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スタジオOJMMが企画編集する連載コラム、7年目となる2009年は、「建築ノオト2009」(全12回)。

第2回、2月号の内容は

豊田高専建築学科助教、加藤悠介の「建築学科の人気を高めるには」
カフェオーナー、浅海恵美子/白滝素子の「建築の本はブックカフェによく似合う」
大阪ドーナッツクラブ代表、野村雅夫の「京の映画文化を牽引する優等生 ~京都シネマ~」
建築家、南野優子の「地下街考」

4人の執筆者が、それぞれ違った視座から建築周辺の話題を綴るコラム、お楽しみください!

研究室(先月のコラム写真から6歩下がって撮影)

加藤悠介

豊田高専建築学科助教
愛知県豊田市
加藤(悠)研究室
豊田工業高等専門学校 建築学科

建築学科の人気を高めるには

「建築学科は人気がない」と言うと驚かれるかもしれない。普通、工学部では建築学科の人気は高いからだ。でもそれは大学の話で、高専になると事情が異なる。高専はいま入試シーズンである。人気を測る目安となる入試倍率が出だしているのだが、建築学科は低迷している。十数年ほど前はトップ近くを走っていたらしいので何か原因があるのだろうと思い、少し考えてみた。

  • 建築業界の全体的な印象:当然のことながら姉歯問題からこっちあまりよくない。高専受験には親の意向が強く反映するため、社会的ニュースのインパクトは割り増しされる。
  • 高専=ロボコン:NHKが大々的に取り上げてくれるおかけで一般的なイメージはこれではないだろうか。機械・電気系の学科の人気は高い。
  • 偏差値への過剰な信頼:どうせ受けるなら偏差値の高い学科にしておけば安心だという幻想が少なからずある。
  • 中学の教科書:建築についての記述は残念ながら理数科目でもほとんどみられない。

 要するに、建築の楽しさが中学生に十分伝わっていないのだと思う。文化なども含む建築は複雑すぎて普通の中学生には手に負えないのだろうか。かといって、ませた中学生なんているのだろうか。とにかく、僕としてはこの状況を好転させたいので、「14歳の〜」などとタイトルが付く本を読んで中学生の興味を理解しようとするけれど妙策は思い浮かばない。(いいアイデアをお持ちの方は教えてください)
 ただ、実際に教えていると、楽しそうに建築に向き合っている学生は少なからずいるのだ。それには志望学科の順番は関係ないし、トレース課題であっても楽しんでいるかどうかは伝わってくる。こんな姿を中学生に見せられたらどれほどいいだろうと思う。つまり、僕の目の前にいる学生たちに建築の楽しさについて丁寧に教え、彼らの生き生きとした様子を何らかの形で伝える以外、偏差値幻想などには勝てないと思う。当たり前のことでしたね。

 

浅海恵美子/白滝素子

カフェオーナー、美術館のもぎり/お抱え料理人
大阪空堀
Books & Cafe LOW

建築の本はブックカフェによく似合う

はじめまして!今回は白滝に代わりブックス&カフェ・ロウの書籍担当、浅海が書かせていただきます。彼女と私は店番も日替わり、コラムも月替わりということで、2ヶ月に一度交互に登場します。
大阪空堀(からほり)にあるロウはたった六席の小さなブックカフェです。置ける本の数も知れていますが、それを読むことで心のどこかが変化しイマジネーションが広がる。そのような本でできた濃密な本棚を作れればと妄想しています。
さて、うちの店には何冊かの建築本が並んでいます。建築の仕事をしているわけでもないのに、本屋さんの建築書コーナーを覗くのはとても楽しいです。何故ならそこには本好きの心を沸き立たせる魅惑的な本がごろごろと転がっているから。
そこで私が初めて買ったのは、ル・コルビュジエの『小さな家』でした。この本に魅せられ建築という果てのない世界に迷い込んだ人は私だけではないはずです。ご存知のようにこの本はコルビュジエが小さな家を建てて30年ほどして執筆されました。居心地良さそうな小さな家の写真とコルビュジエ本人が描いた味のあるデッサン、やさしい言葉で綴られたこの本は建築書というより一編の物語のようです。
その家があまりに幸福そうなので、これを読んだ私は小さな家を建ててそこに暮らしてみたい、そうすれば幸せな人生を送れるのではないかしらと思っていました。それから時がたって・・私は小さな店のオーナーに。コルビュジエの作った家とは比べものになりませんが、ロウは私にとっての『小さな家』なのかも知れません。 小さいことをマイナスととらえず動きやすさや親密さにつなげること。虚飾を取り去り、大切なものを残すこと。小さな家に教わったそうしたことを日々積み重ねていけるなら、私たちの店も心地よく年月を経て、いつかロウの物語を書ける日が来るかもしれません。
(浅海恵美子)

COCONの外観。エフエム京都α-STATIONもここにある。

野村雅夫(MASAO)

大阪ドーナッツクラブ代表、
ラジオDJ
京都、ローマ
大阪ドーナッツクラブ
エフエム京都αステーション

京の映画文化を牽引する優等生 ~京都シネマ~

 かつて河原町三条にあった京都朝日シネマ。娯楽のみならず文化としての映画を上映する、所謂ミニシアターの興行形態をこの街に定着させた良質の映画館だったが、親会社の方針転換から2003年惜しまれつつも閉館した。支配人だった神谷雅子氏が自ら会社を興し、映画を観る最良の場所を目指して種々の苦労をはねのけ、烏丸四条COCON烏丸3階に開業したのが京都シネマである。
 利便性の高いビジネス街に立つこのビルは、1938年の建造物を隅研吾氏が2004年にリノベーションしたものである。建築当時の南洋材を磨き直した寄木の床と、唐長文様をあしらったガラスのファサードが「古今」の時を繋ぐ、古都に相応しい複合商業施設だ。立地・建築ともに申し分ないが、テナントとして他の店舗やオフィスと共存する以上、スペースにも条件にも制約がある。そこに三つのスクリーンとホワイエ、トイレを盛り込まなければならない。とりわけこだわったのは音響だ。髪の毛に鋏を入れるような微細な音もしっかり聴こえ、なおかつ他のテナントの邪魔にならないようなものを作る。この矛盾を孕んだ使命を成功に導いたのは、建物の中にもう一つの建物を嵌め込むという入れ子構造の採用だった。結果として、映画監督をはじめとする業界人に「日本一の音響」と言わしめるほどの空間が完成した。神谷氏の著書『映画館ほど素敵な商売はない』(かもがわ出版)を読むとよくわかるが、マイナスに思える要因をプラスに転化してしまう知恵と努力の結晶がこの映画館なのである。
 誰でも自由に出入りできるホワイエには、教育・交流の場でもある映画館を通して、地域に文化的な貢献をしたいという神谷氏の情熱が反映されている。今年の12月で、開業5年の節目を迎える。安定経営を維持しつつも、映画館の可能性を広げるべく、様々な角度から練り直しを進めていくつもりだという。名実ともに京都の映画文化の核である「優等生」京都シネマ。今後がますます楽しみだ。

 

南野優子

建築家(設計事務所勤務)
大阪

地下街考

毎日、通勤で梅田の地下街を通る。JR、地下鉄、阪急電車、阪神電車それぞれの方向から各々の目的地へと向かう複雑でありながらもスムースな人の流れは、毎日見ていても飽きることがない。そして世界でも有数の規模を誇る梅田の地下街は、実に多様なプログラムを持ちあわせている。各交通機関をつなぐ通路としてはもちろんのこと、様々なショップや飲食店、ビルへの出入り口、広場など都市に存在するものはほとんどあるといっても過言ではない。また、雨の日や冬の寒い日、夏の日差しが強い時などには、避難場所として屋外から駆け込むことも多い。そして、地下街だけを通って週末の諸々の用事を完結させることも可能だ。
とはいえ、気候がよいときは人通りが多く天井が低くて圧迫感のある地下街よりもできるだけ地上を歩きたくなる。それは、地下街の空間の閉鎖性によるものと平面的な分かりにくさが大きな理由だ。長く続く地下街を歩いているうちに自分の位置を見失い、蛇行した通路を歩いた時などは方角も把握できなくなる。そんな状態で複数の通りが交わる結節点に出くわすと、頭はさらに混乱する。何度も通っている場所でさえ、天井からぶら下がっているサインを頼りに目的地に向かう始末である。
地上ではビルなどのランドマークになるものを指標にしながら歩いている。高いビルなどのランドマークと自分がいる場所を相対化することによって知らない目的地にでもたどり着くことができる。しかし、地下ではそうはいかない。噴水や広場などのランドマークがあったとしても、目の前に見えてくるまではそれを認識することはできないから、基本的には目の前に見えるものだけが場所を判断する基準となる。人間が空間を認識する本能的な感覚は、地下では発揮しづらいのかもしれない。
とはいえ、地下街は都市をつくっている大きな要素のひとつであることには違いない。上空からは決して見ることができないけれども。

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