きむいっきょん ラブ!なこの世で街歩きタイプの看板(合コン編) |
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野村雅夫式「映画構造計画書」「突如始まり、突如終わる」こともある ~活動写真の記憶~ |
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【連載小説】 ハウスソムリエ 寒竹泉美おすすめの家 |
(聞き手・進行 牧尾晴喜)
ユニークな舞台設定やストーリー、そして緻密な作画で人気の漫画家、石川雅之氏。彼に、創作や作画に対する姿勢、実写ドラマ化される「もやしもん」についてうかがった。
------間もなく実写ドラマ「もやしもん」がはじまりますね。見どころは?
石川: 脚本や構成の段階で参加していますが、原作とはあえて違う流れにしようかなという意図もありました。原作の漫画とは別物として、あらためて楽しんでもらえたら嬉しいです。ドラマに関しては、ぼく自身も楽しみにして待っています。
------現在、作画風景を生中継しておられます。(注:生中継の期間中に一時中断して電話インタビューさせていただきました。)常に何千という人々に見られながらのペン入れ作業はどうですか?
石川: 難しい面もありますね。やっぱり最初は緊張します。人数を意識しちゃうと描けませんし。
------ほかの漫画家さんからは、既に「(自分の作画風景を生中継するのは)絶対イヤ」という声もあったようです。石川さんにとっては、今回の企画、抵抗はありませんでしたか?
石川: 実はぼくの場合には、こちらからお願いした部分もあったんです。ひとつには、描いた原稿が雑誌に載って、それがたまると単行本になって本屋さんに並ぶわけですが、そういう実感が、いまだにないんです。漫画を描く作業は一人で室内にこもってしますが、それが世の中に出ているという実感がないんですね。もうひとつは、漫画を描いていることを知ってもらうためです。自分なりの広告はなんだろうと考えてみたら、たとえば講演会をするよりも、漫画を描いているところをそのまま見せてしまおう、ということになりました。
------漫画家さん全般に言えることだとおもいますが、長く連載していると画風が変化していくようですね。これは意図的な部分もありますか?
石川: あれは不思議なもので、描く時は「いつも通り」と思って描いているんですよ。それが、一か月もすると「あれ?」という違和感が出てきて、3か月くらいするとやり直したい、という感じになります。「もやしもん」も、前半、3巻くらいまでやり直したいですもん(笑)。
------連載中の「もやしもん」や「純潔のマリア」、また、それぞれの作品のなかで、さまざまな場所が舞台となりますね。大学の研究室から酒蔵、中世ヨーロッパなど。そういう設定で、作画の方法も変わってきますか?
石川: 作品ごとに変えるというよりは、室内か屋内か、といった感じで違いますね。ただ、連載中の2つでいうと、「もやしもん」の方が描き慣れているかな、という部分はあります。風景のコツというか、省略するところなんかも分かっているし。
あと、外国の風景は、適当に手を抜いて描こうとすると和風になってしまいますね。自分が暮らしているなかで想像できる範囲から出ないから。だから、あまり知らないことを描こうとすると、とにかく資料が必要になります。
------石川さんは大阪の堺市のご出身ですが、関西で好きな風景はありますか?
石川: 小さな頃、家のまえに古墳があったんです。教科書通りの鍵穴の形の前方後円墳。街のなかにポツンと山があるような、そんな奇妙な風景が好きでした。
------新しいアイデアやストーリーはどんなときに思いつきますか?
石川: 「よし、考えるぞ」という風にはやってないとおもいます。たとえばご飯を食べているとき、机に向かっているとき、というようにバラバラです。
------アイデアを思いつくために特別な方法や場所はないという感じでしょうか。
石川: そうですね、新しいものは、案外、日常に転がっているなっていう感覚があります。「暮らしている中で覚えていること」しか話にできないし描けないとおもうんですよ。ファンタジーを描いている人でも、自分の知っている世界しか描けないから、全部空想のファンタジーはおもしろくないでしょうね。
------今後の目標や方向性について教えてください。
石川: あまり力んでどうこうしようという感じはないですね。漫画は誇るべき文化だ、いや芸術だという意見も近年聞きますが、ぼくは、漫画はいい意味で「しょせん漫画」であって、娯楽であるべきかとおもっています。イブニングやgood!アフタヌーンを、会社への道すがらや学校の休憩中とかにパラパラって読んでもらって、読み終わったらゴミ箱に捨ててもらう、それでいいとおもう。そういう漫画の潔さが好きです。それ以上になろうとする必要なんてないんじゃないかなあとおもいます。その人の5分を僕の漫画にもらうためにやっている、という感じでいたいですね。高尚でなくてもいいから、これからもノンビリと楽しんでもらえるのが一番です。
2010年5月19日 大阪にて
もやしもん(8) (イブニングKC)
通常版各560円(税込)、講談社 9巻は7月6日発売予定 |
純潔のマリア 1 (アフタヌーンKC)
通常版560円(税込)、講談社 |
石川雅之(いしかわまさゆき) プロフィール 漫画家。1974年大阪府堺市生まれ。『週刊 石川雅之』などを経て、2004年より『イブニング』(講談社)連載中の「もやしもん」で人気を得る。同作で第12回手塚治虫文化賞マンガ大賞、第32回講談社漫画賞一般部門を受賞。 |
先ほど友人から合コンのお誘いメールがきた。
(私にとって)非日常なお誘いに、色々考える。
さてどうしようか、行こうか行かまいか…。
合コンという行為は面白そうなので経験してみたい。
だけど合コンに行くと、「好きなタイプ」とか「好きな芸能人」を聞かれそうなのが悩みどころである。
私は好きなタイプうんぬんの話が苦手だ。
質問にはちゃんと答えたいと思っているので考えてみるものの、過去を振り返っても今まで好きになったひとに統一性がない。
街歩きする時も同じである。
好きな風景やモノがまるで統一していない。
街で撮った写真を見ると、なかでも好きな看板の統一感のなさはピカイチだ。
しかし見返してみて、好きだなと思って写真を撮った看板には「好きな理由」があることに気づいた。
なので、今日は「タイプの看板」から「好きな男の子のタイプ」を考えてみたい(合コンで聞かれた時用に)。
タイプ①「人を酔わせるタイプ」 |
タイプ①は、一見すると「え?私酔ってる?」と勘違いしてしまいそうな看板である。まさに人を酔わせるタイプ。
書体とカラーに清涼感があり、狙ってる感じがなく自然なのがまたいい。
「高校時代はバスケ部、今は家で本読みながら呑むのが好き(愛読書は中島らも)」。
こんなタイプが合コンにきたら、その隠れた爽やかさに酔ってしまいそうだ。
タイプ②「にくめないタイプ」 |
タイプ②は、にくめない。
近所にあるお好み焼き屋さんの看板なのだが、時代も狙いもわからない独特のデザインが気になり、近くを通ると必ず見てしまう。
なんとなく人柄(看板柄?)も良さそうだし、子どもにも人気がありそうだ(平仮名だし)。
ユーモアがあるし、気も利きそうだ。そして酔っぱらってすぐ寝そうだ。
一緒にいて楽しそうなこういうタイプもいい。でも友達以上にはならないかな(なぜか上から目線)。
タイプ③「個性的かつ面白い友達がいるタイプ」 |
③はチームプレイが絶妙だ。
ひとつひとつの看板は強烈な個性があるのに、うまく調和している。
私はこういう、混じり合わない(だけどそれぞれが面白い)タイプが結構好きだ。
「悪友だぜ?」と言いつつ友達を大切にしてそうなのもいい。
こういう組み合わせの男子が合コンに来てくれると、楽しいひとときになりそうだ(しかし、どれも魅力的で本命を決めかねる可能性あり)。
と、ここまで考えてみて余計わからなくなってきた。
看板で考えるからややこしいのだろう。
返事をする前に、ちゃんと現実的に想像してみる。
多分最初は「カンパーイ」だろう。と、その前に飲み物を選ばなければならない。
「とりあえず生」は避けた方がいい気がする(なんだか中年っぽいので)。
でも最初の一杯は泡モノがいい。となるとシャンパンか?でも合コンでいきなりシャンパンって変じゃないか?
最初の飲み物選びだけでも結構迷ってしまう。「えーどうしよう」と引っぱって場をシラけさせるわけにはいかない。
「とりあえず生」じゃなくて、男子が生ビールを注文したら「あ、私も同じで」と言うのが一番いいのかなあ。
…と、ここまで考えてしんどくなってきた。
ということでやっぱり合コンは断ろう(「合コンには非常に興味がありますが、本来の目的とは違うところに興味があり、先方に失礼なので」とメールを返す)。
さあ、街歩き街歩き!
街歩きに出かけよう!(やけくそ?)
金益見(きむ・いっきょん) 人間文化学博士。大学講師。 2008年『ラブホテル進化論 (文春新書) 』でデビュー。同年、第18回橋本峰雄賞受賞。 |
『ヒーローショー』の公開を控えた井筒和幸監督が、活動写真(この古き良き用語を彼はためらいもなく口にする)の記憶へのとどまり方について語っているのをテレビで耳にして、膝を打った。補足しつつ要約すると…。
事実でも創作でも、何らかの物語を合理的に伝えようとするとき、人は起承転結とか序破急とかいったコードを援用する。作家だろうが、ラジオのDJだろうが、映画監督だろうが、それは同じだろう。ただ、ルールと呼べるほど明確なものでないにしても、そこに約束事がある限り、それを歪めたり破ったりする欲望を抑えきれない人が必ず出てくる。そんな破天荒な語り口が奏功した場合にのみ(ほとんどはうまくいかず、支離滅裂になるわけだけど)、「新しい表現」として人々の記憶に長くとどまり、さらにうまくいけば歴史となる。
言明こそしていなかったものの、『イージー・ライダー』(1969年、デニス・ホッパー)に代表されるアメリカン・ニュー・シネマが井筒監督に及ぼした影響ははかり知れないに違いないと再認識した。
突如始まった物語が、前触れもなく終わる。60年代に世界各地で沸き起こった映画界の「新しい波」には、そんなフィルムが数多くあり、「そこで終わんのかい!」とスクリーンに向かってツッコミを入れつつも、気づけばその物語に脳内への寄生を許し、数十年の時を経てなお、「あれは何だったのか」とふと考え込んでしまう。井筒監督が目指す写真はそういうものなのだ。
先日遅ればせながらのブルーレイ・ヴァージン喪失となった『ノーカントリー』(2007年、コーエン兄弟)も、まさにこの種の写真だった。BDの驚異的な高画質と相まって(映画的な記憶にはその作品を観た動機や場所・環境も欠かせない)、「突如もの」の傑作として僕の脳裏に焼きついた。その直後だっただけに、先述の井筒発言がいやにシンクロしたわけだ。『ヒーローショー』をこれから観るなら、唐突さに眼を凝らすのも一興だろう。
『ヒーローショー』5月29日(土)梅田ブルク7他、 全国ロードショー 製作:吉本興業株式会社/角川映画株式会社 配給:角川映画 c2010『ヒーローショー』製作委員会 |
野村雅夫(のむら・まさお) ラジオDJ、翻訳家 1978年、イタリア、トリノ生まれ、滋賀育ち。 イタリアの知られざる映画・演劇・文学を紹介する団体「大阪ドーナッツクラブ」代表を務める。 FM802でDJとして番組を担当。 |
浅野浩太は、時間通りに、シルバーのメルセデスで現れた。軽いあいさつのあと、瑞江を後部座席に乗せて、車を発進させる。
「実は、前回は資料をお見せできなかったのですが、高村さまにぴったりのおうちが見つかりまして、そちらを先にご案内したいのです。よろしいですか?」
浅野の提案を、瑞江はすぐに承知する。もう浅野に任せておけば大丈夫だという確信があった。彼は瑞江の話をじっくり聞いてくれた。うまく言葉にできない考えまで、すくいあげ、大切に包んで返してくれるような聞き方だった。たとえそれが、家の話だったとしても、自分を分かってもらっていると感じたのは、本当に久しぶりだった。
しかし、瑞江は、車が止まって、「この家です」と言われても、自分の目を信じることができなかった。
それは、古い二階建ての小さな一軒家だった。古いといっても格式のある古さではない。こだわりもなく安く早く建てられて、住民に酷使されてくたびれた、そんな古さだった。
瑞江はこんな家をよく知っていた。子供の頃に住んでいた家にそっくりだった。
馬鹿にされているのだ。頭に血がのぼりかけたとき、浅野が苦笑まじりの柔らかな口調で、
「高村さまには、こんなおうちは珍しいと思いますが」
と言った。
瑞江は気を落ち着けて、無理に微笑む。そうかもしれない。本物のお嬢様なら、こんな家、人生で一度も関わったことがないだろう。せいぜい、物珍しそうな顔をしていよう。
「見たとおりの古くて小さい一軒家です。何のこだわりもないし、大した技術も使われていません。でも、だからこそ自分の暮らしを見つめることができます。全てがそろっているデザイナーズマンションよりも、自分にとって何が不便で何が必要かが実感できる家です。まずは、ちょっと変わった体験だと思って、こんな暮らしをしてみてはいかがでしょう」
浅野が玄関の引き戸を開けた。瑞江は、恐る恐る中に入る。久しぶりに踏む畳の感触。薄暗い電気。ざらざらした土壁。歪んだ傷だらけの柱。手をあげて背伸びをしたら届きそうな天井。
遠い昔の記憶を体が覚えている。浅野の言うとおりかもしれない。この家から始めればわたしは……。
「……とか何とかうまいこと言って、丸めこんでこいって言われたんだよね」
瑞江が振り返ると、そこには、今までとは打って変わった態度で柱にもたれ、にこにこしている浅野がいた。
「要は、あんたには、こういう部屋がお似合いってことだよ」
瑞江は、青い顔のまま微笑む。取り乱したら終わりだ。
「あなた、自分が何を言っているのか分かってるの? 高村に言えば、もうあなたが、この業界で働けないようにすることもできるのよ」
浅野は、それを聞いて、笑い始める。
「構いませんよ。俺もともと、この業界シロウトだもん。一級建築士も他の肩書きも全部、嘘」
驚きと怒りで瑞江の体は震える。一体どういうことだろう。かなり名の通ったプロだということで巻貝不動産を紹介してもらったというのに。あまりのことに言い返す言葉が見つからない。
「俺、あんたみたいな中途半端な詐欺師見てると腹立つんだよね。人をだましておきながら、本当の自分はこんなんじゃない、誰か本当の自分を分かって欲しいとか思ってるんでしょう?」
瑞江は、青ざめた顔で、ゆっくりと浅野を見た。浅野は、もう笑っていなかった。
「あんたが思ってるような本当の自分なんて、もう、どこにもいないんだよ。人をだまして甘い汁を吸ってるのが、本当の自分だ。それを認められないなら、詐欺師なんてさっさとやめちまいな」
(続く)
寒竹泉美(かんちく・いずみ) 小説家 1979年岡山生まれ。小説家。 2009年第7回講談社Birth最終通過。「月野さんのギター (講談社Birth) 」にてデビュー。 ウェブサイト「作家のたまご」 |