きむいっきょん ラブ!なこの世で街歩きスウィーツ天国!中之島 |
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野村雅夫式「映画構造計画書」誰もが、いや、すべてが主役になりうる ~はじめに~ |
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【連載小説】 ハウスソムリエ 寒竹泉美ようこそ巻貝不動産に |
(聞き手・進行 牧尾晴喜)
ノスタルジックかつカラフルな作風で人気のイラストレーター、中村佑介氏。独特のファンタジックな設定の着想と緻密な描写が評価を受けている。大阪を活動拠点にしながら日本全国をとびまわる彼に、イラストの世界観における建築や原風景、創作の姿勢をうかがった。
------まずは、イラストの背景や物語性といった原風景についてうかがいます。下町もあれば高層ビルも出てきますが、こういった風景はどのように着想されるんでしょうか?
中村: 風景のイメージは、住んでいる街がベースになることが多いですね。学生の頃は、必然的に、大阪芸術大学があった貴志や富田林周辺の路地や下町の風景が多いです。イラストの背景にビルが多くなるのは、大阪の阿倍野に移ってからですね。
------建物の描写が緻密ですよね。
中村: 父が建築家なので、その関係で、小中学生のころから遊びで製図を手伝ったりしていました。ですから、なんとなく「住める感じ」というか、たとえば床板の目地も意識していたり、構造なんかも考えていますね。もうひとついえば、そういう建物の細部もふくめたリアリティが、ファンタジックな動物が登場する設定といい対比になりますし。どこかにリアルな部分がないと、空想で終わってしまいますからね。
------動物といえば、身近なイヌやネコだけでなく、ゾウやペンギン、さらには、ペガサスや巨大化した昆虫や魚など、空想のものも色々とでてきます。絵のテーマに合わせて「選び分け」されているんでしょうか?
中村: なんとなく感覚的なものでしたが、いまそう聞かれて改めて考えてみると、選び分けているかもしれませんね。イヌやネコなんかだと小物あるいは小道具のような扱いで、たとえば巨大化した動物のように非現実的な設定や大きさのものは、存在感のある主役になっている気がします。「人間が入っている」とでもいいますか。
------風景として乗り物も出てきますが、自動車はあまり出てきませんね。これも物語性に合わせているんでしょうか?
中村: いえ、実は、自動車の免許をもっていないからなんです(笑)。だから必然的に、車の物語はうかばない。電車が多くなりますね。やはり、自分の手が触れているものというか、自分の世界からしかイメージは出てこないですから。
------こどもの頃の環境と今のお仕事の関係は?
中村: 両親がデザイン関係の仕事をしている環境だったので、それが普通というか、漠然と「将来は絵を描く仕事をするんだろうな」と思っていました。早く仕事をしたかったですね。高校の時点では実力不足だと感じて、芸大まで進みました。
------月並みな質問ですが、空想好きでしたか?
中村: そうですね。外で遊ぶよりも、一人でキン肉マン消しゴムを2体並べて眺めたりして遊んでました(笑)。もちろん消しゴムは動かないですけど、頭の中では動いているんです。「これがこうだったら」みたいに空想して遊ぶんです。いまも、たとえば映画やテレビを観ていても不満というか、物足りないときがあって。日常生活でも「現実とちがって、こうだったら面白いのにな」とか色々考えますね。
------ブログ「僕のアベノライフ」でも長い嘘をつくときがありますよね、何行か読ませておいて「…というのはウソだけれど、…」とか(笑)。
中村: そうですね(笑)。イラストのファンタジックな世界観も、そういう空想の延長線上にある感じです。
------今後の活動などについて教えてください。
1月26日から、東京では初めての個展を吉祥寺で開催します。グッズも作るので楽しみなんです。
4月には、キャラクター・デザインを担当したアニメ『四畳半神話体系』もスタートします(原作:森見登美彦、監督:湯浅政明)。
将来的には、子どもをターゲットにしたアニメや絵本なんかにも興味がありますね。それこそ、10年先とかかもしれませんが。
2009年11月13日 京都にて
ASIAN KUNG-FU GENERATION ワールド ワールド ワールド |
森見登美彦 夜は短し歩けよ乙女 角川書店 |
中村佑介(なかむらゆうすけ) プロフィール 1978年宝塚生まれ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONや数多くのアーティストのCDジャケットや、赤川次郎、石田衣良、森見登美彦などの書籍カバーを数多く手がけている。エッセイ、S▲ILS(セイルズ)としてのバンド活動、インターネットラジオなど、表現の幅は広い。2009年8月、200ページ以上に及ぶ10年間のイラストの軌跡を収めた待望の初作品集『Blue』を飛鳥新社より発売。現在も大阪在住。 |
Blue-中村佑介画集
価格:3,800円(税別) 飛鳥新社 |
おお!この世ラブ!
世界ってなんて美しくてなんて汚い!
そんなきれいで汚いものをおおらかに成立させているこの世ってすごい!
いろんな時が積み重なって今のこの世ができた。
いろんな思いが積み重なっておのれができた。
先人に感謝。
先モノ(人でないもの全部)に感謝。
いいことばかりでもないこの世。勿論、悪いことばかりでもない。
矛盾を行き来するのは本当は面白いことなんだと、山あり谷ありの出来事で実践的に教えてくれるこの世は、なんて親切なんだろう。
私が一番好きなことは、この世を生きることだ。
生きることが好き。
生きていると感じることが好き。
当たり前だけど、生きていると感じる瞬間はひとによって違う。
掌を太陽に透かしてみればわかるひと、モノトーンの世界で赤い血が流れるのを見て実感するひともいる。
お腹がすいた時または便意をもよおした時、生まれた瞬間やつながった瞬間に実感するひともいると思う。
私が生きていると感じる時、それは何かを見つけた時だ。
すごいひと、すごい風景、すごい本。
ラブホテルではじめて回転ベッドを見つけた時も、生きている喜びを感じた瞬間だった(『ラブホテル進化論』参照)。
見つけるものは、時に目に見えないものだったりする。
恋。メロディ。躍動感。やる気。
見つけるものは、それがそのものとして認識されていない場合もある。
食べれるんじゃないかと思う入道雲(入道雲は食品としては認識されていない)、ピザや鍋を囲んだ時に感じるクリスマスみたいな(でも春先だったりする)瞬間。
私はこの世の「すごい!」や素敵を見つける度、何度か捨てようとした(または捨てた)この世をゴミ箱から取り出して「この世も捨てたもんじゃないな~」と思う(毎日この世ラブ!なわけでなく、捨てたり拾ったりしながらのラブ感だからこそ、説得力があると自負)。
そんな私が本コラムでお届けするのは、ラブ!なこの世で街歩きした時に見つけたものである。
ここでは、そのものとして認識されていないけれど見つけたことでこの世のラブ感がアップしたものを紹介していこうと思う(見えるものや見えないものについてはまた別の機会に)。
見つけて切り取って名前をつけた瞬間、そこにあるものが素敵なものとなって立ちあがる…そんな実感がこのコラムから染み渡ったらいいなあと思う。
スウィーツって、人間の食べ物じゃない気がするのは私だけだろうか。
なんてったって甘い。
名前のまんまだが、スウィーツって甘いのだ。
世知辛い毎日のなかで、確実にどんな時でも私を甘やかしてくれるのはスウィーツだけだ。
食べる前の高揚感。食べてる時の「うぅん…」(言葉にできずに唸っている)。その上疲れも取ってくれるなんて信じられない!
まるで魔法のような力を持っているスウィーツ。
そんなスウィーツが大阪中之島に巨大な形で存在しているのはご存じだろうか?
まさに「スウィーツ天国!中之島」なのである。
「巨大キャラメル」 | 「巨大ワッフル」 | 「巨大ポッキー(※贅沢バージョン)」 ※普通のポッキーよりちょっと高めの、 ナッツやらチョコやらがぐるぐると付いてるポッキー |
他にも中央公会堂や中之島図書館は高級洋菓子のパッケージに出てきそうな建物なので要チェックだ。
ちなみに目でスウィーツを満喫した後は、「北浜レトロ」で胃袋を満たすというコースがお勧めです。
金益見(きむ・いっきょん) 人間文化学博士。大学講師。 2008年『ラブホテル進化論 (文春新書) 』でデビュー。同年、第18回橋本峰雄賞受賞。 |
学芸出版社のサイト内で異彩を放つこのスタジオOJMMのコラム連載を、今年も担当させてもらうことになった。はじめましての方はもちろん、僕の名を見て「また君か…」と舌打ちをしたあなたも、懲りずに1年間よろしくどうぞ。
野村雅夫式「映画構造計算書」なんて題だから、賢明な読者の皆さんなら、おおよそのところは想像がつくとは思うけれど、なにぶんのっけ(・・・)なので、まずは枠組みをつまびらかにしておきたい。
毎月1本の映画作品を俎上に載せる。ただし、このコラムにおいては、主役は俳優とは限らない。いつも念頭に置くのは、映画的な空間のあり方である。その中にあるものなら、すべては等価。名優だろうがエキストラだろうが、万年筆だろうが網戸だろうが、とにかく一切合財をいったん同一線上に並べてしまうことから話は始まると考えていただきたい。
では、ここで言う映画的な空間とは何か? 普通なら、目に見える(つまりはスクリーンに映っている)画面内の空間でありそうなものだが、野村雅夫式では、往々にして目に見えない(つまりはスクリーンには映っていない)画面外の空間にも目を向けていくことになる。目に見えないものにも目を向ける。なんだか禅問答のようだが、意識しているか否かは別として、実は映画を観賞する際には誰しも平然とやってのけていることだったりするのだ(役者の顔のクロースアップを見て、首から下がないぞと慌てる人はいない)。
映画には総合芸術という別称もある。90分程度の映像でも、構成している部品をひとつひとつバラしてみれば(もちろん比喩的に)、よくもまあこんなにたくさんあるものだと驚かされる。その中から、僕なりの視点で選んだ要素にスポットを照射し、それ(ら)を主役にすげかえて作品を観なおしてみたい。印象ががらりと変わることもあるやもしれない。なにしろ行うのは映画の構造計算なのだから。
野村雅夫(のむら・まさお) ラジオDJ、翻訳家 1978年、イタリア、トリノ生まれ、滋賀育ち。 イタリアの知られざる映画・演劇・文学を紹介する団体「大阪ドーナッツクラブ」代表を務める。 FM802でDJとして番組を担当。 |
巻貝不動産に今日も来客の気配なし。
大体、巻貝ってマチガイみたいな名前だし、事務所は外から見たらぐるぐる巻いた妙な構造をしているし、まともな神経をしたやつなら、ここに自分の財産を託して家やら土地やら紹介してもらおうとは思わないだろう、と浅野浩太は考えていた。
が、所詮雇われの身、来客があろうがなかろうが俺の知ったことではない。
むしろ、ないほうがいい。今、大事なところなのだ。
マウスをクリックして売り注文を出す。よし。浩太の頭の中で素早く数字が差し引きされ、脳内の通帳に利益分が付加される。
「あのさ、新人君」
急に話しかけられて、慌てて株取引画面を閉じる。しかし、業務中に取引をしていた後ろめたさも吹き飛ぶくらい、話しかけた巻貝リカからは、やる気がまったく感じられない。
「路上暮らしってどんな感じ? 大変だった?」
「路上じゃないです。ちゃんと屋根のあるところで暮らしてましたよ」
むっとして、浩太は饒舌になる。
「俺って別に家とかこだわりないんですよね。電気と屋根さえあって、パソコンできればどこでもいいっていうか。住むところ決めちゃうと固定される感じがまた嫌で。やっぱ、誰にも縛られない自由人でいたいから」
「不法侵入、電気泥棒のくせに、偉そうに」
振り返ると、この事務所の所長、巻貝エミが立っていた。ちなみに彼女は、巻貝リカの姉である。
「廃墟同然だった古い公共施設を改装しようって話になって、幽霊が出るって大騒ぎになって、それで出向いて見たら、こいつがいたってわけ。しかもずうずうしく電気盗んでパソコンしながら結構くつろいでてさ」
「そんなにお金に困ってるの?」
リカの質問に、浩太は曖昧に笑って誤魔化した。マンションの部屋ひとつ買えるくらいに金はあるが、住居に金を使うなんてもったない。ネットカフェでもビジネスホテルでもいいけれど、少しでも安く住めるところがあるならそれに越したことはなかったのだ。
「でもおかげさまで、今は快適に暮らしてますよ」
3LDKのマンションの部屋を一人で使ってるのだから、快適なのは当たり前だ。エミに拾われて、この事務所で働くことを条件に、住む場所も格安で提供してもらった。おまけに、仕事も暇で副業し放題。俺って何てついてるんだろう。世の中捨てたもんじゃないなあと浩太は思う。
「新人があの部屋で暮らしてくれて、わたしも嬉しいわ」
姉のエミがにっこりと笑う。ああ、本当に、なんていい人なんだ。神様だ。浩太もつられて微笑んだ。
「住人に突然逝かれて、部屋がとっても悲しんでたから」
「いかれてってどこに」
「天国に」
浩太は説明を求めてリカを見た。
「あの部屋で、一家四人が無理心中したのよ、一ヶ月前に」
なんだそれ。聞いてない。
「さぞかしつらかったと思うわ。だって、長年つれそったのに見てるだけで何もできなかったんだもの。わたしが駆けつけたときは、かなり傷ついてて、本当に口もきけないくらいだった。もう二度と立ち直れないかと思った」
言いながら浩太の目の前で、エミはさめざめと泣き始める。
「お姉ちゃんが今話してるのは、生き残った人の話とかじゃなくて、家の話だから」
リカが補足する。
「はあ」
「でも、新たに住人が住んでくれることで、少しずつ気力を取り戻してるみたい。しっかり愛してあげてね」
誰を、と浩太がつぶやくと、「家を」とリカが再び補足した。よく分からんが、まあいいや。浩太は曖昧にうなずいておく。とりあえず、俺は屋根があってネットが出来ればどこでもいい。
(続く)
寒竹泉美(かんちく・いずみ) 小説家 1979年岡山生まれ。小説家。 2009年第7回講談社Birth最終通過。「月野さんのギター (講談社Birth) 」にてデビュー。 |