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スタジオOJMMが企画編集する連載コラム、6年目となる2008年は、「建築ノオト」(全8回)。

第5回、9月号の内容は

美術家・現在上海にて新入社員、安福真紀子の「上海、現代美術の風景」
絵描き、鈴木啓文の「路地へむかう入口にたつ」
インテリアコーディネーター、ユイコの「ベビーカーとバリアフリー」
大阪ドーナッツクラブ代表、野村雅夫の「団地は暖地? それとも寒地?」
(ラクガキ ~不定期掲載、編集後記的な座談会~)

4人の執筆者が、それぞれ違った視座から建築周辺の話題を綴るコラム、お楽しみください!

画廊のオープニングパーティの様子

安福真紀子

美術家、現在上海にて新入社員
ドイツから上海へ
スペクテリー
アート&デザイン各種
ドッペル デー
ドレスデンから現代アート

上海、現代美術の風景

今、中国のアートシーンが熱い。9月上旬は、世界的な美術展覧会である上海ビエンナーレが始まること、各種アートメッセが開催されることにともなって、あちこちの画廊で、気合いの入った展示が行われている。 上海の中心地から少し北のほうに莫干山路50号(略してM50)という場所がある。広い工場跡地が国の援助を得て、美術画廊や美術家のアトリエスペースとなった。美術書の書店や画材店、カフェも併設されており、アート好きには必見の場所である。ここのオープニングパーティに出かけてみた。
夕方5時頃、入り口には、タクシーがつぎつぎと乗り付ける。観客は、中国人と外国人が半数ずつくらい。あちこちに出ている看板を見ながら、興味のあるスペースに入っていく。玉石混合である。多いのが、共産党員をコミカルにきつい色で描いた絵画。ある作家がこのスタイルで有名になったため、それに便乗しようとしているのだろうか。また、毛沢東礼賛とも皮肉ともとれる作品。こういうものが、外国人には受けるだろうといった魂胆が見え見えで、ちょっとうんざりする。年配の画家は、プロレタリアアートの影響をもろに受けているものの、きちんと描く技術をもっている。都市の変貌を巨大なキャンバスに描く画家と話をする機会があった。彼曰く「上海は、なにもかもすっかり高くなってしまった。アーチストたちは、今、みんな北京に向かっている。北京が面白いんだ」と。芸術に真摯であるには、凛とした冷たい空気が必要なのではないかと、とりとめのないことを真面目に思う。
この日、圧倒的に印象深かった作品は、楊福東のビデオインスタレーションだろう。直訳すると「雀村の東」という題名の村はずれに暮らす野良犬たちの生活を追ったものだ。生きていくための最低限の行為ー食を得ることーのみに生きるやせ細った野良犬の様子が、生きるとは何かを問わせ、また人間の普遍的な営みや世界中の貧困に喘ぐ人々を思い起こさせた。哀しく静かに語りかける強い作品だった。

JAM POT(大阪市北区中崎3-2-31)

鈴木啓文

絵描き
大阪
小春日和

顔写真撮影 しんやちひろ

路地へむかう入口にたつ

全体がみえる限り近くに立って描く。
駅前の、赤バス通りに面したお好み焼き屋隣の看板建築。その隣立体駐車場との間に路地が。
この斜め向いの音楽スタジオに通っていた女性は写真もたしなみ、被写体を求めて路地に吸い込まれていく。
そしてここ路地の入口の角地にフランス雑貨店を作り上げた。店にはバス通りにも路地にも窓が開かれている。
バス通りにちいさい映画館ができ、もと音楽スタジオのビルにはちいさい店が集まるようになり、 路地にはギャラリーから駐車場の壁に幻燈がともり、裏手の平屋に町の先輩にあたるカフェが移転してきた。
そして路地を抜けたところ別のお好み焼き屋から右手の公園を抜けて次の路地へ、銀杏の木の下の雑貨店と、 この秋行き交う。かつての店主同様、ここがこの町を回遊する起点に在るのだ。

描いていると、雑貨店とはあまり関連のない、壁のもようや電柱や室外機電気ガスメーターなど、
普段の世界を支えているものが見えてくる。窓のなかはさらにちっちゃく可愛らしいものであふれていてとても追い切れない。
一カ所に立ってその面を描いている時点で、それはその建築のいち断面にすぎないし、たとえ全部把握できても数十cm四方の紙に鉛筆で再現できる情報は知れている。
だからこそワタシは見える世界をきーとなりながらその場で写し取る作業が嫌いではない。
魚眼的ともゆわれるが、ワタシはただ自分が立つそこから見えるかたちをそのまま描きたく未だ至らないとゆうのが現状で、全ての建築はワタシには克服すべき壁だ。この連載は早くも後半戦。

 

ユイコ

インテリアコーディネーター
(インテリア関連メーカーショールーム勤務)
大阪

ベビーカーとバリアフリー

まるでおとぎ話のような、フリル付の白いベビーカーを押しているママを見かけたことがある。少し大きめのワゴン状で、金色のバー。中を覗いて見たら、なんとかわいい双子の赤ちゃんがすやすやと眠っているではないか。思わず「かわいいですね」と話しかけると、「ええ、世話は大変ですけど。寝顔が一番かわいいかな」とのお返事。確かに一人でも手がかかるのが赤ちゃん。初めての育児で一挙に二児の母というのは、さぞかし忙しい毎日だろうとお察しする。夢見るベビーカーを押していたのは、ノーメイクに普段着の、ごくごく現実的なママだった。
ブランドにはこだわらない私たち夫婦だが、多種多様な育児グッズの購入に当たって、最も吟味したのはベビーカーである。最初は軽くてかわいいものを、と漠然と考えていたくらいだったが、その種類や機能の豊富なこと。乗っている本人に震動が少なく快適かどうか。眠った時に座らせたままでリクライニングできるかどうか。押している大人にとっては、パパママいずれの場合も腰に負担の少ない高さかどうか。折りたたみ時の自立性。どれも実際に使用するシーンを考えると、はずせない重要なポイントだ。建築中の我が家はポーチに5段の階段がつく。これを念頭におきつつ、コンパクトで、なおかつデザイン性、機能性共に満足のいく一台に出会えて、私は断然外出が楽しくなった。
毎日のお出かけ、いざベビーカーを押してみると気づくことが多い。今まで気にもかけなかった段差。横断歩道の点滅や、EV扉の開閉の速さ。妊娠中は動作がゆっくりになって、足元も見えにくくなるので、高齢者の気持ちがよく分かると言われたけれど、今は車椅子の人の大変さがよく分かる。せめてもの思いで、スーパーの入口を塞ぐように散乱したショッピングカートを見つけた時は、店員のごとく片付ける私。バリアフリーについて考えさせられる育児休暇である。

寒さにこごえる団地

野村雅夫

大阪ドーナッツクラブ代表、
ラジオDJ、大学非常勤講師
大阪、京都、ローマ
大阪ドーナッツクラブ
FM京都αステーション

団地は暖地? それとも寒地?

団地ブームが静かに継続中だ。萌えに飢えるこの現代、巷では「団地萌え」という言葉すら出回っている。高度成長期に日本の景色を変えたこの均質的な建築物とそのコミュニティーのあり様について、人はどんな想いを抱いているのだろうか? 無数の家族とその構成員が高い密度で寄り添う「一団の土地」。それは古の長屋的に濃密な人間関係を生み出すこともあれば、外部を覆うコンクリートと内部を居住者の数だけ細切れにする無数の壁や扉が住居者同士の繋がりをも仕切って希薄なものにも変えてしまう。団地居住歴ゼロの僕でさえ、プラスマイナス両面の入り混じった独特の床しさに駆られるくらいだから、実際にそこで一定の時間を過ごした人の胸中に去来するものはさぞかしディープなことだろう。
邦画でこの共同住宅を表象したものは枚挙に暇がないのだが、僕が眼を閉じて自前の網膜銀幕に上映するのは、『耳をすませば』(近藤喜文、1995年)と『家族ゲーム』(森田芳光、1983年)の2本である。二段ベッドで寝起きする姉妹。階段の昇降時にご近所と交わす挨拶。前者は人々の温もりのある結びつきを軸に団地を暖地として描きながらも、『カントリーロード』を「コンクリートロード」とパロディーにしてしまうあたり、都会からずんずんドーナツ化する住宅開発に対する批評眼を忘れてはいない。一方後者は、その批評の視力をシニカルにそしてコミカルに研ぎ澄ませる。横一列に並ぶ家族の儀式的団欒。突っ込んだ会話の場所として父親が偏愛する駐車場の自家用車。家族の視線はいつもさめざめとねじれの位置にあり、この作品における団地は、あくまで寒地として捉えられている。思えば「団地妻シリーズ」の女性たちも、精神の冷えを肉体の熱気で紛らわしていたものだ。人間関係の厳しい寒暖の差。ワイドな振れ幅の中で微妙な位置に立ちすくむ団地。この建築様式はひとつの時代を作ったわけだが、同時に多様な物語をも育んでいたのだ。

今回は中崎町の某カフェにお邪魔しました。

参加者:
安福真紀子
牧尾晴喜(スタジオOJMM)
森本光亮(スタジオOJMM)

ラクガキ ~不定期掲載、編集後記的な座談会~

(一同、カフェにてまったり。何となく座談会が始まる。)


牧尾: 一時帰国中のお忙しいところ、ありがとうございます。

安福: いえいえ、久しぶりの日本はいいものですね。

牧尾: ではまず、ドイツから中国へ移動した理由をうかがいましょうか。

安福: やはり、仕事のタイミングが大きかったですね。上海という街も魅力的だと思いました。

森本: 別にドイツに飽きた訳ではないんですね(笑)

安福: そうですねー(笑)。まあ、「都会」に住みたいという思いがありました。

牧尾: そういう意味では、上海はうってつけですね。街はどんな感じでしょう?住人も含めて。

安福: 人が多くて賑やかですね。

牧尾: 例えば、ここ大阪と比べてどうですか。

安福: 大阪より騒がしいです。話し声もけんかの声も大きくて、通りでもすぐにクラクション鳴らしたりしますし。

森本: 雑多な感じですか?

安福: はい。「汚い」と「綺麗」の両方が混在しています。ゴミもその辺でポイポイ捨てるんですよ。でも、人は温かくて人間味にあふれていますね。

森本: オリンピックで街の雰囲気はどうでしたか?

安福: とにかくオリンピック一色でした。開会式の日は、社員一同、早めに退社しました。レストランで友人と開会式を見ながら、そこにいた中国人青年と話したのですが、彼がしきりに「中国人として、自分の国を誇りに思う」と言うのが印象的でしたね。上海では2010年に万博があるので、また盛り上がりそうです。

牧尾: なるほど。新しい街をまさに体感しているようですね。今後も上海の空気を感じさせるコラム、楽しみにしています。


(座談会、何となく終了。一同、引き続きお茶を楽しむ。)

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