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スタジオOJMMが企画編集する連載コラム、7年目となる2009年は、「建築ノオト2009」(全12回)。

第6回、6月号の内容は

豊田高専建築学科助教、加藤悠介の「学寮での成長と環境」
カフェオーナー、浅海恵美子/白滝素子の「夢のような仕事場」
大阪ドーナッツクラブ代表、野村雅夫の「映画ファンも唸る抜きんでた企画力 ~京都みなみ会館~」
建築家、南野優子の「空間の音」

4人の執筆者が、それぞれ違った視座から建築周辺の話題を綴るコラム、お楽しみください!

学寮の外観。収容施設的な雰囲気があるが、学生の生き生きとした声が聞こえる。

加藤悠介

豊田高専建築学科助教
愛知県豊田市
加藤(悠)研究室
豊田工業高等専門学校 建築学科

学寮での成長と環境

 高専には普通、学寮が付属している。規模としては大小様々あるが、豊田高専の学寮は500人以上の学生を受け入れており、かなり大きい方である。学寮の生活は、テンションの高い10代にとっては修学旅行の雰囲気を毎日味わえる魅力的な空間であるようで(本来なら勉学に励んでほしいのだが)、1・2年生はほぼ全員が入寮し、高学年でも入寮待ちが途切れないほど人気がある。
 さて、楽しい寮生活といってもそこは共同生活である。昔ほど先輩・後輩の上下関係は強くないらしいが、それでも毎朝の体操があったり、食事時間が決められていたりと、学生はこれまで育った家庭とは違うルールに身を置き、成長を促されることになる。15歳で家庭から環境移行し、成長していくプロセスが間近でみられるので、建築計画を研究している身としては、ついのぞきたくなる。
 そこで、学寮の居室(2人部屋)の使われ方を調べてみた。すると、入寮時に用意される学習机とベッドの配置方法によって、居室での生活が随分違うことがわかった。具体的に言うと、2つの学習机が向かい合っていたり、横に並べられていたりすると、コミュニケーションが促進され、居室がしゃべり場になる。居場所にもなるので、ものが溢れている部屋も多い。逆に学習机が離れていると、文字通り机に向かうしかないので学習への意欲が上がる。また、ベッドが離れていると睡眠への満足度が高く、加えて、ぬいぐるみや写真などを持ち込むなどして、ベッド周りが個人的な趣味を反映した空間となる。
 このことから、成長に合わせた居室環境を考えられないだろうか。まずは、2つの学習机をくっつけて学寮(もしくは高専)への帰属意識を高め、次にベッドを離して個人の生活リズムとアイデンティティを確立しつつ、最後に学習机を離して学びを通じた自己実現へと結びつけるといったように。学生の成長は家具の配置によるところもあるのだ。

 

浅海恵美子/白滝素子

カフェオーナー、美術館のもぎり/お抱え料理人
大阪空堀
Books & Cafe LOW

夢のような仕事場

今回はカフェとは別の、私のもう一つの仕事のおはなしです。
よく私たちのことをご存知のお客様に、この店儲かってないんとちがう?と心配されます。言われてみればお店は毎日楽しいけど、ほんとにお金にはなってないなあ。そんな時、立派な経営者なら回転率を上げたり、経費の見直しなどシビアに努力をするのでしょうけど、お客様に珈琲でも飲みながらゆっくり本を読んでいただこうと始めた店ですので、それではLOWがLOWでは無くなってしまいます。 店を2年続けてわかったことは、好きなことを仕事にして利益を上げるのはとっても難しいということ。いつかこの課題を乗り越えないといけないけど、とりあえず・・・幸いLOWは私と素子さん二人でやっていて、店には3日ずつ出ればいいので、お互い残りの日に別の仕事をすることにしました。
それで今私のほうは美術館で改札の仕事をしているのですが、この美術館が安藤忠雄さんの設計で、海外からもファンが見学にくるという有名な建物だったのです。お給料を貰いながら安藤建築を堪能できるという、建築好きの私にとっては夢のような職場です。 さて、海に面して建てられたこの建物は、二階へ行けない大階段があったり、エレベーターがこっそり隠れていたりと迷路のよう。初めて来られた方など出口が分からなくなったり、自分がいま何階にいるのか怪しくなくなったり、まるでビックリハウスのようでもあります。
私の好きな常設展側のホールはドーンと3階までダイナミックな吹き抜けで、壁の美しいコンクリート打ちっ放し、細い鉄の縁と薄緑色のガラスで囲われた繊細な階段。そして不透明な天井を通した光のせいでしょうか、訪れる人も少ない時その静寂の中にいると、アンモナイトでも泳いで来そうで、水底に沈んでしまった建物の中にいるようにロマンティックな気分になってきます。 それにしても仕事に行けば必ずお金になる!って凄いことよね。
(浅海恵美子)

映画はお好き? JA!!(ヤー!!)

野村雅夫(MASAO)

大阪ドーナッツクラブ代表、
ラジオDJ
京都、ローマ
大阪ドーナッツクラブ

映画ファンも唸る抜きんでた企画力 ~京都みなみ会館~

 高さ55m。元祖京都タワー(?)の五重塔で有名な東寺。江戸初期の作風を今に伝える景観を横目に、門前の九条通りを東へ数分歩くと、突如目に飛び込んでくるのが、赤く塗られたシャッターに、白の巨大フォントで印字された“Mӧgen sie kino?”というドイツ語のフレーズ。「映画はお好き?」という意味だそうだが、それを知らなかった僕にしてみれば、文句なしにインパクトのある光景だった。おそらくは、おおかたの通行人にとっても。一目でそうとは気づかないやもしれないが、実はこの旧パチンコ店ラスベガスの2階で営業しているのが、僕もおきにのミニシアター・名画座の京都みなみ会館である。
 スクリーンこそひとつしかないけれど、座席の数は165もあり、ミニシアターとしては関西でも一番規模の大きな劇場ではないだろうか。シートもリニューアルされ、座り心地は抜群。そして、個性という点でも僕は関西でもかなりピカイチの映画館だと認識している。その理由は、多いときには1日に5作品もかけてしまうバラエティーと、頻繁に催されるテーマを持ったイベントの数々にある。白眉は、覆面上映。4本立て、入れ替えなしのオールナイトで、作品は観てのお楽しみ。こんな映画版福袋みたいな編成、他にいったいどこのシネマで楽しめるだろうか(反語)? こうした奇抜なイベントが興業として成立するのは、やはり観客のみなみ会館への高い信頼があるからこそだろう。言わば、映画のコンシェルジュ。上映企画を担当されている支配人の佐藤英明氏の豊富な知識と鋭敏な眼力には、まったくもって感服せざるをえない。僕は今の日本に適った名画座のあり方をこの映画館に見ているぐらいで、同じ街に住んでいることを誇りにすら思う。最後に珍しく断言しよう。月に一度はみなみ会館へ行きなさい。
 ちなみに、大津の滋賀会館シネマホールと千里中央のセルシーシアターも同じ系列で、どちらも僕には思い出深い、素敵な劇場だ。お近くでぜひ。

さわさわ音をたてる葉っぱ

南野優子

建築家(設計事務所勤務)
大阪

空間の音

 そよ風に揺すられた葉っぱがたてるさわさわとした音。体に触れる風そのものや木漏れ日の動きとあいまって、さわやかな音に気持ちがよくなる。はげしい雨がざーっと降る音。なにか重たい空気に囲まれているような、閉じ込められているような感覚におちいる。それは、雨音が大きくて普段聞こえる音が聞こえなくなってしまうからであろうか。朝の通勤で聞くホームのアナウンスや電車の音。有無を言わさぬ音量の大きさが眠たい頭を覚醒させる。よし、今から仕事だという気分に切り替わる。夜のレストランでのざわざわとした音。にぎやかな雰囲気の中でお酒も入って気分が盛り上がる。そして、そのざわざわとした中で自然に会話の声が大きくなりさらに気分がたかぶったりする。
 人は空間を視覚・聴覚・臭覚・触覚・(まれに)味覚の五感を複合的に使って認識している。人が感じる情報の80%は視覚で認識されるものであるといわれているように視覚情報で認識することの割合が多いことに疑問はないのだが、聴覚で感じる情報というのは他の感覚と比べてみた場合に、日常生活の中でハッとさせられることが多いように思える。もちろんこれらの感覚は聴覚以外の他の感覚と合わさって総合的にその空間を認識した結果である。さらには、その時々の状況と組み合わさることによって起こる感情の変化である。しかしながら、それが感情の変化をもたらす重要なトリガーの一つとして機能していることは興味深い。空間を認識する感覚といっても漠然とした話ではあるようにも感じられるが、個別の要素に分けてみると、それぞれの要素の意味が浮かび上がってくる。

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