あぁ…まるで檻だ。
表面は暖かな淡い色を放っているのに中を覗いてみると小さな火ひとつだけ。意外なくらいに寂しい。
かわいい妹に執着し内心はらはらしては、いつ息を吹きかけられるかと不安定に揺らぐ火。雪洞は僕そのものだ。

「そうか、うまくいくといいね。雛祭りの日におまえの成長をみた気がするよ、おめでとう」
兄らしく妹の成長を喜んでみせた。

大切に見守っていた桃はつぼみを成して「春」の訪れを待っているかのよう。
僕はその様子をみえない空間の檻の中から傍観することしかできない、からっぽな雪洞。


ミホシ
イラストレーター
岡山県生まれ、京都市在住。イラストレーターとして京都を拠点に活動中。
抒情的なイラストを中心に、紙媒体・モバイルコンテンツなどのイラスト制作に携わる。

第1回

 講談師
 旭堂南陽

第2回

 フォトグラファー
 東野翠れん

第3回

 同時通訳者
 関谷英里子

第4回

 働き方研究家
 西村佳哲

第5回

 編集者
 藤本智士

第6回

 日常編集家
 アサダワタル

第7回

 建築家ユニット
 studio velocity

第8回

 劇作家/小説家
 本谷有希子

第9回

 アーティスト
 林ナツミ

第10回

 プロデューサー
 山納洋

第11回

 インテリアデザイナー
 玉井恵里子

第12回

 ライティングデザイナー
 家元あき

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: 野村雅夫 フィルム探偵捜査手帳

連載2: 河原尚子 「茶」が在る景色

連載3: 小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

連載4: ミホシ 空間と耽美

第1回

 建築家
 藤本壮介

第2回

 書容設計家
 羽良多平吉

第3回

 漫画家
 羽海野チカ

第4回

 小説家
 有川浩

第5回

 作庭家
 小川勝章

第6回

 宇宙飛行士
 山崎直子

第7回

 都市計画家
 佐藤滋

第8回

 作家
 小林エリカ

第9回

 歌手
 クレモンティーヌ

第10回

 建築史家
 橋爪紳也

第11回

 女優
 藤谷文子

第12回

 ラッパー
 ガクエムシー

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: 野村雅夫 フィルム探偵の捜査手帳

連載2: 澤村斉美 12の季節のための短歌

連載3: 小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー

第1回

 イラストレーター
 中村佑介

第2回

 書家
 華雪

第3回

 華道家
 笹岡隆甫

第4回

 小説家
 森見登美彦

第5回

 光の切り絵作家
 酒井敦美

第6回

 漫画家
 石川雅之

第7回

 ギタリスト
 押尾コータロー

第8回

 プロダクトデザイナー
 喜多俊之

第9回

 芸妓/シンガー
 真箏/MAKOTO

第10回

 写真家
 梅佳代

第11回

 歌人
 黒瀬珂瀾

第12回

 演出家
 ウォーリー木下
   

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: きむいっきょん(金益見) ラブ!なこの世で街歩き

連載2:  野村雅夫式「映画構造計画書」

連載3: 【連載小説】 ハウスソムリエ 寒竹泉美