きむいっきょん ラブ!なこの世で街歩き剥き出しの壁とパンチラ |
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野村雅夫式「映画構造計画書」計算された視線のパーセンテージ ~ハートロッカー~ |
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【連載小説】 ハウスソムリエ 寒竹泉美社長夫人がご来客 |
(聞き手・進行 牧尾晴喜)
現代におけるいけばなの魅力を、洗練された作品と所作で追及する華道家、笹岡隆甫氏。京都を拠点とする伝統文化継承者のネットワーク構築にも尽力している彼に、華道に対する姿勢や、都市と自然の関係についてうかがった。
------まずは京都の伝統文化継承者による「DO YOU KYOTO? ネットワーク」について教えていただきたいとおもいます。
笹岡: 伝統文化の担い手にとって大事なのが、四季の移ろいです。日本の伝統文化と四季の移ろいは切っても切り離せない。たとえば、いけばなであれば季節によって花やしつらえを変えますし、着物なんかでも同様ですね。現在の環境破壊が進んでいくとそういった季節のよさがどんどんなくなっていくのではないかという危機感があり、同世代で集まるたびに話をしていました。何か行動ができないだろうかということで、声をかけていったところ、「DO YOU KYOTO? ネットワーク」というかたちになりました。
------ネットワークの「世話役」をしておられますよね?
笹岡: 私がいわゆる「言いだしっぺ」だったんです(笑)。先日、メンバーの思いを形にして見ていただくイベント「DNA KYOTO」も無事に終えることができて、一安心しています。われわれにできることというのは、声高に環境問題を叫ぶのではなくて、日本文化のよさを知ってもらうことではないかと考えています。日本にある四季の移ろいに改めて注目してもらえれば、それを大切にしようという気持ちにつながっていくのではないか、と。メンバーそれぞれの分野で地道に進めていくとともに、メンバーが集まってのイベントでは日本文化のよさをしっかりみていただきたいですね。
------環境問題といえば、たとえば身近な自然が減ることで、いけばなの在り方も変わっているでしょうか?
笹岡: ライフスタイルが変わり、いけばなの役割も変わってきています。たとえば、昔と比べて和室などの「和」の空間がすくなくなっています。いけばなでも上級者になってくると床の間に活けるものを練習するのですが、床の間自体がなくなるということは、少なくとも家庭では披露の場がなくなってしまうということです。いけばなの形も変わっていく必要があるのかもしれません。いけばなが生き残っていく道として、一つは、小さく、洋風の空間にも合うようなもの。たとえば下駄箱やカウンター、あるいはテーブルのうえに食器やコーヒーカップを使って活けるようなものが手掛かりとしてありえるのかな、とおもっています。それとともに大きなもの、舞台上でいけあげる大きな作品や、ホテルのエントランスのような大空間を装飾する花。
------大学では建築を専攻されましたが、「建築」と「華道」の関係について教えてください。
笹岡: わたしは日本建築史を専攻していましたが、とくに日本建築といけばなには共通点が多いですね。デザインでいえば、どちらもアシンメトリー、つまり非対称に空間をつくっていきます。いけばなの天・地・人のデザインが建築にもみられるというのは、建築を学んではじめて知りました。いけばなにおける美の法則というものは、単にいけばなだけでなく、いろいろな分野、たとえば建築や造園など、ひろく日本文化といわれるものに共通するバックグラウンドですね。いけばなの追及は日本の美の追求であり、日本の美を追求するという意味では、いけばなの勉強も日本建築の勉強も同じなのかもしれません。
------「表現したいこと」と「仕事として求められること」のバランスはどうでしょうか?
笹岡: 縛りのある依頼は、大変だけれど面白いですね。場合によっては花材、器、色、などの具体的な指定もあり、制約の中でなにができるかを考えないといけません。しかし、そもそも、いけばなは自分の勝手にならない部分が大きいのです。自然のものが相手ですから。自然の枝をどうやって活かすか、というのが腕のみせどころであり、華道家は表現者やアーティストというよりも、花のよさを引き立たせる影の存在です。そういう意味では、条件で拘束されることへの抵抗感は少ないですね。
------いけばなを通じて、たとえば海外での作品披露や留学生の指導など、海外からの視線を意識されることも多いかとおもいます。
笹岡: 京都に対しては、いいイメージを持っておられる方がおおいですね。いけばなを通して出会う方以外であっても、日本文化への造詣が深いかたが多いと感じています。伝統的な日本文化が四季の移ろいを重視することや、陰陽思想との関係などを勉強している方もおられますしね。逆に、わたしたちがもっと、京都や日本に目を向けるべきなんだなあと気づかされます。
------今後、いけばなで挑戦したいことは?
笹岡: いけばなで街づくりをしたいですね。いけばなの考え方として移ろいを大事にすることがありますが、それを街づくりにいかしたいと考えています。街中で自然の移ろいを感じられる空間があるといいのですが。近くにある里山なども利用できていないですし、農業などに身近に接する機会も少ないと感じます。ほんの少しでも、自然に触れる機会を増やすことができれば、自然に対する見方も変わってきて、それが生き方にも影響を与えてくれるのかもしれません。そういうサイクルがうまくまわるよう、発信していきたいですね。「DO YOU KYOTO? ネットワーク」も同じ方向を目指しているとおもいます。
2010年2月25日 京都にて
ロックバンド演奏とのコラボレーション(京都大学の学園祭にて) |
笹岡隆甫(ささおかりゅうほ) プロフィール 華道「未生流笹岡」次期家元。 1974年京都生まれ。3歳より祖父である当代家元笹岡勲甫の指導を受ける。京都大学工学部建築学科卒業。同大学院修士課程修了。狂言やミュージカルの舞台を「いけばなパフォーマンス」でいけあげるなど、舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求。「平成教育委員会」で最優秀生徒賞を獲得するなど、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等でも、いけばなの普及に努める。茂山宗彦(大蔵流狂言師)、chori(詩人、裏千家家元の長男)とともに、「京の御三家」(SmaSTATION!!)、「京のプリンス」(関西テレビ)と呼ばれる。著書に『華道界のプリンスが直伝する 美的生活のヒント 』(2007年、マガジンハウス)。 |
パンチラ(いわゆるパンツがちらっと見える瞬間)を見ると、いまだに中二男子のごとくBダッシュで走りたくなる。もう、恥ずかしすぎてその場におれないのだ。
だけれども見せパン(いわゆるパンツをわざと見せるファッション)を見ても恥ずかしくないし、お風呂屋さんでパンツ一丁のひとを見ても恥ずかしくない。
すなわち、パンツを見たからといっていつでも中二男子になるわけではない。
パンチラだから恥ずかしいのだ。
パンチラだからマリオ顔負けなのだ。
この違いはなんだろうか?
…パンツが見えているという現象は、パンチラでも見せパンでも変わりない。
しかし、そこにある意識があきらかに違う。
パンチラは、本来見せるつもりのないものであり、突風や傾斜が味方してくれない限り見ることができないものだ。
すなわちパンチラは偶然の産物、想定の範囲外、タイミングの神様が中二男子にくれた贈り物なのである。
私の中で、街で見かける建物とパンチラは密接につながっている。
なぜなら、街歩きしていると必ず見つける「剥き出しの壁」に、どうしてもパンチラを連想してしまうからだ。
「壁①」 (羞恥レベル☆) |
「壁②」 (羞恥レベル☆☆) |
「壁③」 (羞恥レベル☆☆☆) |
壁①は、恥ずかしさと不思議さが並行している珍しいパターンだ。あの扉を空けたひとは、目の前に突如現れた全く支えのない空間に何を思うのだろうか。私ならきっとユーミンの「天国のドア」を口ずさむ。そして急降下…危ない危ない。
壁②は、隣との距離を考えて取り付られた(物干し竿の)支えの短さが控えめでキュートだ。本来見られることのなかった洗濯物があらわになり、「きゃ!見えちゃった」的なポップな恥ずかしさがある。
そして壁③。
これが一番恥ずかしいパターンだ。
ちょびっと出たカーテン。全体的に申し訳なさそうな配色。長年隠されていたからこその染み。もうこれは猥褻に通じる恥ずかしさがある。
本来見せるつもりがなかったものがあらわになっている剥き出しの壁。
そんな壁を見つける度、パンチラを連想しながら街歩きするのもなかなか面白いですよ。
金益見(きむ・いっきょん) 人間文化学博士。大学講師。 2008年『ラブホテル進化論 (文春新書) 』でデビュー。同年、第18回橋本峰雄賞受賞。 |
タイトルもストーリーも思い出せないのに、かつて観た映画が断片的に脳裏に蘇るという経験はないだろうか。世に星の数ほどの映画あれど、そういうインパクトを観客の意識下に刷りこむ映像を備えた作品は、どちらかというと少数派に属する。3月6日から全国公開されている『ハートロッカー』(2008年、キャスリン・ヒグロー)は、そういう映画だ。
2004年、バグダッド。遠隔操作や時限装置が施された爆弾や人間爆弾の爆破を阻止しようと命をかけて奮闘する米軍爆発物処理班を描いたこの作品を観終えた直後から、それこそ散り散りに破裂してそこかしこに突き刺さる爆弾の欠片のように、僕の頭には複数のイメージがこびりついてしまった。
カメラは基本的に米軍の側に寄り添うものの、時に第三者的な(あるいは非人称的な)視線が差し挟まれ、稀に爆弾を仕掛ける側と思しきものも紛れ込む。こうした複数の視点の割合から、僕達はその多数を占める米軍に感情移入することになるのだけれど、そのぶん彼ら以外の眼で街を観るときにドキリとさせられる。
例えば、恐れを知らない主人公のジェームズ二等軍曹が、安全対策を無視して爆弾処理に向かう序盤の場面。宇宙服さながらの防護服姿で閑散とした通りをゆっくりと歩く彼を、カメラは地面と平行に捉え続ける。ふいに画面が鳥瞰となり、付近のバルコニーの柵越しにカメラは予想外に彼を見下ろす。微妙に揺れるその映像は、米軍とは異なる立場からジェームズを見つめる「敵」がその場に居合わせていることを示唆し、観客に比類なき恐怖を味わわせる。
また、戦場を日常として暮らす市民の中に登場する二匹のやせ細った野良猫(しかも一匹は前脚を痛めている)の姿も、わずか数秒ながら、バグダッドの痛ましい現状を如実に伝える。
概ね三種類の視線を絶妙な割合で調合した女性監督ヒグローの仕事は一見に値する。僕はこうした映像を一種の傷としてこれからも記憶に留めていくに違いない。
(C) 2008 HURT LOCKER, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. |
野村雅夫(のむら・まさお) ラジオDJ、翻訳家 1978年、イタリア、トリノ生まれ、滋賀育ち。 イタリアの知られざる映画・演劇・文学を紹介する団体「大阪ドーナッツクラブ」代表を務める。 FM802でDJとして番組を担当。 |
事務所に着くなり「客が来るから着替えて」とエミから紙袋を手渡された浩太は、反論する暇もなく、あいている部屋に蹴り入れられた。一応社会人らしい格好をしてきているというのに、問答無用で着替えろだなんてひどすぎる。ぶつぶつ言いながら袋の中身を取り出した浩太は絶句した。シルクの派手なシャツに、黒のレザーパンツ、薄い紫色のサングラス? なんだこれ。
着替え終わった浩太を見るなり、エミもリカもげらげら笑った。
「意外に似合う」
「やだー、うさんくさいー」
着たくて着ているわけじゃないのに、ひどい言い様だ。
「今日の接客は新人にやってもらうから」
と、エミが言った。はあ、この格好で?
「そう。こういう俺様アーティストみたいなタイプがよく効くのよ、今から来る客にはね。大丈夫、面談は全てこちらでモニターしてリアルタイムで指示出すし、相手が喋りだしたら、なるほどね、とあいづち打って、いつものあんたのずうずうしい態度でふんぞり返ってればいいから」
「一体どういう客なんですか」
浩太がたずねると、エミがにやりと不敵に笑った。
「金はいくらでも出すからお前の好きな部屋を選んでといいと言われて不動産屋に来る若き社長夫人、高村瑞江、三十四歳。業者は当然、滅多にない上客だと思って、とっておきの物件を紹介する。わがままにも付き合う。なのに、引っ越して数ヶ月も経てば気に入らないと言い出し、再びまた物件探し。空っぽの部屋じゃイメージ沸かないなんて言って、モデルルームの家具をそのまま一式買い上げてそのまま住んだこともあるし、不動産屋の社員の部屋を参考に見せたら気に入って、その社員を追い出して住んだこともあるわ。でも、数ヶ月くらいしたら飽きた、気に入らないといって不動産屋に現れる」
「金は払うんでしょう? そのたびに仲介料ももらえるし、引越し屋も潤うし、別にいいんじゃないですか」
浩太がのんきな口調で言ったとたん、エミに襟首をつかまれた。
「あんたは部屋の気持が分かってない。愛してくれていた部屋主を強引に奪われたあげく、愛情のない新しい主に陵辱されまくり、飽きたらぽいっと捨てられるのよ。どれだけの部屋が深く傷ついて涙を流していることか。金積めばいいってもんじゃないのよ。思い知らせてやるわ」
「同業者たちがみんな手を焼いてて、それでうちに回ってきたわけ。エミさんなら何とかするだろうって」
リカが淡々と付け加えた。
外で車の音がした。客が来たらしい。
「今日はこれを使って」とエミが差し出した名刺を見ると、ハウスソムリエという肩書きのあとの(新人)という記述は消えている。しかも、名前の下には、一級建築士、宅地建物取引主任者、インテリアコーディネーター、照明コンサルタント、カラーコーディネーター、シックハウス診断士…などの無数の資格が印刷されている。
「詐欺じゃないですか」
「こういうのは多いほどいいのよ。大丈夫、相手は満足しさえすれば訴えたりしないから」
満足しなかったら? という浩太の問いは無視された。バタンと車のドアが閉まる音がして、派手な格好をした女が一人で入ってくる。
「ようこそ、お待ちしておりました、高村様」
エミが事務員のような口調で出迎えるので、「高村様」の視線は自然に、中央でふんぞり返っている浩太に移動する。
「初めまして、浅野と申します」
浩太は、覚悟を決めて、悠然と微笑んだ。詐欺だらけの名刺を渡すと、「さあ、どうぞこちらへ」と、瑞江を案内する。ちらりと目があったエミが、上出来というように微笑んで見せた。
当然だ、と浩太は小さくためいきをつく。
だって、俺の本職、詐欺師だもん。
(続く)
寒竹泉美(かんちく・いずみ) 小説家 1979年岡山生まれ。小説家。 2009年第7回講談社Birth最終通過。「月野さんのギター (講談社Birth) 」にてデビュー。 ウェブサイト「作家のたまご」 |