2007年度 第5回 失敗のマニュアル 〜各職能における試行錯誤〜

コラム第5回のテーマは、『失敗のマニュアル』です。

「失敗」と「成功」を峻別することは難しく、非常に主観的なものです。ただ、新しい何かのために試行錯誤をすれば、「失敗」が増えることは確実でしょう。現代の都市で生活し、職能活動を行っていくとなれば、失敗を気にせず突き進むことが重要です。
ただし、事前学習で避けられる失敗は、少ない方がよいのも事実です。通常、「マニュアル」というと「成功」するためのものですが、ここでは敢えて「失敗」に関するエピソードを集めてみました。

今回のコラムも、各職能に隠棲する「失敗」に纏わるエトセトラを共有し、そして笑い飛ばしながら、お楽しみください!

スタジオOJMM (設計・研究・翻訳)
代表 牧尾晴喜




 燦燦と 夏の陽射しのように

私は四年と少しRcafeに居るが、失敗したことがない。こう言うと驚かれるかもしれないが(私を知る人には嘘をつくなとつっこまれるかもしれないが)、これが失敗しないコツだと私は考えている。
すべてにおいて言えることだが、視野を狭くすると失敗してしまう。というより、失敗したと捉えられることが増えることで、成功の芽まで摘んでしまうことが本当の失敗ではないかと思う。
例えば時間について。モーニングを始めたが朝のお客さんは増えず、一週間暇なままだった。一ヶ月しても変わらない。やっぱりモーニングを始めたのは間違いだった、やめよう。これが失敗の元である。そんなにすぐにはあらわれない。もしかしたら三年後の朝は大忙しかもしれない。さらにモーニングの影響が他の時間帯に出るかもしれない。朝から開いているという事は、ランチのお客さんがオープンの時間で不安にならないという事だ。
人についても場所についても同じことがいえる。鳥の眼になって広い範囲をみることを、私はいつも心掛けている。そうすると、大概の失敗が失敗でなくなる。ただし、自分の位置を常に認識していることが重要だ。
そんなわけで、私は失敗したことがないのだ。これから先も変わらないだろう。

 

 

藤井 有美
カフェ
大阪・中崎町
R cafe



 値札はあるんですけどね。

メガネヤの本棚にある本には、値札がついていません。欲しい本を見つけたら、値段を聞いてもらうという事になっています。その方がお客さんとコミュニケーションが取れるからというのもあるんですが、先に棚に本を並べてからメガネヤになっていった(変な話ですがそうなんです)ので、棚にならんでいる膨大な(いうても知れてますが)本にワザワザ値札をつける作業がめんどくさった! 値札が無くても、その本の売値はブレないでいつも同じ値段になる自信はあるんで、大丈夫だと思っていたんです。
ただやってみると、お客さんには迷惑な話なんで困るひともいるのですが、それよりも僕がお客さんを目の前にして値段を言う時にいつも少し安い値段を言うというのがわかりました。これは、ここまで来てくれたとか、この本欲しいんやとか色々思ってしまうと、どうしても安い値段を言ってしまう様。それでもお客さんには安くなってる事はわからないですから、値段の折り合いがつかずまた今度となると、本当に値段
をつけなかったのを後悔する事があります。でも、このやりとりを好んでメガネヤに来てくれる方もいるので、失敗とは言いきれませんがオススメじゃないですね(笑)

 

 

市川ヨウヘイ
古本屋
大阪・京橋
古本屋メガネヤ(地図)




ザンビアの母子

 自分はよそ者だということを忘れない

国際協力の現場では、失敗話は枚挙に暇がない。その中でも私がいつも悩むことは、援助する側の人間は、どの程度まで相手の状況を理解できるのだろうか?ということ。
アフリカの田舎で、2時間もデコボコ道を入った小さな村に住み込み、地元の食材を食べ、彼らの言葉を話していると、無意識のうちに「ここでの生活については何でも知っている」という気持ちになってくるかもしれない。でも、本当にそうだろうか?その小さな村で生まれ、弟妹が5人もいて、小学校5年生のときに父親がエイズで死んでしまい、母親を助けるために学校に行かず、すでに同じくエイズを発症している母親が死んでしまった後はどうやって幼い弟妹たちと暮らしていけばいいのかと不安でいっぱいの少女の気持ちを、その気になればいつでも日本などのいわゆる「先進国」に帰れる人間にどこまで理解できるだろうか?
表面的に地元の人と同じように暮らしているつもりでも、自分が見ているのは、彼らの現実のほんの一部でしかないことを謙虚に認め、それでもなおかつできる限りの理解への努力をすること。その気持ちを忘れると、いつのまにかひとりよがりの押し付けがましい「国際協力」に陥ってしまう。

 

 

西口 三千恵
国際協力
ザンビア/徳島
NPO法人TICO


 どこまで配慮できるか?!

その日は、海水浴客で賑う海辺で公開生放送が行われていた。スタッフの僕は、休憩時間にジュースを飲んでいたところ、突然ディレクターに呼び出されてぶっ飛ばされた。僕はとんでもないミスを犯していたのだ。実は、その放送のスポンサーは某飲料メーカーで、僕が飲んでいたのは他社製品だった。殴られていなければ、スポンサーの前でスタッフTシャツを着たまま他社製品を飲んでいたことだろう。営業マンならば心得ていて当然の事だが、特に放送の世界では配慮することが最も重要で難しい事だと気付き始めた瞬間である。
スポンサー企業は地域社会と密接しているから、社会への配慮も必要であるし、公共放送という面では、モラル低下を防ぐ役割や、教育への影響力も持っている。聴く人全てに何処まで配慮出来るか?簡単な言葉1つとっても、その配慮を怠ることは許されない。あるDJの一言に心を痛めて命を絶った人がいるのを、僕は知っている。果たして僕の放送はリスナーを傷つけていないだろうか?今の日本の放送はそんな配慮が出来ているだろうか?どうも僕は危機感を覚えてならない。

 

 

中村 謙太郎
インターネットラジオ
大阪・新世界
インターネットラジオGood-AIR !



 失敗の、その後のマニュアル

翻訳における失敗、それは誤訳。幸い自分で誤訳問題を起こしたことはないが、ロンドンの翻訳会社に勤務していたときに、クライアントに出向いて必死で弁明したことがあった。わが社が納品した旅行会社の営業用資料で、「Korean」が「朝鮮語」と訳されていたのだった。レジャー用の資料なのにこれはまずい。プロジェクトを担当した広告代理店に呼び出された上司は、日本語に関する説明の担当として私を同行した。
「間違ってました、スイマセン」ではかえって相手に失礼である、というのが上司のポリシーだったので、私たちはそこで、いかに「韓国語」という呼び名が便宜的なものであり、今回の訳も厳密には間違いではないのだという主張を、NHKの語学講座のタイトルまで引き合いに出して熱く語ったのだった。上司のポリシーには賛同するものの、私は内心、今回の翻訳の使用目的から言ったらこれは完璧に間違いだよなあと思っていたのではあるが。
この誤訳問題の原因は、担当した在英数十年のベテラン翻訳者が日本の情勢や常識に少し疎くなっていたせいかと思う。これを失敗のマニュアルとして肝に銘じつつ、上司の見せた「失敗のその後のマニュアル」も強く心に残ったのだった。

 

 

山本真実
ローカリゼーション
大阪・南森町
クリエーター自主運営 ワークルーム208




 反省が急務の筆者

 失敗は更なる失敗の母

「失敗は成功の母」という有名な諺がある。この激励の呪文は反省する人間には極めて有効に作用する一方で、反省せざる者にはむしろ有害であるということは意外と知られていない。「この程度の失敗なら許されるんだ」と相手につけあがる隙を与えてしまうからだ。かく言う筆者であるが、私なら彼を後者に分類する。時間が絡めば尚更だ。伊文化人を日本へ紹介する業務の性格上、所謂大物と邂逅することもある。ローマ滞在中、幾度かそのような事態に出くわした。出発前ともなると、緊張の余り会話の予行演習に余念がない。ふと気がつくと、出発時刻を過ぎている。脳内騒然。もはや地下鉄では間に合わないと車に飛び乗る。渋滞に巻き込まれる。遅刻である。まぁ、これもイタリアでならまだ傷は浅く済む。約束した相手も遅れて登場することがほぼ必定だからである。しかし、この極東の規律を重んじる文化圏においてはそうはいくまい。失敗は雪だるま式に膨らんで更なる失敗を生み、それに呼応して萎み行く信頼は、我々の活動を根底から突き崩すだろう。筆者には今こそ深い反省と自責の念が必要であると私は思う。彼は一日も早く帰国せねばならない。肉体的にではなく、精神的に。

 

野村雅夫
イタリアの文化紹介
大阪/ローマ
大阪ドーナッツクラブ


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ブックカフェ ワイルドバンチ
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CAFEマーボロ (住所:大阪市旭区千林2-14-9 TEL: 090-5645-2182)

R cafe
古本屋メガネヤ
大阪ドーナッツクラブ




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