野村雅夫 フィルム探偵の捜査手帳そのコンロは気まぐれでなくてはならない ~ヒア アフター~ |
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澤村斉美 12の季節のための短歌火のまへで逢ふ約束の節分祭ほの温き闇を人はくるらむ |
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小林哲朗 モトクラ!ディスカバリー水島コンビナート |
(聞き手・進行 牧尾晴喜 haruki MAKIO)
独特のタイポグラフィや、補色・特色を使った繊細なデザインを実践する書容設計家、羽良多平吉氏。特に、ウレシイ編集、タノシイ設計活動の姿勢や、現在展開中のエディトリアル・デザインについてうかがった。
------現在手がけておられる雑誌だけでも、青土社・詩と批評誌「ユリイカ」、小学館・文芸誌「きらら」、日本建築学会誌「建築雑誌」など、様々なジャンルのものがあります。雑誌によってデザインの仕方はどのように違うのでしょうか?
羽良多: デザインに関して言えば、雑誌ごとのルールといったものはなく、フォントの選択やレイアウトのバランスまで、完全に自由です。編集部側からの発言の中にはいろいろな提案が含まれているので、それをできるだけ咀嚼するようにしています。以前、「きらら」編集長・稲垣伸寿さんとも話し合ったことですが、つまるところそれは出版の方針、特集の立て方、また、読者対象やマーケティングにもつながっていることだからなのです。
------デザインを手がけられている雑誌では、どのようなことを心がけておられますか。
羽良多: デザイン性と分かりやすさの両立は常に心がけています。そうですね、音楽が聴こえてくるようなイメージかな。「ヴィジュアル・オーケストレーション」としてコミュニケーションできたらいいですね。
------エディトリアル・デザインでは、たとえばカタカナやアルファベットの言葉が増えたりして、時代とともに変わっていく部分もありそうですが、いかがでしょうか。
羽良多: そのとおり! 日本語は漢字仮名交じり文で、漢字、ひらがな、カタカナ、さらには英文も交じってきます。20世紀後半より、英文テキストをできるだけデザインの一要素として添えるようにしてきました。単なるアクセサリーとしてではなくネ。
和文書体もここ数年でずいぶんと増えています。デザインに、かなり影響してきているんでしょうね。世界中の若い人たちが作っている楽しいフリーフォントなどをダウンロードしていると、そういったフォントにつられて全体のデザインができていくことも多々あります。私の場合、バウハウスや往年のスイス・グラフィックのようなグリッド主義による基本に乗りながら「ふれるな。なお近よれ」といった具合に、そこから自由にデザインしていこうとしています。
ほかには、テーマの扱いのこと。たとえば「ユリイカ」(2011年2月号)では「ソーシャルネットワークの現在」という特集だったんですが、こういう抽象的なテーマでは、画像自体をこちらで準備することもあります。今後はそういう機会が増えそうな嬉しい予感がしています。
------昨年から、100年以上の歴史がある「建築雑誌」のデザインも手がけておられます。
羽良多: 歴史の重みを感じます。中谷礼仁編集長をはじめ、編集部の意見に耳を傾けていると、デザインも自然にうまれてきます。担当した最初の号(2010年1月号)は個人的にはとくに気に入っているんです。じつは表紙のコンセプトは半年ごとに変えていて、わかりやすいところではタイトルロゴなどの配置も変更しています。これは「ユリイカ」でも同じです。定点観測的な方法に加える+αを暗中模索中(笑)。いままでは雑誌のデザインといえば年間を通して同じフォーマットでないと許されないような雰囲気もありましたが、読者も編集者も楽しくなれるような新しい試みを考えているのです。
------雑誌のほかにも、たとえばYMOのアルバムなども手がけておられますが、媒体による違いはありますか。
羽良多: ありませんよ。本もLPジャケットも同じです。YMOのアルバムでは、写真家の鋤田正義さんがお声をかけて下さったこともあり、同時に細野晴臣さんの「地平線の階段」のブック・デザインをしたご縁から、自然とデザインワークに入ることができました。
------たとえば、羽良多さんがやってみたいデザインと編集側から求められるデザインが異なるようなことはありますか。
羽良多: 合わないということはないですよ。互いの要望が合わないまま無理に進めると失敗しますし、場合によってはこちらから、「もっといい画像はないですか?こんなの如何?!」といった具合に提案することもあります。そういったやりとりで意外な展開があるのが一番いいんですよ。
大事なことは、デザインはあくまでも方法の設計であって、一個人の表現ではないということですね。編集とデザインの互いのクリエイティヴな部分のバランスをどうするかというところが楽しいのです
------デザインのアイデアは、机に向かっているとき以外に思いつくことも多いですか。
羽良多: そうですね、電車に乗ってボンヤリしているときなんかに多々あります。眠る直前に思いつくこともありますが、眠さのあまり、内容を忘れてしまったりして……(笑)。数日経って虫のしらせのように再び突然やってきたりしますが。締切には関係ないタイミングでね。向こうから「ちょっと聞いてよ」といった感じでやってくるんですよ(笑)。
------どのような子どもでしたか?デザインや読書が好きでしたか。
羽良多: どちらかと言えば絵画が好きでしたが、のめりこんでいたわけではありません。高校生くらいで受験のことを考えますが、スイス・グラフィックがきっかけで漠然とグラフィック・デザインしたいなーと思っていたんです。東京芸術大学の美術学部工芸科に進学しましたが、楽しく遊学できてよかったとおもいます。
------関西でお気に入りの場所は?
羽良多: 定期的に京都には来ていますが、仕事から解放されると、いつも鴨川は四条大橋と団栗橋の間でハエジャコ釣りをしています。
伊豆ではウグイやアユのエサ釣りをしますが、そうやって景色のいい場所で自然と向き合う時間が大事になってきました。まったく別の考えが浮かんできたりして、デザインは素敵に変化します。いろいろなコトやモノに気がついていく、そういう連鎖反応が楽しいですよ。「梁塵秘抄」(りょうじんひしょう)でも語られているように、学びの姿勢や遊び心の大切さとでもいうんでしょうか。
------「idea (アイデア) 2011年 05月号 [雑誌]
」で羽良多さんの特集号が組まれるのが楽しみですが、今後のビジョンについてお聞かせいただけますか。
羽良多: 「アイデア」では、表紙をデザインしました。内容は乞うご期待です。今後については、ライフワークとして、エディトリアル・デザインは終生していきたいと考えています。そのために、絵を描く、字を書く、文章を書く、ということはこれからもしていきたい。恥かかないようにネ。(笑)とにかく、漢字文化圏だけでなく、海外に向けてのデザインも増やしていきたいですネ。
2011年1月27日 京都にて
きらら(表紙は2011年1月号) 小学館 表紙ビジュアル:中村佑介 アート・ディレクション+デザイン:羽良多平吉+米倉みく@EDiX |
ユリイカ2011年2月号 特集=ソーシャルネットワークの現在 Facebook、twitter、ニコニコ動画、pixiv、Ustream・・・デジタルネイティブのひらく世界
(表紙は2011年2月号) (株式会社 青土社)定価1,300 円(本体1,238 円) |
建築雑誌(表紙は2010年1月号) (社団法人 日本建築学会)定価:1,300 円 |
パブリック・プレッシャー
イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)、1980年 写真撮影:鋤田正義、画像処理+デザイン:羽良多平吉 |
イラスト:岩沢由子 | 羽良多平吉(はらた へいきち)) 書容設計家。1947年、東京生まれ。東京芸術大学美術学部工芸科卒業。現在、女子美術短期大学造形学科デザインコース情報メディア系研究室専攻科講師。 『新宿プレイマップ』『遊』『HEAVEN』『ガロ』『QuickJapan』をはじめ、サブカルチャー系のエディトリアル・デザインを多く手がけた。独特のタイポグラフィやフォントグラフィー、補色による色彩のマジシャンとして大胆精緻なデザインを実践している。 現在、青土社「ユリイカ」、小学館「きらら」、日本建築学会「建築雑誌」などの書容設計(エディトリアル・デザイン)が進行中。 |
やあ、私だ。今月の捜査対象は、イーストウッドの最新作『ヒア アフター』。東南アジアで津波に巻き込まれて生死をさまよったパリの女性キャスター。一心同体だった双子の兄を事故で亡くしたロンドンの男の子。死者と交霊する能力に苛まれるサンフランシスコの工場労働者。直接的には接点のない3人の登場人物が、死を自分のそばにあるものと認識することで、かえって生を深く意識し、やがては偶然なのか必然なのか交錯するのだが…。
複数の短編が何らかの形でシンクロし、スケールの大きな物語を編み上げるという、映画の特性を活かした語り口は、グローバル化のこの時代にあって、よりアクチュアルに感じられるのかもしれない。近年は重要な映画作家がこぞって採用している感がある。イーストウッドのお手並み拝見ということで、特に各エピソードの繋ぎは目を凝らすポイントだろう。
この形式においては、異なるものが意外な共通点で交わるという瞬間をより鮮やかに印象づけるため、各々の性質や環境をより特徴的に描いておくことが肝要だ。気心の知れた腕っこきの常連スタッフに囲まれた監督は、そのあたり実によく心得ている。
サンフランシスコ湾岸に典型的だというアパートの選択などは好例だろう。デイモン扮する労働者の住まいは、彼のがたいに比して少々狭い。招いた女の子と台所に立つと、別室の留守番電話のメッセージが聞こえるくらい。おまけにコンロは火がつきにくい。抜本的な修理はせずに、着火のコツを体得してごまかしている。気まぐれなコンロは彼の生活環境の描写を補強しているし、 だましだましの対処は彼の人生に呼応してもいる。細部のこうしたさりげなくも手堅い演出が、大局で活きてくる。気まぐれコンロが私の捜査魂に火をつけたというところか。
ところで、原題は一語"Hereafter"で、「死後」や「あの世」という意味だ。生と死のはざかいという主題がこの邦題で伝わるのかどうか、私には知る由もない。
『ヒア アフター』 (c) 2010 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. 2011年2月19日(土)より全国ロードショー |
野村雅夫(のむら・まさお) ラジオDJ。翻訳家 FM802でNIGHT RAMBLER MONDAY(毎週月曜日25-28時)を担当。イタリア文化紹介をメーンにした企画集団「大阪ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳も手がける。 |
2月といえば、吉田神社(京都市左京区)の節分祭だ。いつごろからか毎年訪れるようになった。格別の信心があるわけではない。どちらかというと(もしかしたら、ほぼ)食い気が原動力。参拝→くじ付きの節分豆→そば→燗酒→菓祖神社(お菓子の神様をまつる神社)で豆茶と駄菓子→屋台ひやかし→ホットワイン→なじみの喫茶店でカレーライス、というコースを性懲りもなく繰り返す。2、3、4日あたりは一段と寒さきびしく、頬がぴしぴしと凍るのだが、なぜか体のなかは浮き立ってしょうがない。祭の人波と、勢いよく焚かれる火、春がくることを鋭く感じている体のせいか、冬の闇がうっすらと温かく思われる。
澤村斉美(さわむら・まさみ) 歌人。 1979年生まれ。京都を拠点に短歌を見つめる。「塔」短歌会所属。 2006年第52回角川短歌賞受賞。08年第1歌集『夏鴉』上梓。 |
生生産効率を上げるため、工場が密集している地域がある。中でも巨大なものが一般的にコンビナートと呼ばれ、鉄鋼業、石油精製工場、化学工場など様々な種類の工場が集まり、銀色の町を形成している。昼は無骨な鉄骨など、力強いイメージだが、夜には点検用の明かりが煌々とし、夜景としての美しさを感じられるから不思議だ。写真は岡山県の水島コンビナート。山の上から眺める全景は見るものを圧倒するパワーを感じさせる。
小林哲朗(こばやし・てつろう) 写真家。保育士 保育士をしながら写真家としても活動。廃墟、工場、地下、巨大建造物など身近に潜む異空間を主に撮影。廃墟ディスカバリー 他3 冊の写真集を出版。 |