本コラムも後半へ突入し、今回のテーマは「サード・プレイス」です。
現代都市での生活をより快適にするには、「サード・プレイス」が一つのキーワードだと言われます。つまり、ファースト・プレイス(家)、セカンド・プレイス(職場や学校)、そしてこの中間あるいはどこかに逡巡する「サード・プレイス」をいかに充実させるか、という話です。この、アメリカの社会学者によって名づけられた概念は、少し前からのカフェ・ブームを例に出すまでもなく、現代都市の一断面を標榜しているのではないでしょうか。
「サード・プレイスに最も近い」メンバーたち(本人たちの意識は別ですが)が、職能との関わりから綴るコラム、お楽しみください!
今月のテーマでサードプレイスという言葉を初めて知った。自分にとってどこにあたるだろうか。珈琲を入れることを仕事とするならば、R以外で仕事をすることはない。しかし、人と接すること、接して何かを感じ、また発することを仕事とするならば、サードプレイスとしてライブハウスを挙げてしまうだろう。
私は閉店後よくライブを観に行く。誰かのライブを観て何かを感じ、感じたことがまたRで放たれる。Rに居ることは日々の繰り返しなのだが、私にとっては毎日ライブをしているようなものだ。その日来てくれたお客さんに何かを伝えたくて、繋がりたくて、一日はその一瞬のためにあると思っている。
私が日々想うこと、伝えたいことを一杯の珈琲やオムライスの中に閉じ込めてお客さんの前に出す。Rにいる時間の中で少しでも何かを想ってもらえたとしたらこれほど嬉しいことはない。なので私にとってはライブハウスで誰かの奏でる音楽にふれて、心動かされる時間がとても大切なのだ。誰かの心を動かすために自分の心を動かされに行く。
先日もライブで日々の疲れで忘れかけてたとても大切なことを思い出した。次の日とてもいい顔のオムライスができた。
藤井 有美
カフェ
大阪・中崎町
R cafe
メガネヤをする前、大きなお店で働いていた頃に、よく行くお店がありました。女性モノの古着を扱うお店だったのですが、そこの店長さんは僕が行っても仲良くしていただき、行けば湯飲みに入ったワインが出てきて長居をしていました。なぜいつもワインなのかと聞けば、お客さんが飲んでくれると落ち着くのだと。店長としてお店にいると緊張するし、お客さんは知らない人が多いし、知らない人と話すのは緊張するので、お酒を飲むそうです。そんな店長さんと、店が出す雰囲気はなんとも言えず心地よいものでした。ただ残念ながら犬の世話が大事とのことでお店をやめてしまったのですが、僕にとって、このお店はサードプレイスだったのだと思います。
メガネヤも誰かにとっての、僕の古着屋さんの様な場所であれば良いのですが、どうなのでしょうか?
メガネヤは住空間とお店が離れないところにあるので僕のサードプレイスが今どこにあるのかわからないのですが、あまり多くのお客さんがくることの無いウチでは、お客さんが来ることで、このメガネヤが一瞬のうちにお客さんのものになってしまい、僕が緊張するということがあります。けれどこの緊張感は場合によっては楽しく、心地よくあります。そしてお客さんが帰った後には、またあんな場があったらいいなぁとよく思います。
どうも僕にとってはお客さんにいるメガネヤが僕の今のサードプレイスのようです。それはとても贅沢な話なのではとこのコラムを書いていて思いました(笑)
市川ヨウヘイ
古本屋
大阪・京橋
古本屋メガネヤ(地図)
サードプレイスの意味を、ちゃんと理解できているのかどうか、いまひとつ不安だ。日本を離れてはや3年。すっかり日本の話題から遠ざかってしまった感がある。昨夏の一時帰国時には、父親から「ハンカチ王子」とは何者か、教えてもらったくらいだから。
さて、マラウイにはマラウイ湖と呼ばれる大きな湖があり、美しい景観とともにマラウイ人の自慢のひとつだ。だからなのだろうか?なぜかある程度以上大きな会議になると、必ず湖畔のロッジにある貸し会議室で会議を催す。こう聞くと、大変優雅なものを想像されるかもしれない。が、現実は、首都リロングウェから片道5時間かけてたどり着き、水辺に近いため湿度が大変高い(もちろん、日本の夏とは比較にならないが)。首都リロングウェは比較的過ごしやすい気候のため、この湿度にまずやられる。そして、一日ずーっと会議室にカンヅメ状態で、湖で泳げるわけでもない!おあずけをくらった犬状態で、涼しげに打ち寄せる波の音を聞きながら、湿度の高い会議室で、汗を流しながら会議に臨む。ぜひ一度、マラウイ人たちに聞いてみたい。なぜ泳げないのに、湿度が高いのに、遠いのに、湖畔で会議をするんですか??
ザンビアのカリバ湖
西口 三千恵
国際協力
ザンビア/徳島
NPO法人TICO
コミュニティ放送局で働くようになってから、放送局とインターネットラジオの仕事に追われる毎日。もし仕事にやりがいを感じていなければ、現実逃避に出会い系サイトへでも走っていてもおかしくない状況だ。
コミュニティ放送局とは、その名の通り小さな行政地域の中で放送を行っているメディアである。今の職場は、関西国際空港のすぐ側である大阪府貝塚市を中心とする3市(泉州)が主なエリアの放送局だ。このエリアには、「誰からも占領されたことの無い土地」という歴史があり、「だんじり」や「太鼓台」を代表とする祭りのためだけに一年が動いているのではないかと圧倒されるような活気ある文化を持つ。また、取材や営業活動を通して知り合える人々の魅力はたまらない。私は素直にこの町が好きなのだと思う。生まれたわけでも、学生時代を過ごしたわけでもなく、ただ職場として数年を過ごしている町ではあるが、興味を引く素材が溢れている。
ラジオを通して語りかける町の人たちが好きで、町の歴史や文化が好きで、素直にその思いを言葉にして、歩いて、触れて、笑って、時には飲んだくれて。いつも私に居場所を与えてくれる、町のすべてに感謝したい。
太鼓台
中村 謙太郎
インターネットラジオ
大阪・新世界
インターネットラジオ
Good-AIR !
今は自宅に仕事部屋を作ってほとんどの仕事はそこでしているので、ファーストプレイスとセカンドが隣接している、というよりほぼひとつしかない。そんなわけでよく煮詰りがちだ。時々仕事を持って近所のカフェに行ってみたりするけれど、はかどったためしがない。そもそも自分の手で文字を書くことがすっかり苦手になっているのか、パソコンを前にしたときより仕事の能率が著しく落ちてしまう。
そんなときのために最適で、むしろそのために用意されているとも言えるのが、所属している「208南森町」という場所だ。「アーティストのためのワークスペース」との名のとおり机もスペースも十分に余裕があり、MacやプリンタやFaxなどの機器も一通り揃っている。
なのに私はここで仕事がはかどったことは一度もない。誰かが置いて行った面白そうな本やDVDやゲームが転がっていたり、ふらりとメンバーやお客さんがやってきたり、気がつくと誰かと一緒に飲んだり食べたりで深夜まで楽しく過ごして、結局仕事量はゼロという羽目になる。これをサードプレイスと読んでいいのかどうかわからないが、気分のリフレッシュができる場所を持っているのは幸せだ。
山本真実
ローカリゼーション
大阪・南森町
クリエーター自主運営
ワークルーム208
大阪ドーナッツクラブ構成員のサードプレイスは見事に共通している。察しのいい読者ならこれだけでお気づきか。そう、ドーナッツ屋である。あの菓子は自宅の厨房でこしらえるものではない。揚げるのが面倒だし、これは私だけかもしれないが、あんじょういった試しがない。かくしてドーナッツ好きは町のドーナッツ・ショップへと赴く。形而上学的な穴を備えたあの摩訶不思議な甘味を琥珀色した飲み物と合わせて平日の昼下がりを味わい深いものにするのがメンバーも一様に好みらしく、私が原動機付き自転車を駆って贔屓のショップへえっちら足を向けると、そこでメンバーと邂逅したという経験が幾度かある。ある仲間は言う。「翻訳に行き詰まるとさ、ドーナッツの穴越しに原稿を覗けばぴたりの言葉が見えてくるんだ」。話の真偽はともかく、適度なグルコースが脳内を一新してくれることは間違いあるまい。
さて、我々にはそれぞれドーナッツ名がある。クルーラー、シナモン、オールドファッション、ハムエッグ、チュロス…。結成後、お店で注文時に迷うことが多くなった。ショーケースの中にメンバーの顔がチラつくからである。まさかこんな弊害が生まれるとは夢にも思わなんだ。
穴の向こうを見据える筆者
野村雅夫
イタリアの文化紹介
大阪/ローマ
大阪ドーナッツクラブ
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