野村雅夫 フィルム探偵の捜査手帳無軌道という名の軌道から ~SOMEWHERE~ |
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澤村斉美 12の季節のための短歌桜並木歩み来る人の半身は桜の花にかくれてゐたり |
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小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー寝屋川北部地下河川 |
(聞き手・進行 牧尾晴喜)
さまざまな登場人物たちの人間模様を温かみのあるストーリーで繊細に表現する漫画家、羽海野チカ氏。彼女に、現在連載中の作品「3月のライオン」や創作活動に対する姿勢についてうかがった。
------まずは現在連載されている漫画「3月のライオン」(以下「ライオン」)の見どころについて聞かせてください。前作「ハチミツとクローバー」(以下「ハチクロ」)では美術大学が舞台でしたが、今回は主人公が将棋の棋士という珍しい漫画です。なぜ将棋を扱おうと?
羽海野: 棋士と漫画の間に私が感じる共通点があり、そこをテーマにできないかと思いました。「ハチクロ」では「社会に出るまでの自分」を、「ライオン」では「社会に出てからの自分」を描いている気持ちです。
------「ハチクロ」(単行本10巻の番外編)で、登場人物同士が将棋を指している楽しいシーンがあります。その頃から既に、次のテーマを将棋にしようと決めていましたか?
羽海野: はい。あの時点ですでに将棋を次に描こうと、自分で用意を始めていました。次に描くものが、胸の中で動き始めていなければさみしいのと、こわいので、「ハチクロ」を完結まで連れてゆけませんでした。
------もし羽海野さんが将棋を指すとしたら、どのような棋風でしょうか。
羽海野: 守らずに攻めてしまうタイプです。こわくて先を急いでしまう。本当に…弱いです…。悪夢のように。
------「ライオン」では、将棋の世界の話のほか、三月町の三姉妹の生活など、昔ながらの温かい下町の風景も丁寧に、そして非常に魅力的に描かれています。このような生活風景やエピソードは、どのような時におもいついたり作りあげていくことが多いですか。
羽海野: 通っていた高校がお茶の水に近く、知り合いがみな上野、鶯谷、日暮里あたりに住んでいたので、下町の風景はなつかしい感触です。「ライオン」の川本家は高校の友人の家をモデルにしました。
エピソードは、当時友人たちに聞いた話や、一緒に見た風景も入ってます。でも、月島をじっさい散歩しながら写真を撮って、歩きながら想像する感じが一番多いです。
------「ライオン」の作品中で京都が舞台になる場面がありますが、羽海野さんご自身が京都で好きな場所を教えてください。
羽海野: 京都は鴨川が何より好きでうらやましいです。私は川が大好きなので、あんな風にきれいな川が日常の風景にいつもあるのがとてもうらやましいです。東京の川は水辺に近づけないので。
------羽海野さんの漫画ではよくおいしそうな料理が登場しますね。「ハチクロ」では登場人物のハグちゃんと山田さんがすごい「料理」を作っていましたが(笑)。
羽海野: お料理ベタなのがコンプレックスだったので、それを自分で笑い飛ばすために、「ハチクロ」の女子にはあのような恐ろしいサバト料理を作ってもらいました。
------小さなころはどんな子どもでしたか。
羽海野: 毎日ひとりで図書館に通って「写真集」や「○○の作り方(公園とか庭とか和菓子とか)」みたいな本や「世界の宝石」とか「美しい刺しゅう図案集」とか、挿絵のたくさん入った児童書とか絵本とか浴びるように読んでいました。
絵もたくさん描いていました。カレンダーとか広告のチラシのうらに。とても内気でほとんどひとと話せませんでした。
------漫画家でよかったと思うことは何ですか?
羽海野: 漫画を描く事を通じて、たくさんの方とめぐり会えた事です。今はツイッターなどで読者さんとコミュニケーションを直接とれる時代になったので、みんなの話をきかせてもらえ、私の話もきいてもらえお互いを心の中に住まわせて一緒に今、生きて物語をつむいでいるような気がします。そして、それは、私が漫画を描いて、いつか辿りつきたいと思っていた世界にとても近いと感じています。とてもはげましてもらえています。それは漫画で皆さんにお返しできれば、と思います。
2011年2月8日 大阪にて
3月のライオン 白泉社「ヤングアニマル」にて連載中 3月のライオン公式HP |
ハチミツとクローバー 1 (クイーンズコミックス ヤングユー) 著者:羽海野チカ 出版社:集英社 定価420円(税込) |
ハチミツとクローバー 10 (クイーンズコミックス ヤングユー) 著者:羽海野チカ 出版社:集英社 定価420円(税込) |
羽海野チカ(うみの ちか) 漫画家。東京都生まれ。高校時に漫画家デビュー。卒業と同時にデザイン会社に就職、デザイナー、イラストレーターを経て本格的に漫画を描き始める。 代表作は、美大を舞台とした「ハチミツとクローバー」(2005年アニメ化、2006年映画化、2008年TVドラマ化)。2003年、同作で第27回講談社漫画賞を受賞。 白泉社「ヤングアニマル」で、高校生のプロ棋士が主人公の漫画、「3月のライオン」を連載中。 |
東京を舞台に、倦怠感漂う初老のハリウッドスターと、新婚ほやほやで同じくアメリカ人の若い人妻との淡い出会いと別れを描いた出世作『ロスト・イン・トランスレーション』。14歳で突如知らない世界で暮らすことになった少女を扱った前作『マリー・アントワネット』。異邦人の視点を鮮やかに具現化してきたソフィア・コッポラの最新作は、ハリウッドに実在する伝説のホテルを舞台に、私生活はもっぱら自堕落な人気俳優が、別れた妻と暮らす11歳の娘と久しぶりに過ごす時間が紡がれる。やはり孤独と見知らぬ世界というテーマは通底しているな…。
やあ、遅ればせながら、私だ。ソフィアへの高まる期待から、放っておくとだらしなくにやけてしまう顔を、探偵らしくニヒルに見せる無駄な努力をしつつ、試写室最前列に腰を下ろせば上映開始。ついつい眼がらんらんとしてしまうが、暗闇に紛れて問題なし…。
注目のファースト・ショットから数分。画面には、西海岸特有の広大で荒れた砂地。フェラーリが唸りを上げて、ただぐるぐると周回を繰り返す。カメラは身じろぎもせずにじっと見つめるだけだ。ロングショットで傍観する。何かのミスでフィルムがループしたのかと疑いたくなるくらいの、なんて素っ気なくて退屈なオープニングだろう。
無軌道な生活という表現は、この作品の主人公にしっくりくる。ところが、彼の場合、もはやその無軌道っぷりがきっちり軌道に乗ってしまっているのだ。ちょうど冒頭のように同じ場所を回っているだけで、主体性なんてほとんど見当たらない。そんな男が、イタリアでの珍奇な体験をハイライトにした娘との交流を経て、どこへ向かうのか?やはり同じ車で同じ風景の中に彼が登場するエンディングを観るや、私は真犯人を見抜いた得意げな探偵のように、高らかに笑い出したくなるのを堪えることになった。鮮やかだ。クールな映像に、またもや冴えるサントラ。ヴェネツィア金獅子にも合点がいった!
『SOMEWHERE』 (c)2010-Somewhere LLC 4月2日(土)より、 梅田ガーデンシネマ、なんばパークスシネマ MOVIX京都、神戸国際松竹 ほか全国ロードショー |
野村雅夫(のむら・まさお) ラジオDJ。翻訳家 FM802でNIGHT RAMBLER MONDAY(毎週月曜日25-28時)を担当。イタリア文化紹介をメーンにした企画集団「大阪ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳も手がける。 |
この季節になると、日本人は実に勤勉に桜を植えたものだと感心する。名所に出かけなくとも、近所や通勤路でたいてい桜に遇う。そしていつの間にか、馴染みの桜が心にあったりする。今住んでいる町には3年前に越してきたが、私にはまだ馴染みの桜がない。ほんの数回見ただけでは、まだ花と人の心は通わないのだろう。
恋しいというほどではないが、前に住んでいた町の桜を時折思い出す。近所の用水路に沿うその桜並木は、並木道の入り口が下り坂になっていて、やや低くなった道の半ばから振り返ると、入り口に立つ人の姿は、こんもりと膨らんだ桜の花で隠れる。すっきりと見通しの良い冬には見られなかった光景だ。ある年の春に、遠くから遊びにきた友人を案内した時に初めて、その景色に気づいた。桜花に隠れた彼女はどんな景色を見ていたのか。花で膨らんだ枝々の下で、スカートと二本の足がぼうっと佇んでいた。
澤村斉美(さわむら・まさみ) 歌人。 1979年生まれ。京都を拠点に短歌を見つめる。「塔」短歌会所属。 2006年第52回角川短歌賞受賞。08年第1歌集『夏鴉』上梓。 |
地盤が低く雨水が自然に川に流れ込まない「内水域」である、大阪府の寝屋川流域では大雨や台風の時など、度々の浸水被害に悩まされてきた。その対策として様々な治水対策が行なわれているが、今回紹介するのがその一つ、「寝屋川北部地下河川」だ。住宅密集地では新たに川幅を広げたり、掘削することは困難なため、地下空間を利用したというわけだ。全長約11キロの地下河川の内径は2~10メートルで、写真の場所は約7メートル。
*協力/大阪府寝屋川水系改修工営所
小林哲朗(こばやし・てつろう) 写真家。保育士 保育士をしながら写真家としても活動。廃墟、工場、地下、巨大建造物など身近に潜む異空間を主に撮影。廃墟ディスカバリー 他3 冊の写真集を出版。 |