野村雅夫 フィルム探偵の捜査手帳その心、がらんどうにつき ~ミラノ、愛に生きる~ |
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澤村斉美 12の季節のための短歌くもの巣が風に吹かれてゐる路地は青空のまま冬になりゆく |
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小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー高炉 |
(聞き手・進行 牧尾晴喜)
大型フェスからライブハウスでのアコースティックライブまで、様々な形態でのパフォーマンスを展開するラッパー、ガクエムシー氏。彼に、11月に発売開始されたばかりのニューアルバムやエッセイの新刊など、最近のプロジェクトについてうかがった。
------ニューアルバム『キュウキョク』の話からうかがいます。このアルバムの曲調は、アップテンポの1曲目『Mic Check 1.2.』、ピアノの旋律が美しい『take it slow(希望の灯ver)』、ジャズ系のアレンジ『ラシクアルガママ』など、非常にバラエティに富んでいます。
ガクエムシー: ラップでメッセージを伝えるのが僕の仕事なわけで、極端な話をすれば、ラップを乗せることができれば「バックトラックは何でもいい」というくらいなんです。ステージでは、「メトロ君」って呼んでるんですが、メトロノームに乗せてラップをしたこともありますよ(笑)。その時に好きになっている音楽が一番如実に入ってくるんだろうという感じです。
------楽曲の創作、組み立て方について。PVなどを観ていると、小さなメモ帳に思いついたフレーズなどを書かれていることがありますね。曲の組み立てについては、細部から全体をつくる感じでしょうか、あるいは逆?
ガクエムシー: 思いついたことがあれば、メモ帳に書くか、メモがなければ家にメールで送っておきます。全然違うことをしているときに思いついたりしますね。他人のライブや映画を観ているときや、おばあちゃんと電話で喋っているときとか(笑)。
組み立て方については、「その曲で何を言いたいかが見えればその曲は完成できる」ということです。逆に、その一言が見つからないときには完成しません。どうやってそのメッセージに導いていくか、という風に僕は曲をつくっています。
------アルバム全9曲のPVが毎週順次、公開されています。こちらも、幻想的なものからライブ感満載の楽しい雰囲気のものまで、幅広いですね。それぞれの監督へは、楽曲にあわせたイメージなどを伝えてつくっているのでしょうか?
ガクエムシー: じつはPVの内容について「こうしたい」といった要望は言ってないんです。それぞれのPVの監督に企画書を書いてもらって、もちろん微修正はあるけれど、基本的には何も言わずに作っています。
『BUMP OF CHICKEN(バンプ・オブ・チキン)』などのPVに携わっていた若い人を紹介されて、話を聞いたんですよ。そしたら、大好きなアーティストの映像に携わって、尊敬する監督さんとの仕事もできたし、次の夢を探してるところだって。じゃあぜひ一緒にPVを創ろうっていうことになって。まだ若くてチャンスがなかなかないから「くすぶってる」ような人もまわりにいっぱいいるっていうことで、ガサッて集まってもらって。目が輝いてて、自分自身の20年前も思い出しました。こんな目をしてたなあ、って。
------今回のアルバムでは、どういう人へメッセージを伝えたいですか?
ガクエムシー: 『DA.YO.NE』とかを歌ってたときもそうなんですが、「なんでこんなに面白い音楽があるのに、他の音楽を聴いてるのよ?」っていう思いがあるんです。ラップを一度好きになった人はなかなか離れられないですし、これまでラップやヒップホップを聴いたことがない人も巻き込んで、どんどん新規開拓をしていくことも僕の役割なのかなという気がしています。
------『キュウキョク』では、『夢の叶え方』や『新たな日』など、子どもの視点の楽曲、子どもに向けたメッセージの楽曲も印象的です。
ガクエムシー: 「育児」を「育自」と書いたりもしますが、僕自身、子どもができてから教わることばっかりです。自分が子どもだった頃を振り返ってみると、父親は何でも知っててすげえな、と思っていたけれど、きっと父親も僕といっしょに育っていたんだろうなと思うようになりましたね。人にものを教えるのがこんなに難しくて、楽しくて、素晴らしいものかと、毎日感動しています。いま僕自身が一番一緒にいるのが家族だから、当然、そこへ向けての歌になります。
------不定期のイベントで、子ども向けのラップ教室、通称『子育てラップ』なんかもされていますね。
ガクエムシー: いろんな種類のラップがありますが、ファンキーでハードコアなラップを覚える前に、みんなが一つになって盛り上がれるような、ポジティブなラップを覚えてもらったら嬉しいですね。
------エッセイ『世界が今夜終わるなら』を出版されました。Mr.Childrenの桜井和寿さん、小林武史さん、といった音楽関係以外にも、サッカー、登山家、と様々なジャンルの27人にインタビューされています。どのような経緯で?
ガクエムシー: 以前のアルバムでつくった曲から発想したんですが、「もし世界が今夜終わるなら、あなたはどうしますか?」って尋ねると、その回答が、その人の人生を明確に表しているんですよ。そこで、基本的には知人に電話してインタビューさせてくれよ、と。ただ、僕のまわりだと音楽関係に偏ってしまいますから、ちがう職業の人たちもインターネットで調べてコンタクトを取ったりしました。MBAをインドで取得してお寺でカフェを始めたお坊さんだとか、東日本大震災の後にすごく積極的に活動をされていたお医者さんだとか。面白い人がたくさんいるんですよ。
------今年、これまでの所属事務所を独立され、仕事の方法、時間の使い方など、生き方そのものが変わったのではないかとおもいます。独立を決意された経緯を教えていただけますでしょうか。
ガクエムシー: 人生はこのまま同じようにずっと続いていくんだろうな、とどっかで思ってたんですが、そんなことはないんだと今年の東日本大震災のときに改めて思いました。震災後に現地でボランティアをしながら、何もかもなくしている人たちの様子をみて、自分がすごく「ぬるい」なと感じたんです。残された時間を「いつの間にか終わっていた」ではなく、より有意義に使うことをすごく考えるようになりました。子どもにも、ラッパーであり続ける姿を見せたいと思うし、世知辛い北風突風の吹き荒れる今の音楽業界では、提案されることだけをやっていてもあまり長続きしないんじゃないか、と。
もちろん、そうやって独立してみて大変なこともすごく多いです。これまではマネージャーがしてくれていた、細かい確認だとか。でもその分、会う人会う人とより深くつながれるようになりました。音響や会場を担当する人たちとも自分でやりとりをしていると、「もっといいものをつくりたい」と強く思います。
------ツアーなどで関西にもよく来られていますが、好きな場所などを教えていただけますか?
ガクエムシー: 時間が空いたら、吉本新喜劇を観にいってます。ひとりで3、4回は行きました。同じ「言葉の使い手」として、刺激をもらいたいですからね。間の取り方だとか。歌も「間」だとおもいます。
------今後のビジョンを教えてください。
ガクエムシー: 事務所を独立してからはつねに全力疾走ですが、これからも走り続けたいです。関西では12月18日に東心斎橋 Bar MUSZE(バー・ミューズ)でアコースティックライブがありますので、お越しいただける方は会場でぜひお会いしましょう。
2011年11月10日 西宮にて
キュウキョク(ガクエムシー) 9曲入り MP3 320kbps ジャケット・歌詞カード付(PDF形式) 価格2,000円(税込) 一 Mic Check 1.2. 二 Don't Stop ! 三 もしもラッパーじゃなかったなら 四 take it slow (希望の灯ver) 五 夢の叶え方 六 ラシクアルガママ 七 ナクスコトデシカ 八 新たな日 九 AOU |
キュウキョクPV集 画像は『take it slow(希望の灯ver)』(監督:戸塚富士丸)より。 |
世界が今夜終わるなら 桜井和寿(Mr.Children)/小林武史/西原理恵子/Candle JUNE/栗城史多/SPEECH/高橋歩/澤穂希(なでしこジャパン)/三代目魚武濱田成夫/セヴァン・スズキ/清水圭/広瀬香美/乙武洋匡… 自分が選んだ道を歩む、人生の旅人27人が描く、最後の日。 出版社:A-Works |
ハッピーラッシュ♪♪♪vol.18 ~ Happy Xmas !!~ 12/18(日)@大阪・東心斎橋 Bar MUSZE(バー・ミューズ) 18:00open/18:30start /前売り3300円(+drink ticket 1,000yen) GAKU-MC 広沢タダシ Guest:STOOL BEAT! チケット予約方法など詳細はハッピーラッシュのブログ該当記事をご覧ください。 |
GAKU-MC(がくエムシー) ラッパー。1970年東京生まれ。1990年『EAST END』を結成し、『DA.YO.NE』(『EAST END×YURI』名義)でヒップホップ初の紅白出演。ミリオンセラーを記録する。 藤井隆「ナンダカンダ」、CHEMISTRY 「Dance with me」等、作詞提供多数。 現在はソロとして、ap bank fes. summer sonicを始めとする大型フェスからライブハウスでのアコースティックライブまで、様々な形態でのパフォーマンスを展開中。 2011年、所属事務所を独立。レーベル Rap+Entertainment(ラップラスエンターテインメント)を立ち上げ、2年ぶりのニューアルバム『キュウキョク』を発売。同時に、世界最後の夜をメインテーマに、様々な人の生き様とメッセージを綴ったエッセイ集『世界が今夜終わるなら』をA-Worksより出版。 |
やあ、私だ。最後の捜査対象は、ミラノの大富豪のマダムが息子の友人である料理人と恋に落ちる、不倫もののメロドラマ、『ミラノ、愛に生きる』である。なんて書き出しだと、興味のあるなしが読者によって極端に別れそうだが、私はその触手の動かない方にも自信を持ってお勧めしたい。確かに物語の枠組みは古典的だが、随所に野心的な「遊び」を発揮する演出には思わず脱帽したのだ。
挙げるべきポイントをあえてひとつに絞れば、SEの使用法である。ジョン・アダムズのスコアを使用したBGMも奏功しているが、驚いたのは文字通り「効果」音だ。
英国の名優ティルダ・スウィントン演じる、ソ連時代にロシアからミラノへ単身嫁いできたエンマ。彼女は、手っ取り早い表現をすれば、カゴの中の鳥。満たされているようでいて、心に虚空を抱えている。そのポッカリしたスペースにコックがスライド・インしてくる様子の映画的な仕掛けも巧みなのだが、スポットを当てたいのはそこではない。その前、つまりは彼女がいかに孤独かを表現する方法である。
そこは大邸宅。儀礼的なパーティーでも開こうものなら、使用人たちが機械的な動きで行き来し、数多の食器が食卓へと運ばれていく。足音や食器の触れ合う音がする。と、ここまでは「環境」音としてすっと耳になじむ。ところが、である。ふと気がつくと、足音も食器の音もぎりぎり不自然(このさじ加減が絶妙だ)という程度に増幅され、あろうことかリズムを刻んでいるではないか。それも、微妙に変拍子。それが全編を通して忘れた頃に響くのだ。なるほど、彼女の心はがらんどうなのだろうな、と。だからこんなに響くのだよな、と。現実の音を効果音に昇華しつつ、ここまで「効果的」に仕立て上げた例はあまりお耳にかからない。
気鋭の監督グアダニーノが繰り出すあの手この手にいくつ気づけるか、上質のメロドラマ+知恵比べのつもりで映画というアバンチュールを楽しんでいただきたい。
(c) 2009 First Sun & Mikado Film. All Rights Reserved 『ミラノ、愛に生きる』 東京: 12月23日(金)~ Bunkamuraル・シネマ リニューアルオープニング作品 大阪: 12月24日(土)~ 梅田ガーデンシネマ X'mas&お正月ロードショー 兵庫: 1月7日(土)~ シネ・リーブル神戸 新春ロードショー 京都: 近日公開 京都シネマ 監督:ルカ・グァダニーノ/出演:ティルダ・スウィントン、マリサ・ベレンソン 2009年/イタリア映画/120 分/原題:IO SONO L'AMORE/配給:ツイン |
野村雅夫(のむら・まさお) ラジオDJ。翻訳家 FM802でNIGHT RAMBLER MONDAY(毎週月曜日25-28時)を担当。イタリア文化紹介をメーンにした企画集団「大阪ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳も手がける。 |
何かを見ている人の姿っていいものだな、と思う。たとえば、心にのこっているのは子供のころに見た弟の姿だ。近所の工事現場の様子を、道路の隅にしゃがんで、きょとんという感じで見ていた。「面白い?」と聞くと、「うん」といってそのまま動かない。私は工事にはそんなに興味はなかったけれど、弟の目がブルドーザーやヘルメットの人を映してきょろきょろ動くのが楽しくて、しばらくそこにいた。
最近はこんなことがあった。駅に向かう途中の路地で、近所に住む小学生の女の子がぼんやりと何かを見上げていた。くもの巣だ。くものいない大きなくもの巣が、電線と庭木の間にうまいことかかっている。空を背景とした、なんだか風通しのよいその巣を私も一緒に見上げていたくなった。が、先を急がねばならなかった。女の子の目はしばらくの間空を映して青むだろう。明るい目を少し想像し、足早に通り過ぎた。
澤村斉美(さわむら・まさみ) 歌人。 1979年生まれ。京都を拠点に短歌を見つめる。「塔」短歌会所属。 2006年第52回角川短歌賞受賞。08年第1歌集『夏鴉』上梓。 |
製鐵所のシンボルである高炉。その役割は鉄鉱石とコークスなどを燃やし、銑鉄をつくるというものだ。一度火を入れるとメンテナンス時以外は、年中止まることなく稼動しているという働き者。写真は和歌山県にある高炉の兄弟だ。我々が目にする事が出来る多くの高炉は、茶色の錆びをまといながらも堂々とそびえ立ち、存在感を放っている。そんな勇ましい姿からは「男」を感じずにはいられない。いつか真下に行って撮影してみたいものだ。
小林哲朗(こばやし・てつろう) 写真家。保育士 保育士をしながら写真家としても活動。廃墟、工場、地下、巨大建造物など身近に潜む異空間を主に撮影。廃墟ディスカバリー 他3 冊の写真集を出版。 |