きむいっきょん ラブ!なこの世で街歩き街よ!これからもよろしくね |
|
野村雅夫式「映画構造計画書」あなたの心に風の痕 ~シチリア!シチリア!~ |
|
【連載小説】 ハウスソムリエ 寒竹泉美家の気持 |
(聞き手・進行 牧尾晴喜)
劇団sundayの代表として演出をてがけるほか、演劇祭のプロデュースや、台詞を一切使わないノンバーバル・パフォーマンスの演出で海外からも注目を集める演出家、ウォーリー木下氏。彼に、創作活動に対する姿勢についてうかがった。
------まずは、ウォーリーさんがプロデュース・演出をてがけるノンバーバル・パフォーマンス集団、オリジナルテンポ(The original tempo、以下TOT)についてうかがいたいと思います。先日の大阪HEP HALLにつづき、今度は高知パフォーミング・アーツ・フェスティバル2010での招聘公演が決まっています。また、TOTはこれまで、韓国、台湾、シンガポール、イギリス、などでも公演されていますよね。海外での反応はいかがですか?
ウォーリー: 台詞がなく、そのまま海外で通用しやすいようにつくっています。お客さんにも参加して楽しんでもらえる演出になっているんですが、海外の人はすごく入ってきますね。「そこまで参加してくるの?」とこちらが驚くくらい(笑)。
------舞台に付き物のハプニングも、海外だと特に多そうですね。
ウォーリー: そうですね、理由がよく分からないトラブルなんかも多いです。電圧が変わるだとか、打合せしてあるにもかかわらず会場にスピーカーがないだとか(笑)。海外では10秒に1回くらいハプニングがある感じかもしれません。
------現場の事情や本番のデキで予想外の方向に転ぶことは多いと思いますが、いい方と悪い方、どちらに転ぶことが多いですか?
ウォーリー: 半々でしょうか。稽古場でどれだけ作りこんでも、一回の本番に勝るものはない、というところです。
最近強く思うのは、長い時間をかけて作ったほうがいい、ということです。長くそのことを考えて熟成した結果が、いい方向に作用しますから。「1回やって終わり」というものはあまり作りたくないなあと思っています。そう考えながら、TOTの活動もしています。すればするほどお客さんの反応もよくなっていくし、多くの人に認めてもらえるようになります。
------昔からそのように考えていましたか?
ウォーリー: いえ、20代の頃は年に4、5本の新作を作った時期もあったんですよ。勢いは出るし、毎回新しいものということでお客さんにも喜んでもらえますが、作り手側としては、一つ一つをきちんと見ることはできないですよね。創作のストックとしても、また興行的にも自転車操業のようになってしまいますから、30歳になってそれはやめようとおもいました。
------先日行われた、京阪電車開業100周年にちなんだ「サーカストレイン」は、中之島駅から三条駅間の車内という独特の空間で、また今月の「ギア」も大阪北加賀屋の元造船所という、独特の会場です。
ウォーリー: 舞台上での演劇は他所に移動させることが可能ですが、サーカストレインやギアは、「この場所ならでは」です。いまは、再現性がないものの方が好きですし、それは演出家としては重要なことだと考えています。どんな劇場でも路上でも、そこにしか立ち現われないものはあるし、それを嗅ぎとるのが演出家に必要な能力だろうと思います。それはその場所にいると見えてくるし、サーカストレインの前はとくに、京阪電車にもずいぶんと乗りました。劇場以外の特殊な場所は、これからも色々と試してみたいですね。極端な例ですが、エレベーターの中だとか、路上、古い学校とか。
------子どもの頃から、何かを創ることは好きでしたか?
ウォーリー: 文章を書くのが好きでした。当時は漠然と、将来は小説家になると思っていました。それ以外では、自分たちの遊びの中でルールを作ってゲームにしてしまうのも好きでしたね。これは今も自分の中に残っています。たとえば、舞台の上で独特のルールを作ってしまって、その中で役者さんに自由に演じてもらったり。
------関西で好きな場所を挙げてください。
ウォーリー: 神戸の風景が好きですね。大学時代を過ごした愛着もあるし、海と山が両方近くて、方角や、自分の位置も何となく分かりますし。
------「お客さんに求められること」と「自分がやりたいこと」のバランスは?
ウォーリー: 戯曲を書くときは、やりたいことしかやりません。本には確信があることだけを書きます。でも演出のときには、お客さんの視点とのバランスがかなり重要だなと考えています。人と話をしながら求められることを探しますね。それに比べると、「やりたいこと」というのは自然とあるものですから、「やりたいことを考える」というのはナンセンスですよね。
演出では、会場や予算のような条件に制約があって難しいスタートのほうがうまくいくことがあるんです。何もかも揃っていて「自由にやってください」というようなときは、ついついやりたいことを考え出してしまう。さっきの「ナンセンス」な状態にはまってしまう。すると、あまりいい結果は出ないんですよ。
------今後のビジョンを教えてください。
ウォーリー: まずは、既にお話したように、劇場以外の場所でいろいろ試したいです。そのほか、TOTのパフォーマンスでは、熟成しながら2、3年はじっくりやっていきたいと考えています。また、日本にいると、日本語という共通言語はもちろん、背景として持っているものも似ています。ですが、海外ではコミュニケーションもゼロからだと実感しました。そんな環境の中でのパフォーマンスはこれからもどんどんとやっていきたいと考えています。
2010年11月30日 大阪にて
オリジナルテンポ 喋るな、遊べ!!-shut up play!! - 舞台風景 |
ギア -大阪発ノンバーバルパフォーマンス-ロングラン トライアウト公演 日程:2010年12月17日-19日 会場:Creative Center Osaka 内 BLACK CHAMBER 料金:前売2,500円 当日3,000円 高校生以下1,000円 |
ザッハトルテ presents(金沢) 『ちいさな音楽体(おんがくたい)』 2010年12月19日(日) 場所:金沢市民芸術村 ミュージック工房 ゲスト:いいむろなおき 演出:ウォーリー木下 ザッハトルテのウェブサイト内、「Live Info」で詳細をご確認いただけます。 |
ウォーリー木下(うぉーりー きのした) 演出家。東京都生まれ。sunday(劇団☆世界一団を改称)の代表で、全ての作品の作・演出を担当。戯曲家・演出家として外部公演も数多く手がける。ノンバーバル(無言劇)パフォーマンス集団・The Original Tempoのプロデュース・演出を行い、海外からも注目を集めつつある(2005年・韓国/春川国際演劇祭招聘・台湾/台北芸術村招聘、2008年・エジンバラ演劇祭、2009年6月シンガポール/Esplanade Theater シンガポールアーツフェス招聘、8月ロンドンBACコメディフェス招聘、エジンバラ演劇祭に参加)。 |
正直に言います。
街歩きはめんどくさい。
特にだんだん寒くなってくると、「もう外に出たくなーい」気持ちが勝ってしまう。
そうなると、いくら♪オデコのメガネをデコデコデコリンやっても何も見えてこない。 もう小2目線にはなれない。
街歩きよりも帰って寝たい。ていうか寒い。
特に書きたいネタもなく原稿に向かうと、ダメダメな自分が見えてくる。
□街歩き大スキ!日頃見る風景も違った視点で見てみたらこんなに面白いんだよ☆
という真心よりも、
■世間に面白い視点を持っているひとだと思われたい
という下心の方が勝ってるんじゃないか?
自分の下心に気づいて嫌気がさしても、原稿を書かないわけにはいかない。
こういうことから逃げると、罪悪感は追いかけてくるし、どんどん自分が嫌になる。
とりあえずダウンジャケットを着て、ベランダに出てみる。
いつもやる気が出ない時は、「とにかくちょっとだけやってみる」ことしている。
糸井重里さんが何かのコラムでこんなことを書いていた。
うろ覚えだけど要約してみる。
「今までやる気を出す方法を考えてきたけれど、何もないところからやる気は出ないことに気づいた。やる気というものはやっていくうちに段々と出るものだ」
ベランダに出たら、やっぱり寒くてびっくりする。
風の匂いがする。
ビルや学校、家の屋根や電線が見える。すずめが可愛い。
あれ?なんかごわごわした黄色がある。
あれなんだ??
とりあえず、外に出てみる。
ひとまず、あの黄色いごわごわのところまで行ってみよう。
おおお!すげーーーー
なんだこの黄色。
地面が黄色だ!
ありふれた表現すぎるけど、本当に葉っぱのカーペットみたい!
木はすごいな。いつも絶対に木はすごいもんな。木ってほんますごい。
その時思った。
私、「すごい!」ってことしか思ってないけど、すごいもんはすごい。
とにかく今は、なんで美しいかとか、なんで面白いかとか、考えずに歩いてみよう。
おお!
なんだこの出窓!全く出窓の意味ない!
空気の入れ替えどころか、まず開け閉めすることも不可能!
でもこの使い方は新しい。
正しい出窓の使い方って、誰にも決められへんもんな。
これはこれでいいのだ。
最初は、「寒い寒い」と言いながら外に出たのだけど、歩いているうちに気分がよくなってきた。冬の風も冷たくて気持ちいい。
そして私は気づいた。
一回りして戻ってきた。
面白いものやきれいなものを発見したら、やっぱり誰かに伝えたい。
街歩きが、めんどくさいのも、楽しいのもきっと本当だ。
それでいいのだ。
それがいいのだ。
街を歩くと、綺麗なものも汚いものも面白いものも普通っぽいものも全部街のなかにあることに気づく。
なんの変哲もない立体。
時々面白い看板。
ハッと目に留まる柄。
美しく恐ろしい草木。
混在しているから、素敵なんだ。
完璧じゃないから、愛しいんだ。
街は私が大好きな「この世」に似ている。
混じっていく。変わっていく。つながり続ける。
愛しい街よ!
めんどくさがってごめん!
そしてこれからもたくさん歩くのでよろしくね。
ということで、今回で「ラブなこの世で街歩き」もおしまいです。
何事も終わりがあるのはいいことですね。
最後に以前載せた写真の「素敵に変化するその後」を発見したので、その一枚でお別れしたいと思います。
「恐るべき草木…その後」 |
これがどんなにハートフルな風景かは、バックナンバーの第4回を読んでみてください。
それでは、みなさんさようなら。
またいつかどこかで!
金益見(きむ・いっきょん) 人間文化学博士。大学講師。 2008年『ラブホテル進化論 (文春新書) 』でデビュー。同年、第18回橋本峰雄賞受賞。 |
『ニュー・シネマ・パラダイス』で知られる巨匠トルナトーレの最新作『シチリア!シチリア!』がいよいよ公開となる。邦題はシチリアとマクロだが、舞台はかなりミクロでもっぱら監督の故郷バゲリーア。州都パレルモから15キロほど東に位置する人口5万強の町だ。原題の「バアリーア」は現地方言でのこの町の呼称。古代より幾多の民族の支配を受けてきたシチリアらしく、語源はアラビア語で「風の通り道」を意味するようだ。実際、スクリーンにはいつも風が吹きつけている印象だ。画面によく砂塵が舞う。
1930年代から80年代にいたるまで、バアリーアに間断なく吹き荒れる時代の風が、内陸から海へと吹き渡る疾風と相まって、主人公ペッピーノを中心とする家族の物語をはためかせる。
何もレトリックとしてだけではない。たとえば作品の冒頭、幼いペッピーノは近所の親父から急ぎのおつかいを頼まれ、街路を全速力で駆け抜ける。男の子の身体はいつの間にかふわりと風に舞い大空に浮かび上がる。少年の眼を通してカメラが鳥瞰する町の景色は、この地に吹く風向きと同じように山側から海へと向いている。アフリカを思わせる土色の建物が立ち並ぶシチリア特有の街並みを、砂まじりの風が通り過ぎていく。それによって時代は砂煙をあげ、好むと好まざるとに関わらず市井の人々がその渦に巻き込まれていくのだから、これから展開する一大叙事詩の幕開けとして、この一見トリッキーなシーンは実に理にかなっているのだ。
故郷の半世紀を描くにあたり、トルナトーレは持てる語りの技術をあらいざらいこのフィルムに注ぎ込んでいる。イタリアの一田舎町固有の歴史。その中で蠢く一家族の物語。地理的にも時間的にも遠く離れているはずなのに、映画館の暗闇に身を沈めてから2時間半の後、あなたは自分の心に吹きわたった風の痕に気づくだろう。それが監督の洗練された語り口が、徹頭徹尾ローカルな作品に普遍性を付与した成果なのだ。
(C)2009 MEDUSA FILM 「シチリア!シチリア!」 12月18日(土)より シネスイッチ銀座、梅田ガーデンシネマほかにて公開 |
野村雅夫(のむら・まさお) ラジオDJ、翻訳家 1978年、イタリア、トリノ生まれ、滋賀育ち。 イタリアの知られざる映画・演劇・文学を紹介する団体「大阪ドーナッツクラブ」代表を務める。 FM802でDJとして番組を担当。 |
幽霊の存在なんか信じない。
ましてや、家に感情があるなんて、そんな馬鹿なことがあるわけない、と浅野浩太は思っていた。
だから、一家心中事件があったという部屋で暮らしても、恐いと感じたことはなかった。ただ、ときどき、前の住人たちが、ここでどんなふうに暮らしていたのかを想像してみることはあった。十階にあるその部屋のベランダからは、夜景が一望できた。彼らは、亡くなる前、この夜景を見ただろうか。明かりの数だけ家があり、家に守られた生活が存在するこの光景を見て、何を思っただろうか。
ゆっくりとエレベーターが上昇していく。部屋の荷物はすべて運び出され、今は空になっているはずだった。今日、最後の確認を終えたら、ここを去る。
これでよかったんだろうか、という思いが、一瞬浩太の頭をよぎった。でも、もう決めたことだった。
部屋のドアを開けると、何もないフローリングの真ん中に、巻貝リカが立っていた。
「あれ、リカさん、何でここに」
いくら家主でもそれは不法侵入じゃ……と言いかけた浩太をリカはにらみつけた。
「そうやっていつも、黙っていなくなるんだ」
「あの、何の話ですか」
「いなくなる方は勝手にすっきりしていいかもしれないけど、残された人のことを考えたことある? 消えた詐欺師を探し回るほど、わたし金も暇もないんだから」
「いや、あの、大声で詐欺師とか言わないでくれるかな?」
声が外に聞こえないように、浩太はドアを閉めた。
そして、まあ落ち着いて、とリカに近づいた途端、力いっぱい鞄で殴りつけられた。
「リカさんリカさんって、うるさい、詐欺師。自分の方が本当は年上のくせに。経歴だって名前だって、今までしゃべったことだって全部嘘って分かって、目の前が真っ暗になったんだから。わたし今まで何を見ていたんだろう、誰と話してたんだろうって思って、すごくさみしかった。それだけでもひどいのに、黙っていなくなるなんて、絶対、許さない」
リカの潤んだ目を見て、浩太は何かを言いかけた。が、ため息をつくと背を向けて、大股で玄関へ歩いていく。
「ちょっと、逃げないでよ」
リカの声を無視して、浩太はドアを大きく開けはなった。
そして、
「悪趣味ですよ、エミさん」
と、言った。
そこには、エミが立っていた。
「げ、お姉ちゃん。なんで?」
エミは、ひらひらと手を振って、にっこりと笑った。
「この部屋の引渡しの立会いチェックに来たの。浅野のおかげで、この部屋もそろそろ立ち直ってきたから、普通のお客さん入れてもいい頃かなと思って」
浩太がリカに向き直る。
「エミさんが何て説明したか知らないけど、オレが出て行くのはこの部屋だけで、巻貝不動産はやめないよ」
「浅野さあ、わたしに気づくタイミングが早すぎるよ。あと一押しだったのに」
「あと一押しって何よ!」
リカは思わず大きな声を出した。自分が口走ったあれこれが全部聞かれていたのだ。
「詐欺師っていっても、俺、訴えられたり、警察に追われるようなへまはやってないし」
「もう、いいよ」
浩太のセリフを遮って、リカは言った。
「いなくならないなら、それでいい」
めでたしめでたし、と、うなずくエミを、リカはにらみつける。
「ああ、よかった。この部屋、すっかり感情が戻ったみたい。笑ってるわ。ほら、笑い声、聞こえる?」
「聞こえない」
リカは不機嫌に言い放ったが、エミはまったく気にしていない。
「じっくり待った甲斐があったわ。もう大丈夫ね。やっぱり人間の生の感情って刺激的で面白いわ。リカがここで爆発してくれたおかげで、この子も、もう一度誰かと住んで一緒にやっていこうという気になったみたい」
エミのセリフに、リカは顔を引きつらせた。
「お姉ちゃん、あのさ、わたしを騙したのって、もしかして部屋のため?」
「そうよ」
悪びれず、エミは言った。
「ひどい、いくらお姉ちゃんでもひどすぎる」
姉妹喧嘩が始まったので、浩太は先に部屋を出た。ドアの閉まる音にも気づかない様子で、姉妹は言い争っている。
二人が出てくるのを待ちながら、浩太は目の前にあるドアを見るともなしに眺めていた。ただの鉄の板だ。そして、その先に小さな空間がある。それだけなのに、家は人を変える。人は家を変える。浩太は、よく分からなくなって頭を振った。
一体、家って何なのだろう?
ドアが開いて、ふくれっつらのリカと、上機嫌のエミが現れた。
さあ帰ろうと思った浩太はふと、誰かに呼ばれた気がして二人の背後に目をやった。そして、自分の目を疑った。何もないはずのフローリングの空間に、半透明の大きな動物のようなものが座っている。その生き物は、ゆっくりと体を起こし、あっけにとられている浩太に向かってにっこりと笑いかけた。
「げっ」
「どうしたの?」
と、リカがたずねた。
「変態が伝染った」
浩太は呆然としたまま、つぶやいた。
<終わり>
寒竹泉美(かんちく・いずみ) 小説家 1979年岡山生まれ。小説家。 2009年第7回講談社Birth最終通過。「月野さんのギター (講談社Birth) 」にてデビュー。 ウェブサイト「作家のたまご」 |