きむいっきょん ラブ!なこの世で街歩き

静かに燃える情熱看板

野村雅夫式「映画構造計画書」

情念を描く監督の情念 ~キャタピラー CATERPILLAR~

【連載小説】 ハウスソムリエ 寒竹泉美

詐欺師対決

インタビュー 押尾コータロー 氏

(聞き手・進行 牧尾晴喜)

巧的な奏法にポップな感覚を取り入れることで、独自のスタイルを築いているギタリスト、押尾コータロー氏。彼に、演奏やライブに対する姿勢、今後の目標についてうかがった。

------中国でのコンサート・ツアーを終えられたところですね。いかがでしたか?
押尾: 今回はコンサート・ツアーというよりは、ギタークリニック・ツアーとして、中国のギター少年少女に会いに行ってきたという感じです。初めての中国だったんですが、想像していたよりも多くの人が待っていてくれました。アジアは比較的近いですが、すぐに会える距離ではないから、昨年の韓国でも、今年の中国でもファンの皆さんの盛り上がりはすごいんです。本当に熱い想いが伝わってきて嬉しかったです。

------海外といえば、デビュー後すぐに連続出場された、スイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルのときはどうでしたか?
押尾: その土地の音楽、ルーツ・ミュージックというのがあるんですね。たとえば、モントルーであればブルース。これが弾けないと話にならないという感じでした。僕は、あまり得意な方じゃないけれど、ブルースセッションで「よしよし」と認めてもらえた感じでしたね。たとえば、アメリカであれば、カントリーが弾けたら仲間に入れてもらえるというように。参加する気があるのかどうか、ということを試されている気がします。

------演奏の会場について。ライブをしやすい会場、しづらい会場は?
押尾: たぶん、50~100人規模の会場が、近いという意味ではいいのかもしれません。お互い顔を見ながらという感じ。あと、500人ぐらいのホールもゆったり見てもらえるし、音響的にもいいと思います。ただ、それだけではなくて、照明を使って演出したり、アコースティックギター1本だけれど、ロックバンドみたいに大きな会場でもできるようなシステムも確立させたいと思っているんです。音響システムを組む前提で考えると、生音がよく響くように設計されているクラシックホールは、やりづらい場合があります。

------ライブで演奏予定だった曲を、アドリブで変えることはありますか?
押尾: インディーズのときは、よくありました。むしろそれが楽しかったですね。でも最近は曲を急に変えるとスタッフ(特に照明オペレーター)が困るので、極端なことはできないんですが、生のライブの良さでもあるので、あらかじめ構成がフリーな曲も入れておくとか、イントロを変えてみるとか、その時の気分でやったりはしますね。


------TVのバラエティ番組や情報番組にご出演の際に、その場で演奏されることもありますね。ライブ以外の場で演奏するのはどうですか?
押尾: ギターインストルメンタルを聴いたことのない方にも「いい音楽を聴けた」と、楽しんでもらえるように頑張りますね。そこから知ってくれる場合も多いんですよ。

------たまたま拝見した番組ではヴァイオリンの葉加瀬太郎さんとセッションしていましたが、セッションしづらい楽器というのはありますか?
押尾: ギターデュオとのセッションかな。ギター2本でできあがっているところにもう1本入れることになるので難しいけど、うまくハマると、めちゃ気持ちいい。ピアノも音域の関係でわりと難しいところがありますね。でも、結局はお互いの気持ちじゃないかなと思います。

------地元である大阪はどうですか?
押尾: 大阪はボケとツッコミが面倒くさい街ですよね(笑)。でも、そう思いながら、そのボケやツッコミを探している自分がいる、という感じです。大阪以外でライブをした時に、いつも通りに曲間でMCをしていると「そんなに喋るんなら、もっと演奏してください」と真剣にいわれたことがあるんです(笑)。逆に大阪では、演奏が上手くても「おもろないな」という一言で終わるところもある。もちろんギターが上手くないと駄目だけれど、気持ちっていうか、ヒューマンなところを求めてくる土地柄だと思います。僕は、ここで育ててもらったんやなと思いますね。

------演奏したい音楽と求められる音楽に違いがあったらどうしますか?
押尾: デビューの頃には「こうしたらもっと売れる」と強制されるようなことはなかったですね。ぼくは34歳のときに、いわゆる遅咲きでデビューしました。だから、その時点で自分のスタイルもできていたし、まわりの関係者からの「妙な期待」はなかったので、自由にさせてもらいました。

------メジャーデビューの時も、とくにそういう条件はなかったんですね。
押尾: そうですね。僕のスタイルそのままでいいということでした。逆に僕から、メジャー契約のときにお願いした条件はひとつだけです。インディーズ時代から一緒にやってきた大阪のレコーディングエンジニアをつけたいと言ったんです。そういうのはわりと珍しかったみたいで、「世間知らずだなあ」だとか「東京にはもっとすごいエンジニアがたくさんいるのに」とか言われたりもしました。なんとか頼んで、「1回目だけは」ということで認めてもらいました。そうなると、そのエンジニアの彼も必死ですよ(笑)。まあ、その頑張りが認められて、その後も彼にエンジニアとして頼むことになりました。


------演奏以外の部分、たとえば選曲やパフォーマンスについてはどうですか。
押尾: そもそもデビュー前は「インストルメンタルなんか絶対に売れない」と言われまくっていました。そう言われると悔しいから、どうやったらギターインストでたくさんの人に聴いてもらえるかをすごく考えたんです。
  選曲では、お客さんの目線にもなって、楽しんでもらえるものを探しました。オリジナル曲だけでなく、パルナスのCMテーマ曲や、ウルトラマンのテーマなんかも弾いていましたね(笑)。もちろん、自分が演奏したいと思うことが基本ですけど。
  立って演奏することや、トリッキーなフレーズを入れるようにアレンジを工夫することも、聴くだけではなく、見ていても楽しいライブにするために、いろいろ考えましたね。

------今後の目標や方向性について教えてください。
押尾: 最初にチャンスをくれたのは関西のラジオ局、FM802のヒロ寺平さんでした。ヒロさんがラジオでぼくのインスト曲をかけてくれたから今の僕があると思っています。ヒロさんをはじめ、地元大阪で応援し続けてくれる人がいる。その絆が全国につながって今の僕を支えてくれてるんです。
  デビューから言うと来年で10周年目に入るのですが、この絆をこれからも繋げていくためにも、国内外問わず、まだ行ったことのない場所へもギターを担いで行ってみたいです。
  僕にできることはギターを弾き続けること。これまでお世話になってきた場所を盛り上げて、新たに切り拓いていくパワーをもっと出していきたいですね。10代、20代の素晴らしいギタリストもたくさん出てきているので、次の世代のためにも、今の僕ができることを少しずつでもやっていきたい。そして、夢を持ち続けることの大切さを伝えていきたいです。
  

2010年6月4日 大阪にて

コンサートツアー2009 「Eternal Chain」
10月3日 東京国際フォーラムホールにて
 
押尾コータロー(おしおこーたろー) プロフィール

アコースティックギタリスト。
オープンチューニングやタッピング奏法を駆使した、独特のギターアレンジやパーカッシブで迫力ある演奏と繊細であたたかい音色が共存するステージは、世代を超えて多くの人々に支持を受けている。
2002年07月10日メジャーデビュー。同年10月全米メジャーデビューを果たす。毎年7月にスイスで開催されている「モントルージャズフェスティバル」には、2002年から3年連続出演するなど、海外での評価も高い。
ソロアーティストとして全国ツアーなどのライブ活動を中心に、映画音楽、番組テーマ曲、CM音楽などの作曲も手掛ける。ジャンルを超えたコラボレーションも話題で、自身のプロデュースイベント「GUITAR PARADISE」を毎年開催するなど、幅広いスタンスで活躍中。
 
CD「Eternal Chain
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コンサートツアー 2009 “Eternal Chain” [DVD]
SEBL118/ ¥6,300(tax in)
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ライブ情報など最新情報はこちら
押尾コータロー オフィシャルサイト

第7回 「静かに燃える情熱看板」

分前に、何かのバラエティ番組で大鶴義丹が話していた(その時の奥さんだった)マルシアの情熱的なエピソードをよく覚えている。
 私の記憶が正しければ、マルシアは愛を踊りで表現するそうだ。
 キッチンでもベッドでも、朝から晩まで踊り狂うマルシア。
 私はその話を聞いた時、「うらやましいぜ義丹!」と思ったことをよく覚えている。
 毎日そんな情熱的なダンスを見られるなんて、超楽しいではないか。
 
「情熱的なもの」=「マルシアの踊り」を思い出す私にとって、情熱とは燃え上がる炎のようなイメージだった。
街歩きで見つけた看板だとこんな感じ↓

わかりやすい情熱看板 ↑特にこっちのひとが情熱的

 しかし少し歳を重ねた今、「踊るマルシア!」「燃える炎!」みたいな情熱だけではなく、静かに…でも確かに燃えている情熱があることを知った。

情熱看板①
(静かな温度☆)

 情熱看板①は、一見レインボーなので派手さに目がいく。
 しかし、実は看板の文字にものすごい熱が隠されているのだ。
 まず、春夏秋と続くものの、冬が出てこない。
 つまり、暖かい季節と暑い季節が中心ということだ。
 そして夏がでかい。
 夏という文字だけでかいのだ。
 ここの店主は夏が好きなんだろう。暑い季節が好きな、熱いひとなんだと思う。

情熱看板②
(静かな温度☆☆)

 情熱看板②は、普通の民家に取り付けられている手作り看板である。
 阪神ファンが多い大阪では、玄関にタイガースのポスターが貼ってあったり、ガーデニングしているお庭に虎が置いてあったりするが、この家の主には並々ならぬ阪神タイガースへの情熱を感じる。
 涼しげな青文字の中に時折現れる赤い言葉…。
 毎月ラミネートされて発信される虎情報に、静かに燃える虎魂を感じるのは私だけではないはず。

情熱看板③
(静かな温度☆☆☆)

 情熱風景③は、これぞ!クールに熱い三ツ星看板だ。
 グレー×白という控えめな色遣いだが、社名より大きく表現されている"心意気"にグッとくる。
 「あらゆる試作」という文言に、「すべて、もう全部、なんだって、試しに作りまっせ!」という思いが凝縮されている。
 そこに、完成することではなく、試し続ける情熱を感じて思わず胸が熱くなってしまう。


 情熱的なひとをみると、「あ、いいな」と思う。
 エネルギーを燃やして何かに取り組んでいるひとを見るのは、気持ちがいい。

 情熱的なひとは、情熱を込めて何かを生む。
 そうして作られたモノは、どこかしら燃えている。
 わかりやすく燃えているモノも、静かに燃えているモノも、情熱から生まれたモノは確かな温度を持っている。

 そうして生まれたモノ達が、街の風景をあたたかくしているのではないだろうか。

金益見(きむ・いっきょん)
人間文化学博士。大学講師。
2008年『ラブホテル進化論 (文春新書) 』でデビュー。同年、第18回橋本峰雄賞受賞。

情念を描く監督の情念 ~キャタピラー CATERPILLAR~

タリアのシルヴァーノ・アゴスティ監督の作品を日本で上映していると、「彼はイタリアの若松孝二のようですね」と評する人に出会うことがある。確かに、両者とも60年代前半から映画界に身を置き、既存の映画興行に手足を縛られない独立プロダクションを興した。人間の根源的なテーマである性愛の形を追求し続けている点も、ラディカルな政治性を抜きにその作品を語ることができない点も共通している。壮大で綿密な『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』(2007年)に度肝を抜かれた僕は、彼がその後どこへ向かうのか、アゴスティとの関連性を含めつつ気になっていた。
意外なことに、行き先は小さな小さな作品だった。反戦映画と言えど、戦闘シーンはなし。ロケーションは山間のひっそりとした農村のみ。撮影期間は12日間でスタッフは11人。これぞ独立プロの真骨頂ではないか。たとえ扱うテーマが壮大であったとしても、制作予算まで壮大である必要はない。血の通ったメッセージと想像性に富んだ監督の演出とそれらに共感して身体で応える役者といった条件が整えば、映画は金などかけなくても、いや、むしろかける金が少ないからこそ、突き抜けた表現性を獲得することがある。今回の『キャタピラー』(2010年)は、その証左として昨今の日本映画の中でも明らかに群を抜いている。
 江戸川乱歩の『芋虫』(1929年)を原作にしてはいるが、若松監督は独自の視点であの小さな物語に社会性と政治性を加味しているのがポイントだろう。大陸で犯した蛮行に対する罪の意識を喚起するフラッシュバックが、戦場で四肢を失った久蔵の記憶として繰り返し挿入され、カメラは床の間にまします昭和天皇の肖像を何度もフレームに捉える。登場人物たちの情念をフィルムに焼きつけ続けてきた監督自身の情念が痛いほど伝わってくるあの凄み。日本にしろイタリアにしろ、映画という芸術の純粋性は独立プロにほどあるのだろうなと再認識させられた。

c若松プロダクション
野村雅夫(のむら・まさお)
ラジオDJ、翻訳家
1978年、イタリア、トリノ生まれ、滋賀育ち。 イタリアの知られざる映画・演劇・文学を紹介する団体「大阪ドーナッツクラブ」代表を務める。
FM802でDJとして番組を担当。

第7回 詐欺師対決

 言うだけ言ってしまうと、浩太は背を向けた。そして、玄関で靴を履き、瑞江を取り残したまま外に出た。
「あー、俺、何やってるんだろ」
 浩太は瑞江に聞こえないようにつぶやいて、いらいらと足元の小石を蹴った。めずらしい失態どころじゃない、次の展開を考えずに行動したのは、浩太の覚えている限り、人生で二度目だ。
 エミに言われたとおりにやっていれば、瑞江はこの家を契約しただろう。金持ちの気まぐれという大義名分のもと、等身大の家で暮らしていくうちに、少しずつ自分を取り戻して行くのだろう。こんな安い物件より、高いマンションを契約させたほうが利益になることは分かりきっている。だが、エミにとってはクライアントに合った家を提供することだけが大事なのだ。
 浩太だって最初は指示どおりにやるつもりでいた。別に自分の損にはならないし、瑞江だってそれで救われるなら、やってやろうと思っていた。
 今日、マンションから出てきた瑞江の目を見るまでは。
 自分と似ている、と浩太は思った。そして、気がつけばあんな行動に出ていた。
 ガラガラと引き戸を閉める音がして、振り返ると、瑞江が立っていた。夕日が斜め後ろから射して、彼女を赤く彩っていた。浩太は静かに息を飲んだ。瑞江は何事もなかったかのように微笑んでいた。それは、自信に満ちた社長夫人の微笑だった。
「ここは充分見せてもらったから、残りのお部屋も見せていただけるかしら」
 と、瑞江が言った。そうきたか、と浩太は思った。そして、
「喜んで」
 と、静かに微笑むと、瑞江を車に案内した。

 
 家まで送るという浅野浩太の申し出を、他に行くところがあるからと断って、瑞江はタクシーに乗りこんだ。車窓から見える街はもう半分夕闇に溶けている。ネオンが光り始めている。遠くの高架上を長い電車が通り過ぎていった。
 母親は今頃どうしているのだろう、と唐突に瑞江は思った。お金がない、忙しい、お父さんが悪いといつも文句を言っていた母。瑞江はそんな母が嫌でしょうがなかった。母のようになりたくないと思って、ここまできた。でも、浅野の言葉で分かったことがある。嫌だったのは貧乏だったことではない、現状を改善させようともせず自分の選んだ道を人のせいにして嘆いてばかりいたことだった。
 今のわたしは、あのときの母とそっくりだった。
「あの、ここから先はどうやって行けばよろしいですか?」
 タクシーの運転手が話しかけてきた。瑞江は、顔を上げると、ゆっくりと、夫と夫の愛人が住むマンションへ向かう道順を説明した。


 チャリンという金属音がして、エミは我に返った。デスクの上に、借り物の車のキーがある。浩太が返ってきたのだ。考え事をしていて、入ってくるのに気づかなかった。
「どうだった?」
 エミが聞くと、浩太は少し得意そうな顔になった。
「ばっちりです。今日紹介した物件のどれかは必ず契約するから、一週間ほどキープしておいてほしいということでした」
「どれか、ねえ」
 エミが不満そうにつぶやいたのをさえぎって、浩太は、
「まあ、いいじゃないすか。契約するって言ってるんだから」
 と、へらへら笑った。
「おかえりー」
 奥からひょいとリカが顔を覗かせた。両手に漫画を何冊も抱えている。マニアックなきわどいエロ漫画ばかりだが、これが世界に名を轟かせるフェチ建築 <RIKA-STYLE> 創造の源泉なのだ。
「どうだった? 詐欺師対決は?」
「人聞き悪いなあ。自分たちでさせといて。ああもう、嘘の肩書きも、ベンツも、このちゃらちゃらした服も、もうまっぴらっすよ。俺、着替えてきます」
 別室に消える浩太の後姿を見送りながら、エミは誰にも聞こえないようにつぶやいた。
「うちの探偵はとっても優秀だって言ってるのに」
 (続く)

寒竹泉美(かんちく・いずみ)
小説家
1979年岡山生まれ。小説家。
2009年第7回講談社Birth最終通過。「月野さんのギター (講談社Birth) 」にてデビュー。

ウェブサイト「作家のたまご

第1回

 イラストレーター
 中村佑介

第2回

 書家
 華雪

第3回

 華道家
 笹岡隆甫

第4回

 小説家
 森見登美彦

第5回

 光の切り絵作家
 酒井敦美

第6回

 漫画家
 石川雅之

第7回

 ギタリスト
 押尾コータロー

第8回

 プロダクトデザイナー
 喜多俊之

第9回

 芸妓/シンガー
 真箏/MAKOTO

第10回

 写真家
 梅佳代

第11回

 歌人
 黒瀬珂瀾

第12回

 演出家
 ウォーリー木下
   

カバーインタビュー: 聞き手・進行 牧尾晴喜

連載1: きむいっきょん(金益見) ラブ!なこの世で街歩き

連載2:  野村雅夫式「映画構造計画書」

連載3: 【連載小説】 ハウスソムリエ 寒竹泉美